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絶対的な高嶺の花、学園最強のアイドルは俺の幼馴染で通い妻。  作者: 卯月緑
絶対的な高嶺の花、学園最強のアイドルは俺の幼馴染で通い妻。
20/37

ライブを終えて。エピローグ

一章はここまでとなります。

お読みいただき、本当にありがとうございました。

これからも頑張ります。


 ライブを終えた潤たちは最高の気分で打ち上げを行い、そして笑顔で別れた。

 残るは達成感と充実感に、祭りの後特有の寂しさ。


 しかし皆が別れた後に、一部の女の子たちは再び真剣な表情で集まり始める。


「ここから先は、元々のメンバーたちだけの反省会ッスね」

「うん……。今回はみょこやマコ、結菜さんや伊織くんのおかげでなんとかなったけど……」

「次からはまた、自分らだけで頑張らないとダメッスからね」

「特に私は不甲斐ないリーダーだったから、猛反省して頑張らないといけないね」


 それは結菜や美代子たちを除いた正式なバンドのメンバーたち。

 彼女たちは自分たちのバンドの将来を考え、大成功を収めたライブの後でもミーティングを行おうとしていた。


 メンバーたちは余韻に浸り続けることなく、真面目な顔付きで集結し――。

 そして最後の一人となったギター担当の女の子が、大声を上げながら走り込んでくる。


「じゅ、潤、潤! た、大変なことになった!」

「ど、どうしたの?」


 彼女はメンバーたちの注目を集める中、少しでも早く話そうと息切れしながらも口を開く。


「結菜さんたちの、お、置き土産……!」

「……結菜さんたちの置き土産?」


 (いぶか)しんだ小声を出す潤に対し、ギターの女の子は何度か深呼吸をすると満面の笑みで答えた。


「もう一度ライブが出来るんだよ! 私たちのライブに興味を持ってくれたお偉いさんが私たちの事情を聞いてくれて、その上でもう一度ライブに誘ってくれたんだよ!」

「…………」


 潤はあまりのことに理解が追いつかず、ぽかんと口を開いて固まってしまう。

 だが横にいた理緒はすぐに反応し、嬉しそうに身を乗り出して(たず)ねた。


「そ、それってもしかして、今度は自分ら五人でステージに立つことが出来るんスか!?」

「その通りだよ! 結菜さんたちがもう一度チャンスをくれたんだよ! 私たちの曲と演奏が、また明日に道をつなげたんだよ!」


 ワーッと湧き上がる大歓声。

 しかし潤はそれを、どこか別の世界の出来事のように聞いていた。

 メンバーの四人は喜びの言葉を叫びながらはしゃぎまわり、口を開けたままの潤は、そんな彼女たちを散漫(さんまん)な動きで見つめ続ける。


 やがて潤は(ほう)けたような口調で、ポツリとつぶやく。


「今度は私たち五人で、あのステージへ……?」


 その言葉を口にした瞬間、潤の目から一筋の涙が流れ落ちる。

 状況を理解した潤は、すぐさま両手で顔を(おお)って下を向いた。


「ウソ、そんな。私、さっきのライブはもうあれだけでも十分なのに、それ以上のプレゼントなんて……」


 混乱したように独り言を言うように、潤は顔を隠したままそう言った。

 ギターの子はそんな潤に近寄ると、穏やかな口調で話しかける。


「ウソじゃない。次こそ潤も理緒も引き連れて、みんなであのステージに立てるんだよ」

「…………」


 潤は少しの間黙り込んでいたが、やがて感極まったように声を出して泣き始めた。

 隣にいた彼女は慌てて潤の肩を抱き寄せると、口を開く。


「あー、泣くな泣くな。まだ喉も完全には治ってないんだし、大声で泣き出したらぶり返すかもしれないよ?」


 その言葉で潤の泣き声は止まったが、しかし顔を上げて笑うことは出来なかった。

 潤は声を出さずに泣き続け、ギターの女の子は苦笑しながら話し始める。


「ま、しょうがないか。あなたは元から感受性の豊かな子だったしね。声を出さないのなら好きなだけ泣くといいよ。私なら何時間でも付き合ってあげる」


 彼女は潤にハンカチを差し出し、そして言葉を続けていった。


「でも、あなたはその豊かな感受性で素晴らしい詞を書いているんだ。泣くのも決して無駄じゃないはず。それに、そんな潤の詞があってこその私たちのバンドだしね」

「そうッスよ。そのリーダーの詞にみんなで曲をつけていくのが、これからも続いていく自分らのスタイルッスよ」

「うん。だから今は声にさえ注意すれば、思う存分泣いてもいいよ。ライブ前に喉を痛めたときには、責任感からか必死で泣かずに耐えていたしね」


 またも感情があふれ出したのか、そこで潤は一層肩を震わせ始めた。

 メンバーたちは改めて顔を見合わせて苦笑し、ギター担当の子は意識して明るい声を出す。


「よし、リーダーは作詞作業(・・・・)に入ったから、しばらくは代わりに私が音頭を取るよ。これから私たちは結菜さんと伊織くん抜きで、二人に負けないようにライブを成功させないといけないんだからね!」

「そうだったッス! 大変ッスよ! ……自分も着ぐるみ着たほうがいいッスかね?」

「理緒は伊織くんと違って最初から女の子だから、大丈夫だって。私たちは背伸びをせず、これからもガールズバンドとしてやっていこう」

「お、押忍(オス)!」

「いや、わかってる? ガールだからね? 女の子だからね?」


 メンバーたちはそこで笑い合い、潤も下を向いたままクスリと笑った。

 そうして潤は小さな声で、その場にいない者たちへと言葉を送り始める。


「ありがとう結菜さん、伊織くん。みょこもマコも感謝してる。今度こそ私たち、きっとやり遂げてみせるから……!」


 潤はメンバーたちの輪の中心で涙を流しながら、静かに感謝と決意の言葉をつぶやいていた。



    ◇



 打ち上げを終えた結菜たちは、四人で一緒に帰り道を歩いていた。

 すでに彼女たちにも、潤たちの次のライブが決まった知らせが入っている。

 結菜は学校でいるときのように穏やかに、そして満足そうな口調で話し始めた。


「めでたしめでたしだね。潤ちゃんたちの体調ももうすぐ良くなるみたいだし、大団円(だいだんえん)と言えるんじゃないかな」


 伊達メガネ等で若干変装した彼女は、そう言って「うんうん」と大きく二度頷いた。

 すぐに美代子と真琴がその言葉に続いていく。


「あたしもそう思う。後は潤たちの頑張り次第だ。結菜のあの歌の後にライブするのは大変そうだけどね」

「伊織くんの着ぐるみも結構な騒ぎになってたと思うから、理緒ちゃんも大変なんじゃない? 伊織くん、カッコよかったよ」


 そして名前を出された伊織は、前を向いたまますぐに答えた。


「理緒ちゃんなら可愛いから大丈夫だよ。着ぐるみを着なくても十分通用するって」


 それは彼の本心。伊織は他意なく客観的な意見としてそう答えていた。


 ちなみに彼が理緒のことを下の名前で読んでいるのは「自分体育会系なんで、センパイに名字呼びもさん付けされるのも耐えられないッス」と言われたからなのだが――。


 伊織はそのことを知っているはずの美代子から、凄まじいジト目が向けられていることに気付く。

 彼女は伊織が(ひる)んだことを確認すると、ため息混じりに声を出した。


「この男って、本人の前でもこういうこと平気で言うよね」


 深々と頷く女性陣たち。

 真琴は嬉しそうに会話を継いだ。


「その結果がこれだね。いつの間にか美少女として名高い二人を(はべ)らせてる。両手に花だよ。片方は毒持ってるけど」


 美代子はその言葉でキッと伊織を(にら)みつけ、伊織は今度はなんとか言葉を返した。


「なんで俺が睨まれてるの? というか美代子さん、さっきから俺に当たりが強すぎない?」

「ふん。心当たりはないわけ?」

「……あります」

「あるんだ。どんなことか言ってみてよ」

「思い返してみれば、前に真っ赤な顔をした美代子さんにデートに誘われたことがあって――」

「で、デートに誘ったわけじゃないから! あと、顔も真っ赤なんてしてないし!」


 頬を染め上げて伊織に絡む美代子を、結菜と真琴は微笑みながら見つめていた。

 すぐに真琴が嬉しそうに、目の前の状況と結菜に話す。


「ミミはすっかりめんどくさい女になっちゃってるね。ツンデレとも言えるのかな?」

「うーん、でもあれ、伊織は全然萌えてないと思うよ。素でオロオロしてるだけだと思う」


 美代子は結菜のその発言で、一瞬で顔を真っ青にさせていく。

 彼女の変化を間近で見た伊織は、慌てて結菜に声をかけた。


「お、おまえは余計なこと言うなって」


 だが彼の発言は失言だった。

 美代子は再び怨念のこもったジト目で、伊織のことを睨みつける。


「あなた、普段は結菜のことをおまえ呼びしてるんだ?」

「…………」


 伊織は己の不利を悟り、肩を落として黙り込んでしまった。

 そんな彼の姿を見た美代子は、フッと表情を緩めると彼に肩が触れるほどまで近付く。


 そして、嬉しそうに結菜に話しかけた。


「でも、結菜と伊織くんって本当に幼馴染だったんだねえ」

「そうだね。赤ちゃんの頃からずっと一緒なんだよ」

「全然わからなかったなあ。でも今では完全に幼馴染だと理解してるんだよ。不思議な感覚だ」

「ふふ。ありがと」


 二人の会話には、間を置かずに真琴も参加する。


「私も同じ感想。結菜と伊織くんって、なんというか熟年夫婦みたいな安定感があるよね」


 結菜は笑い、「十七歳を捕まえて熟年はないんじゃないかな?」と返事を返した。

 そしてその横で、美代子は夫婦という言葉に反応してまたも伊織を睨みつける。





 四人はそうやって、ゆっくりとした足取りで帰り道を歩いていた。

 しかしある時、不意に真剣な表情になった美代子が、伊織越しにその先にいる結菜を見つめた。


 彼女にはライブが終わってからずっと、結菜に尋ねたいことがあったのだ。

 幼馴染の前で、今までどおり伊織の横に立つ美代子。

 美代子はそれをどういう思いで結菜が見つめているのかを、ずっと確かめたいと思っていた。


「あのね、結菜。あなたは本当にこれで大団円だと思ってるの?」


 彼女は会話の合間を見て、結菜にズバリと切り込んだ。

 結菜は美代子の口調で発言の真意を察し、彼女のその表情を見ても驚くことはなかった。


 香月結菜はいつも学校で見せているように、穏やかに微笑む。


「うん、思ってるよ。せっかく二人にも私と伊織の関係を知ってもらえたんだもの。二人とも仲良くして、これからもっともっと楽しい毎日が送れたらなあって思ってるよ」


 二人の少女はそこで目と目を合わせ――そして改めてお互い微笑んだ。

 短い間の出来事だったかもしれないが、その瞬間はお互いの記憶に強い印象として残った。


 少し茶目っ気に笑った美代子は、口調を変えて結菜に尋ねた。


「結菜ってライブ中に、あたしと目が合ったよね?」

「そうだね。一曲目のお休みの最中かな」

「……その時に私の表情見たんだ?」

「うん、見たよ」


 あっけらかんと答えた結菜に美代子は苦笑し、やがて心から感心したように口を開く。


「あなたはあの恋の歌で、すべてを引っくり返して丸く収めたんだね」


 美代子はその言葉を本気で言っていた。

 だから結菜の「さすがに買いかぶり過ぎだよ」という言葉にも答えず、すぐに笑って彼女は想いを告げた。


「ありがとう結菜。これからもよろしくね」


 それには結菜も驚いたらしく、少しの間目を丸くして動きを止める。

 しかしやがていつものように柔らかに微笑むと、優しい声色で返事を返した。。


「うん、こちらこそよろしくね」


 彼女らは握手こそしなかったが、あたかもその代わりのように、二人とも伊織との距離をさらに縮めるのだった。





 門倉伊織は二人の女の子に両脇を挟まれ、どうするべきかを迷っていた。

 助けを求めるように真琴に視線を送っても、彼女もニコニコと笑顔を返してくるのみ。


 彼は困り果て、また何か問題が発生するのではないかと、やや体を強ばらせながら二人の間を歩いていた。


 そんな彼に、隣を歩く幼馴染が優しく声をかけた。


「伊織、後はあなただけだよ」


 驚いて振り向く伊織に、結菜は明るく笑いかける。


「学校でいる時のように、神経質に警戒しなくてもいいんじゃない? ここにはもう、私たちのことを知る人しかいないんだから」


 ますます目を見開いていく伊織に、結菜は話を続けていく。


「たぶん、ミミちゃんもわかってると思うよ。伊織も潤ちゃんが言ってた言葉、覚えてるよね?」


 固まっていた伊織の思考に、さらにガンと殴られたような強い衝撃が加わった。

 潤が言っていた言葉。

 二度とは戻らない瞬間を、最高に楽しむことがライブの醍醐味。


 しかしまだ少し照れが残っていた伊織は、頭をかきながら結菜に答えた。


「俺、あんまり潤さんとは話してないんだよ。だからあの人のイメージは、青春って言葉をよく使う熱い女性ってイメージが強いんだ」


 結菜は今日一番に嬉しそうに笑うと、彼に言った。


「それ、今はちょうどいい言葉じゃないかな」

「え?」

「青春。潤ちゃんも、バンドのみんなも、そしてここにいる私たちも、今まさに真っ最中の言葉」

「…………」


 彼の体の強ばりが、ゆっくりとほぐれていく。

 周りを見ると、美代子も真琴も彼のことを微笑みながら見つめてきていた。


 伊織もとうとう微笑むと、空を見上げながら口を開いた。


「二度とは戻らない青春の日々、か。たしかに潤さんの歌に出てきそうな言葉だ」

「潤ちゃんの歌、感動しなかった?」

「した。最高だった。ライブしてるときは必死でわからなかったけど、終わった後はものすごく感動した」


 彼は前を向くと、嬉しそうに大きく頷く。


「うん、俺もいつか後悔しないように、今この瞬間をしっかりと歩いていくことにしよう」


 そう心に決めた彼は、自分の気持ちが信じられないほど軽やかになっていくのを感じた。

 迷いがなくなった伊織は、彼女たちと改めて目を合わしていく。

 同じ時間を生きる者として、一生に最高に楽しめたらいいなと考えながら、彼は彼女たちに声をかける。


「これからもよろしくね、美代子さん、真琴さん」


 そして最後に残ったのは、生まれてからずっと変わらない、いつもの相手。


「これからもよろしくな、結菜」

「こちらこそ。よろしくね、伊織」


 二人は頷き合い、四人は並んで仲良く歩き始める。


 残るは達成感と充実感に、そして未来への強い希望。

 彼らの青春は、まだ始まったばかりだった。



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