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魔法が苦手な魔法使いなどいらない! パーティ追い出され女子の鉄球ぶん殴り攻略  作者: たまぞう


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見た目は丸く黒い薬の臭いは排泄物と変わらないが

 この階層はこれまでとは決定的に違う。


 もちろんとっくに普通の攻略者とは進むことのできる道を変えられてしまったことなどは今更で、シュシュのパーティとしては実物に会ったことのないリハスも含めて、神を自称する牛の仕業だとして意見を一致させている。


 どうあっても進むしか道が残されていないのは、影だけの人物エイタのせいばかりではない。“神の塔”で生きるうえで後退したところで得るものは進歩のない平穏くらいのものだろう。


 リハスはギルドの職員として寿命まで過ごすことができたはずだし、モエやフィナも焦らずにじっくりと原因究明でもしながら既知の階層で金稼ぎでも続けることは可能だった。


 ただやはりこの塔に生きるものの宿命として行き着くところへと導かれているのだろう。


 牛コロを倒してやると息巻くシュシュにモエたちもつられてどんどんと進んだ結果、こうしてたどり着いた階層がこれまで見知ったものとは明らかに別物であると、早い段階でシュシュは確信している。


 階層に巣食う魔物たちの特徴が以前のものとは全く異なり、多種多様な魔物がひしめいていることなどは階層に共通する法則性すら無視している。


 くわえて謎の料理。しかしシュシュにはそれすらも見当がついており、そのせいで意識に揺らぎが現れている。


 いったい、どこまで深く踏み込めるか。


 自分すら信じることが出来なくなる答えを確信して自己嫌悪に陥り、そんな内心を隠すように前を向く。


 散乱する死体の中に、見知ったものが紛れていることに気づいたのは何人いただろうか。


 見ないふりをして、涙を拭う仲間の行為に、しかしシュシュはもう共感できそうにはなかった。





 珍しく皆を率いるように走るリハスが一番乗りした戦場には血の匂いが濃く立ち込めていた。


 現状把握にリハスの目が忙しなく動く。


 まず目についたのはお互いを庇い合うようにして抱いて座り込むふたりの人物で、その周りには鼻をつく匂いの発生源が散らばっているのが見え、それからやっと他にも立って動くひとがいることに気づく。


 けれど、今動いていた人物はあっけなく飛び散ってしまって、座り込むふたりに散弾のように飛沫がかかり小さな悲鳴が聞こえた。


 あまりにもあまりな暴力の嵐。


 大盾を構えた男が辛うじて支える戦場はいつ破綻してもおかしくない。


 まずリハスが状況を目撃し、追いついたモエたちが即座に助けに入ろうとした。


 しかしユズの姿に気づいてモエが声を掛けたときには、階層主の攻撃はリハスたちが現れた広場の入り口を塞いでしまっていた。


「──っ、あぶねえっ」

「ユズちゃんがいたのですっ! 助けにいかないとっ」

「一体なんなのよこの岩は。危うくすり身にされるところだったじゃないの」


 どれほどの連射だったのか、大量に飛来した四角い岩か石のようなもののせいでモエたちは通路から飛び出すことが出来ずに押し込められてしまった。


「少しだけ見えたが、敵は巨大なフルプレートメイルの化け物だ。ここにくるまでにも見たようなやつらをずっとデカくして凶暴化させたような。そして戦っていたのは──」

「ユズちゃんたちなのですっ! すぐに行かないと、大変なことになるのですっ」


 言うが早いか、モエはいつものように鉄球を最速で投げつけて出口を塞ぐブロックに叩き込んだが、向こう側の質量が大きすぎるのか、思ったような結果にはならず、むしろ押し固めたように強固に潰しただけだ。


 それでも砕けないものではないとモエが暴れるほどにリハスたちは手が出せなくなってしまう。


「おっさん、向こうにいたのは本当にユズだったのか?」

「……ああ、間違いない。ユズとララ、それにザーパフが耐えていたようだ。オスメとゲルッフは分からないが」

「ゲルッフさんは……」


 少なくとも5人パーティのうちひとりが欠けてしまっている状態で防戦一方に見えた戦局はリハスとしても手をこまねいている場合ではないと焦る気持ちが膨らんでいく。


 こちらの最大火力であるモエの鉄球がいつかは出口をこじ開けてくれるだろうが、かかる時間は数分かそれとも数十分のことか。


 冷静さを失ったモエは“自在の鉄塊”の重量操作さえ粗くなり、威力にバラつきが出るばかりか無理な使い方で両手の平の皮がむけ肉が抉れて、痛みが焦りをさらに加速させていく。


「モエっ、一旦ストップ、ストーップっ!」

「ふぅーっ、ふうっ、はあっ、あっ、休んでなんかいられないのですっ。ユズちゃんが、ララちゃんがっ」

「手を見せろモエ……ひどいなこれは……“ヒール”」

「ふぐっ、うぅぅ、もう大丈夫なのですっ、やらないとっ、大丈夫なのですっ」

「バカやろう。こんな手で参加出来ても意味ねえだろうが。おっさんは羽交締めにしてでもモエを治してやってくれ」

「──シュシュにはその、奥の手なんてのがあるのか」


 リハスの回復魔法がモエの手を癒し始めると、ほんの少し痛みが和らいだのを感じたのか、モエは続きをやるのだと暴れて押さえ込むのにはリハスとフィナのふたりがかりでやっとだ。


 およそどうにもならなそうな出口を塞ぐブロックの塊たちに対してモエの破壊力以外に手があるとすればシュシュか未知数の釣り人くらいのものだろう。


 シュシュのグール魔法ならリハスが知る以外の手段があるかもしれない。


 ブロックに近づいて触れるシュシュに期待するリハスだったが、シュシュは小さな体で押そうとしてすぐさま諦めただけだった。


「──あんたなら、どうにか出来たりするのか?」


 魔法を使うそぶりもなく簡単に一歩引いたシュシュが問いかけた相手は、この状況を静観するだけの釣り人だ。


 オスメたちのことをろくに知らない釣り人がモエらに共感出来るわけもないとはいえ、階層主を倒すために備えていた釣り人がやけに静かすぎると感じたシュシュの予想は、実際のところ当たりだった。


「もちろんだ。だがその前にこれを食べておくといい。自然治癒力を高め、物理防御力も引き上げてくれるベーグルサンドだ」

「それも泳いでいたってか?」

「ああ。それにその子の傷にはハムエッグサンドが効くだろう」

「それも──」

「泳いでいた、さ」


 シュシュたちの常識にはない、水の中を泳ぐパンは釣り上げたとしてもふんわり柔らかなパンで水びたしなんてこともない。


 理解の及ばない食べ物ではあるが、その効果はシュシュたちも体感している。


 いつでも戦えるようにとフィナたちが貪るようにして食べている間に、釣り人は胸元から取り出した包みを開いて口に入れ飲み込む。


「いまのは?」

「“丸薬ヘラクレス”だ。二階層下の谷底にオオムジナの群れが住んでいるのだが、1000匹の腹を割いてやっとひとつ手に入るかというレアな薬だ」

「肝とかじゃなくって?」

「薬だ。薬が動物の胃袋の中から取れるのは常識だろう」

「はは、そうだな」


 もちろん、そんな話は寡聞にして聞いたこともないシュシュたちだが、丸薬を飲み込んだ釣り人が全身をブロックに預けるようにして力を込めた途端に、びくともしなかった大質量の岩の塊が丸ごとじわじわ動いていくのを見てしまっては引き笑いしか出ない。


「希少な薬だが、反動もとてつもない。これを処理したらしばらくは立つこともできんだろう。そのあとは、任せてよいか」


 壁が、地面を削りながら動いて光が差し込んでくる。


 金属と金属が打ち合う音が聞こえ、怒号が響き渡り、悲鳴がこだまするのが分かると、完全に開ききるのを待ちきれないモエがパンを咥えたままフィナの静止を振り切って猫のようなしなやかさで外へと飛び出して行った。


「──ご覧の通りだ。俺たちはこの先に行かなきゃならねえ。あんたの出番はきっと来ねえよ」


 釣り人が飲んだ薬が切れた頃、塞がれていた出口には筋肉ハゲリハスも通れるくらいの隙間が出来ていた。


 シュシュの頼もしい返事を耳にしてその場に崩れた釣り人は、先に出て行ったモエの「ザーパフさんがあっ」という叫びを聞いて静かに視線を落とした。




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