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魔法が苦手な魔法使いなどいらない! パーティ追い出され女子の鉄球ぶん殴り攻略  作者: たまぞう


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踏み入れたその先は ※イラストあり

久しぶりの投稿は少し長めです


挿絵(By みてみん)

(エイタ、か……鬱陶しいったらねえし、薄気味悪いわりにどっか人懐こいところもあったが──)


 すれ違い様にシュシュとエイタがかわした挨拶は実にそっけないものだった。


 あくまでも追いかける側と追われる側、アイドルをやってるわけでもないシュシュを相手にしつこくつきまとい、周りを巻き込んで悲惨な目に遭わせているのもエイタであるなら、片想いのそれは相容れない関係でしかない。


 だがシュシュは確かに感じ取ったのだ。追い払おうとも邪険にしようとも、ファンを公言してはばからないエイタという存在からの圧力を。


「やつの役割ってことか──」


 そして


(俺の務めってやつも、か)


 嫌な想像は仮説のままで終われば良かったとシュシュはしみじみ思う。


 しかし小さなことから、外堀を埋められていくようにして輪郭が見えてくると、もう目を背けるわけにはいかない。


 ダンジョンの中とは思えないほどに豪奢な廊下を渡りきるまでにも、まざまざと見せつけてくるのであれば。


(だとしても分からねえこともあるんだが……)


 ハゲた大男リハスも、さっきまで泣きじゃくっていたエルフのフィナも、仔猫を霧散させたあとの鉄球魔法使いモエもみんな変わらずそこにいる。


「ポークくんはこの先にいるのです⁉︎」

「シュシュが言うんだからいるんでしょ、きっと?」

「あいつは何を知ってるのか、短命な俺には分からねえが信じて進むしかねえな」


 仲間として、苦難を越えてきた彼らに、シュシュは心の中にあるたったの一片さえも伝えていない。それがひどく自己嫌悪に陥らせる反面、こうして信頼の眼差しで扉の前で待ってくれることが嬉しくてたまらない。嬉しくていつもの悪態も表情が緩くなってしまいそうなのをどうにかして隠す。


「なにぼーっと突っ立ってやがんだ。道はここしかねえんだ、さっさと行くぞ」

「ほらぁ、シュシュが怒っちゃうわよ」

「けっ、待っててやってるってのに──あわっ、こら蹴るな!」

「一番乗りにビビってるだけだろうが。行け、はよ行け」

「わあった、わぁったから、蹴るな。まったく……まあ、こうなったらどこへでも行く覚悟だ。それこそ塔のてっぺんまでだって付き合うぜ」

「なのですっ! れっつごーなのですよっ」


 ひとり、またひとりと扉をくぐる。愉快で頼りになるシュシュの仲間たちだ。そう、仲間と思うのが当たり前なほどに、シュシュにとって大事な者たちだ。


「ああ、是非とも最期まで──」


 シュシュも、仲間を追い足を踏み入れる。未知のその先へ、何が待ち受けているとしても。





 底が抜けた。


 確かに踏み入れた足は地面を踏みしめていたのに、その足に体重がすっかり乗った時にはまさに底が抜けたとしか言えない結果をシュシュは全身で味わっていた。


「ああ、シュシュもご到着したようだな」

「ぷはっ、なんの罠だこりゃ⁉︎」


 あまりに突然のことに“溺れまい”と必死になるシュシュは顔を出した先で何度目かの全裸ハゲを目にした。


「……何してんだよ、さっさと来いよ」

「水も滴るくせぇ筋肉ハゲのいない対岸はどこだ?」

「んなもんねえよ……」

「モエたちもいるのですよ!」

「あの階層から水着を着てたからわたしたちは平気なのよね」


 当然といえば当然だが、同じ目に遭ったらしいモエとフィナもきちんとそこにいて、既に濡れた服を脱いだふたりは例の階層でお世話になった薄着である。こちらこそが水も滴るいい女たちというべきなのだろう。


 この先に待ち受けるモノがなんであれ全て受け入れる覚悟を決めたシュシュが踏み出した先が池かなにかへの直通トラップであったうえに、見たくもないムキムキ男の全裸手招きしているなんて悪い冗談であった。


 ──などといいつつ、しっかりと全員の安否を確認し、今いる水の中で誰かを捜索する必要もないと分かったシュシュはさっさと目の前の岸にあがって服を脱ぎ捨てていく。


 相変わらず中身がおっさんの幼女エルフは躊躇いなく真っ裸になってしまうものだから、パーティの異性の視線が怖いリハスのほうこそ顔を背けてしまう。


「えらい目にあった。お前らの誰も声のひとつもあげなかったのか? 大したもんだ」

「そりゃあもちろん叫んだわよ。モエなんか全然ビーストモードでもないのに『にゃーっ』って叫んでたからね」

「あわわ、それは内緒なのですっ。それならフィナさんこそなんだか水の中でもぞもぞして上がるの遅かったのですよ」

「べ、別になんでもないわよ」

「……どうせ漏らしてしまったのを流してたんだろ」

「んなっ、そんなことはないわよ!」

「じゃあシュシュちゃんが落ちたあのあたりがそうなのです」


 背を向けて会話に入れないリハスを放って話すシュシュたち。それでもモエが最後に言い放った言葉のすぐ後に聞こえた水音で、シュシュが再び自ら池に飛び込んで体を清めたのであろうことは伝わっていた。


「──で、そちらさんはどなたなのかな。俺の美しい裸身をタダで鑑賞するつもりでもないだろう?」


 そう、シュシュたちがふざけ合っている間も鑑賞はしても干渉せずに沈黙を貫く人物がここには最初からいた。


 池のほとり、小さめの岩に腰掛けみすぼらしい竿から糸を垂らす年配の男。岸に上がりながら話しかけるシュシュは当然ながら布一枚纏わないどころか正面切ってその男を見据えている。


「声はかけてみたんだが、相手にされなかったからな」

「そいつはいけねえ。挨拶ってのはコミュニケーションの第一歩なんだからよ」


 魔法の瓶から替えの服を取り出してさっさと着ようとするシュシュだったが、その行動を読んでいたフィナによって妨害されタオルで全身を拭かれ、長い金髪までもを丁寧に乾かされながらの御託である。


「──なにも」

「うん?」

「特に何も言うべきこともないから、だから、話さなかっただけだ。悪く思わないでくれ」


 髭をたっぷりたくわえた男の声は低く嗄れたものだったが、かといって死に体というわけでもない。どことなく長年のあいだ人との会話をしてこなかったかのような印象だ。


「何が釣れるのです?」

「おいモエ。聞くにしてももっとあるだろ」

「でも話すことがないなら仕方ないのです」

「それは確かにねー。おじさーん、わたしも知りたいでーっす」


 すっかりシュシュのお着替えを済ませたフィナもここぞとばかりに話に乗っかる気で、様子を伺いながらも少しずつ近づいては釣果があるであろう桶を覗き込む。


「えっと……これはなに?」

「……パン、だな」

「エサ?」

「いや、釣れたてだ」

「──」


 フィナが確かめた桶の中には色んな種類のパンが詰められていて、つい美味しそうと口にしかけて危ういところで踏み止まる。


(ねえ、あの人ぜったいヤバいひとだよ!)

(パンてなんだ。そんな名前の魚がいるのか?)

(パンはパンよ、あのパン。それを釣ったんだって言い張るのよ)

(なんだかヤバそうだな。おいシュシュ、どうするよ?)

(どうするったって、俺たちには他に情報もねえんだし……あっ)


 そそくさとリハスたちの元に戻ってきたフィナが小声のマジなトーンで話せば、興味を持った変な子代表が突撃する。


「本当にパンなのです! おじさん、これひとつ欲しいのですっ」

「……」

「もしろんタダとは言わないのですよ。えっと何か……何か……」

「好きなだけ持っていけ。タダ見したと言われてはかなわんから、な」

「本当なのですっ? もう返さないのですよ?」

「構わん。まだ釣れるのだから……」

「やったーなのです!」


 タダという言葉はついさっき全裸幼女がコミュニケーションの第一歩に吐いた言葉であるところを思えば皮肉のようなものだろうか。


 しかしそんなことなどお構いなしに手放しで喜ぶモエは、なんと釣果であるところのパンを桶ごと抱えてシュシュたちのもとに駆け寄ってくる。


「──本当にパンじゃねえか」

「おばあの配給を思い出すのです」

「ギルドに毎週配られるあれか。しかしこれはそれよりももっと……」

「美味しそうなのよね」


 “神の塔”では肉は魔物肉を、野菜は各階層で採れるもので日々の糧が得られていたし、酒の泉なんてものもあった。


 しかしパンは完全な加工品であり、その完成形に至るまでを担う場所はなかった。それでもモエたちがパンというものを知っているのは、子どもたちが生まれる祭壇のある第一階層で乳幼児の親代わりを務めるおばあちゃん、通称“おばあ”がどのようにしてか各階層へと配っているからだ。


 そんなおばあ手作りのパンはしかしながら味気のないプレーンなものしかなかったが、この桶にはコッペパンからチョココロネにツナサンド、ドーナツなんてものも詰め込まれている。


「美味しいのです!」

「ちょ、毒とか入ってないわよね?」

「とっても甘くって、蕩けそうなのですよ! 毒入りなわけがないのです!」

「……ごくり。じゃあわたしも……この穴の空いた茶色いやつを……あまーっ!」


 警戒心薄めのその場のノリで生きてそうな女子ふたりが先陣を切るが、モエの言うように相当に美味しいらしく、“神の塔”の中で安全の確保も出来てないうちから幸せいっぱいの笑顔をみせた。


「なにこれなにこれあまーっ!」

「甘々なのです!」

「……どれ、俺もひとつ」

「たしかにこれは……なあ、本当にこれが釣れるって言うのか? 水の中から──」


 リハスも手にしたことでシュシュもひと口よりも小さいかけらを食べて害がないどころか、口の中から幸せになるような味に釣り人の男に近寄り問いかけようとしたが、その答えを嗄れた声で聞く必要はなかった。


 その時ちょうど男がシュシュの背丈ほどもありそうなバゲットを確かに水の中から釣り上げていたからだ。


「お、オマケつきだな。これも君にあげよう」

「……これは?」

「フィナンシェ、だな」

「……さんきゅ」


 それが回答とでも言いたいのか、男はシュシュの小さな手には余るほどの大きい甘味を手渡した。


「──なあに、だからこその“神の塔”であろう?」


 男の言葉に素直にフィナンシェを口にしたシュシュはそのあまりの美味しさに全身から生き返るような気がした。



ここから最終章です。それほど長くはならないのかなーとか、いやいや長くなるしかないとかなんとか考えてるのが2025年の2月のことで、読んでくださってるひとからしたら休載期間が長すぎだろと言われそうで……ごめんなさい。私生活の変化につれ、連載ふたつというのが厳しくなり、こちらを放置してしまってました。

最近感想から「続きは書かないのか」と聞かれたので、単純なわたしは少し頑張ることにしました。そんなわけで読んでくださる方はぜひ感想をお願いします! ずうずうしいですか? それでもたくさんの星と「読んだよっ」て感想だけでも漲ってくるものがあるのですから、たまには欲しがります!


前書きのイラストはシュシュちゃんです。自力よりもAIのほうがイメージに近いものを描けるのですが、細部はどうにも、ですね。


最後になりますが、これからもどうぞよろしくお願いします!

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