表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】青薔薇姫のやりなおし革命記  作者: 枢 呂紅
5.姫殿下の覚悟と、王の器

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/155

5-17




「だがな、クロ。てめーはだめだ! 次に来た時は、うまい飯をいっぱい奢らせてやるから、覚悟して来い!!」


「なっ!?」


 城郭の外からびしりと指さして、目を三角にしたエドモンドがクロヴィスに叫ぶ。そんなやり取りに周囲が笑い声をあげる中、アリシアの胸はどきどきと音を立てていた。


 アリスという架空の人物ではなく、王女アリシアとして。

 それでも彼は、アリシアを友と呼んでくれた。


「アリシアさまー!」

 

「クロさーん!」


「ありがとー!」


 世話役がぺこりと頭をさげ、子供たちが口々にさけびながら、こちらを見上げて手を振る。ともすれば、アリシアの目からは涙がこぼれそうになって、王女は塀の石の影にひっこみ、ちょっぴり顔を隠した。


 その傍らで、補佐官が柔らかく微笑んだ。


「民とうまくやるのが下手。やはり、そんなことはなかったのでは?」


「……お前、わかっていて、私を泣かせにかかっているわね」


「主人の功績を称えるは、臣下の務めと心得ますれば」


 胸に手を当てて恭しく答えてから、クロヴィスは紫の瞳に主人を映した。


「従えるのではなく、集める」


 きゃあきゃあと響く子供たちの笑い声や、何やら軽口を飛ばしあうロバートとエドモンドの声が、風に流れてアリシアたちの間を駆け抜ける。そんな中でも、補佐官が紡ぐ低めの澄んだ声が、一際はっきりと王女の耳を震わせた。


「君臨するのではなく、並び立つ。……民の心が離れ、滅亡を迎える国。そんな未来を変えるには、あなたのような王こそが、必要ではないでしょうか」


 強い風が吹いて、アリシアの空色の髪が、ふわりと大空に舞った。


 夕陽の中に佇み、黒髪を風に揺らす青年から、アリシアは目を逸らすことができなかった。その真剣な表情が、ごまかすこともはぐらかすことも、彼女に許してはくれなかった。


 不思議と、アリシアの心は静かに凪いでいた。王国の未来を託す。そう星の使いに告げられたときから、いつかはこうした覚悟を求められる日がくることを、どこかで予想していたのかもしれない。


 自分に務まるだろうかと、アリシアは考えた。


 ぽっちゃりと人好きのする外見で親しまれながら、その懐の深さと優れた先読みの力で、賢王とたたえられる父。


 苛烈な性格で恐れられながら、圧倒的なカリスマ性と何者にも代えがたい手腕とで、大国を統べる隣国の女帝陛下。


 アリシアの周りにいるのは、偉大な人物ばかりだ。


 けれども。


(けれど私は、もう見て見ぬふりはしないって、決めたんだ)


 リディ卿に何やらささやかれ、みるみる顔を青ざめさせていく世話役を見た時。握りしめた手を震わせながらも、懸命に食って掛かるエドモンドに心打たれた時。


 確かにアリシアは、一度は民から目を背けて、王国が終焉に向かうのを見逃してしまった。だからといって、今のアリシアが彼らを見捨てられるかというと、そんなわけがなかった。


 行かねばと思った。


 純粋に恋に胸を躍らせて、きれいなもの、好きなものだけを眺めて。

 そんな、普通の女の子としての人生は、手に入らなくなるかもしれない。


 しかし、王女として生まれた自分だから、出来ること。

 一度間違えた未来を持つからこそ、選び取れる道があること。


 なぁんだと、アリシアは一人つぶやいた。覚悟なんてものは、とっくの昔についていたんじゃないか。


「やってやるわ」


 夕陽に染まる町を見渡せるその場所で、少しの揺らぎもなくまっすぐに補佐官を見上げて、アリシアは凛とした笑みを浮かべた。


 強い方だと、クロヴィスは思った。10も年下の少女とは思えないほどに、覚悟を決めた王女の表情は凛々しく、そして美しかった。


「この国の次期王に、私がなってみせる」


 けれど、と王女は肩を竦めた。


「私はちょっと未来を知っているだけで、すばらしく頭脳が回るわけでもなければ、何かとびきり腕が立つものがあるわけでもないわ」


「無用な心配にございます」


秀麗な顔に完璧な微笑みをのせて、黒髪の補佐官はさらりと答えた。


「仮にあなた様が道に行き詰ることあれば、私が全力でお支えします」


「ええ」


 満足気に頷いてから、アリシアは己の補佐官の顔を覗き込んだ。


「頼りにしているわ。私の補佐官殿?」 


「はい。喜んで」


 だんだんと藍色に染まっていく空に、一番星がきらりと輝く。


 数奇なめぐりあわせで出会った、小さき姫君と美しき青年。そんな二人が回す歴史の歯車が、また一つ、変えるべき未来のために動き出そうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ