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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
番外編 栞編
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27 あふれ出す思い





 私に触れている吉田くんの手は震えていた。


「……どうして、パンをあげたのが俺だってわかったの?」

「ここでもらった焼きそばパン食べながら、吉田くんが走って行く所、見ちゃったの」

「え、じゃ、ずっと?」

「ごめんね。でもあたしもあんな所見られちゃって、恥ずかしくて言えなかっんだ」

 吉田くんにやっと言えた。あの時のこと。

「屋上に初めて一緒に行った時、その事聞いて確かめようかとも思ったんだけど、話が流れちゃったし、吉田くんが知らない振りしててくれたのが嬉しかったから」

 彼の制服が頬にあたって、大好きな彼の匂いと温もりが伝わる。


「俺も、栞ちゃんの事、ずっと好きだったんだ」

 吉田くんの言葉に顔を上げると、彼は私の目を見つめて言ってくれた。

「俺、初めて……女の子に恋したんだ。本気で好きになったんだ。栞ちゃんのこと。信じてもらえないかもしれないけど」

「……」

「栞ちゃんに逢うまで、全然知らなかった気持ちだったんだ。俺、栞ちゃんの事好きになって、ずっと片思いだと思ってた。ノートに好きだって書いたのも、この前彼女になればって言ったのも、冗談じゃなくて全部、全部本気だったんだ。……上手く伝えられなくて、ごめん」

 ううん、ううん。ごめんね。吉田くんの言葉を信じてあげられなかった私が謝らなくちゃいけない。本当に、ごめんね。


「だから……今も信じられない。すごい、嬉しい」

「ありがとう」

「あの、もう一回、聞いてもいい?」

「うん」

「ほんとに? その、ほんとに俺の事……」

 何回でも言うよ、吉田くんが信じてくれるなら。でも少しだけ恥ずかしかったから、彼の腕の中で俯いた。

「……好き、だよ」

「ありがとう。ごめん、手が震えて……情けないな、俺」

「ううん」

「俺も栞ちゃんが、好きなんだ。本当に本当に、好きなんだ。好きで好きでしょうがなかった。大好きなんだ……!」

 何度も何度も、吉田くんの声が優しく響く。彼の言葉に、私の彼を思う気持ちも溢れ出して止まらない。心臓の音、すごく早いね。私もだよ。私の心臓もうんと早くなってる。ありがとう、私のこと好きになってくれて。今なら、言ってもいいよね?


「うん……私も、大好き。栞でいいよ、涼」


 大好きって、涼って言っちゃった。

 次の瞬間、私にそっと触れていただけの彼の手に、力がこめられて、ぎゅっと抱き締められた。もっともっと彼の心臓の音が近くに聞こえる。恥ずかしいのと、嬉しいのと、幸せな気持ちが混ざってどうしたらいいのかわからない。

 けど、今ならいいよ? 学校の裏庭だけど……。なんて、そんなこと思ってるなんて知られたら、やっぱり恥ずかしい。


「いっ! な、何だよおまえら」

 急に彼の私を抱き締めていた手の力が緩んだ。顔を上げると、吉田くんと仲良しの女の子が三人。私達を見下ろしていた。

「……ふうん、そういう事だったんだ」

「最近付き合い悪いと思ったら」

「はいはい、後は仲良くね」

 皆は呆れたように笑って、私に目を向けた。


「鈴鹿さんなら、きっと涼とうまくいくよ」

「え……」

「うん。あたしもそう思う」

「涼、鈴鹿さんのこと大事にしなきゃ駄目だからね。今度こそ」

 三人は吉田くんの顔を見た。

「ああ、大丈夫だよ。絶対絶対大丈夫!」

 そう言う彼の表情はとても嬉しそうで……私も胸が一杯になる。


「そうだ。あたしたちが作ったお弁当でお祝いすれば?」

「そうだよ。どうせ涼のために作ってきたんだからさ」

「まだ屋上にそのままあるから、二人で行っといで!」

 皆が笑顔で言ってくれたけど、いいのかな? 彼も同じ疑問を口にする。

「いいのかよ?」

「美緒に頼まれたんだ。涼が最近元気がないから励ましてあげてって。美緒は彼氏いるから無理だし」

「好きな子の事で悩んでたんだって~? 何であたしたちに相談しないわけ?」

「そうだよ。鈴鹿さんの事だってわかってたら、何とかしてあげたのに」

 私のことで……悩んでたの?

「鈴鹿さんも食べて」

「うん。ありがとう」

 本当にありがとう。彼と目を合わせて一緒に二人で立ち上がると、彼が言った。

「ありがとな! じゃ、行こう……えっと」

「?」

 彼はじっと私の目を見つめる。


「……栞」


 私の名前を呼んだ彼は、赤くなって目を逸らして、手を差し出した。何だかくすぐったくて、照れくさいね。

「うん、涼」

 彼の手を取り、二人でその場から駆け出す。


 後ろで三人が何か言っていた気がするけど、吉田くんのことしか見えなかった。校舎に入り、私は靴を履き替え、あの時と同じ様に階段を一緒に駆け上がる。やっぱり彼は歩幅を合わせてくれた。


 本当なんだよね? 信じてもいいんだよね? そう思った時、彼が私の顔を覗きこんできた。


 いつも見せてくれていた、大好きな優しいその表情に確信を持って、一緒に扉を一気に開けた。





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