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電子書籍化記念小話 手紙を送る。

 祝! 電子書籍化記念ということで、小話を投稿しました。

 2000文字に満たない短文ですが、電子書籍の書き下ろし部分も、こんな感じです。

 後日談というよりは幕間的なお話となっています。

 シリアス3割、ほのぼの7割といった感じで、本編よりは明るめを心がけました。


 マルティン・マルティノヴィチ・グーリエヴァ様



 突然の手紙に驚かれたことと思います。

 たった一度出会ったきりですが、覚えておられますでしょうか?

 ミスイア皇国第一皇女 アレクサンドラ・アーレルスマイアーにございます。


 不勉強な自分は先頃知ったばかりですが、北の諸国をマルティン(あの時仰ってくださったままに、親しげにお呼びするのを、どうかお許しくださいませ)様が統一なさったとのこと。

 今では、北の大国ヴォルトゥニュ帝国の王と呼ばれておられるとか。

 幼き頃の誓いを全うされたマルティン様を誇らしく思うと共に、その数限りない苦難を心より慰労いたしたく存じます。


 さて、私事で恐縮ではございますが、この度。

 幼い頃、皇帝より命じられたディートフリート・ヴュルツナーとの婚約が破棄となりました。

 まだ公にはなっておりませんが、皇帝……父上が、絶対に破棄すると確約してくださいましたので、決定が覆される事態にはなりえませんでしょう。


 ミスイア皇国バルトロメオス・アーレルスマイアー皇帝より、ヴォルトゥニュ帝国マルティン・マルティノヴィチ・グーリエヴァ帝王へ、親書が送られているかと思います。

 お読みになられたでしょうか?


 婚約破棄の理由は、ディートフリート殿が不貞行為を働いた故です。

 お相手がお子を授かったとのことで、婚約の破棄を迫られました。

 色々と順番が違うのでは? と思ってしまいましたのは、どうかここだけの話にしてくださいませ。


 先方に理由があるとは言え、皇女の婚約破棄は外聞が悪すぎて、また地位が高すぎて、国内では良縁どころか、どんな縁でも絶望的に望めないでしょう。

 

 婚約破棄しろと叫ばれて、ただ一人側に居るのを許された人間に拒絶されて初めて。

 国を捨てる覚悟が決まりました。

 幼い考えを吐露するのは恥ずかしゅうございますが、マルティン様には知っておいて頂きたかったのです。


 他の国へ嫁ぐ選択肢が浮かび上がってきた時、誰よりも最初に思い出されたのがマルティン様でした。

 初対面にも関わらず、情けなくも泣いてしまった私を優しく慰めて、ね? 僕の国においでよ! お嫁さんになって? 僕が君を大事にして、一生側にいるから! と、そんな風に仰ってくださったのを、マルティン様は覚えておいでてしょうか?

 口約束にも満たないマルティン様の慈悲に縋って良いのかと、筆を進めている今も迷っております。

 

 神殿にて一生涯を神に捧げるという道もあるのだと、父上にマルティン様へ婚姻を希望する親書を送って欲しいと告げた後で、気が付きました。


 父上は、マルティン様の元へ正妃として嫁ぐ覚悟はあるのかと、問われました。

 私は、第一皇女という自覚を持った瞬間から、一瞬たりとも忘れた事はございませんと、そう答えました。


 神殿へ長く幽閉状態にあり、民や貴族と接する機会は少なからずございましたが、王族としての振る舞いは酷く拙いものでございましょう。

 マルティン様に絶望されてしまうかも知れない不安もございます。

 幼い頃の想い出は想い出でしかなかったのだと、失笑と共に指摘される可能性が高いのも重々承知しております。

 それでも、告げたかったのです。

  

 アレクサンドラを、マルティン様のお嫁さんにして貰えませんか?


 と。


 あの頃、日に日に傍若無人になっていく婚約者とは名ばかりの存在に縛られて、必死の思いで押し殺した、告げられなかった言葉を。

 婚約破棄が叶う今だからこそ。


 正妃はおられずとも、寵姫が多くおられるのも存じております。

 例え正妃となれず、寵姫の一人として迎えられたとしても、私がマルティン様を裏切ることはないと、それだけはお約束いたします。


 信じていた、信じていたかった人に裏切られた虚無を、マルティン様に与えるくらいならば死した方が余程理に適うと、そんな風に認識しておりますので、どうかご安心くださいませ。


 内容が内容だけに人に見せて確認頂くわけにもいかなかったがため、皇女としても拙く、初めて送る手紙とは思えない馴れ馴れしさを含ませる手紙となってしまったことに寛恕を請うて、末尾とさせて頂きたく存じます。


 マルティン様に、末永く多くの幸が降り注ぎますように。



                            アレクサンドラ・アーレルスマイアー

 完結して時間を置いた後で幕間を書くと、齟齬を生じさせないようにするのが大変ですね。

 電子書籍化にあたり修正をかけたところ、幾つかの齟齬を発見して冷や汗をかいたものです。

 人の目が入りましたので、幾らか読みやすい作品になっているのではないかと思います。

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