#27 『混浴!?長寿の秘訣は目の保養』
流れぶった切って今回は湯けむり温泉!お色気サービス回となっております。
ここ最近シリアス回ばっかりだったので、たまにはいいかと……
カフワは危ないところを山村の温泉に訪れていたグレインの師匠【イブリック・シュトラウフ】によって助けられた。
地霊は元々人が多く住む場所には近寄りたがらない傾向があるが、山村【シュヴァルツヴァルト】の中は霊的侵入を妨げる結界が張られており、さらに安全な場所であった。
ここにイブリックが居合わせた事も、老体の彼が夜が明ける前に目が冷めて散歩をしていた事も、すべてがカフワにとって幸運であった。
「しかし、こんな時間に歩いて山道を抜けるなんて無茶をしおるの。なにか事情がありそうじゃが……」
カフワはイブリックに村の旅館で介抱され意識を取り戻した。
イブリックの得意な魔法が他人の魔力を強制的に抽出したり、自分の魔力を分け与えたりする術を得意としていた事もこの状況において好い目となり、窮地の瀕死状態から早期復活となった。
「ありがとうございますシュトラウフ先生。なんとお礼を言っていいやら」
旅館の縁側から山の景色を眺めていた老魔道士はこちらを振り向くと、そのシワだらけの顔でにっこりと笑ってみせた。
そして、老魔道士イブリックはカフワにこう提案する。
「折角じゃ、行こうかの。朝風呂へと。カフワ殿もどうかね?」
温泉が沸いている有名な村であることはグレインから聞いていたが、まさか到着していきなり入ることになるとは思っていなかった。
しかし、カフワはイブリックに色々聞きたいこともあり、これを快諾した。
「いいですね! お供します」
「温泉に浸かれば旅の疲れも取れるじゃろうて」
カフワは老魔導士に連れられ、露天風呂へと向かう。
さらっと湯に浸かるイブリックを見て同じように入ろうとするが少し足を入れた時、その熱さに驚いて飛び退き後ずさるカフワ。
「熱っつ!」
「なぁに。慣れれば大丈夫じゃよ」
余裕の表情で湯に浸かるイブリックにカフワは尋ねる。
「もうすこしぬるい温泉はないんですか?」
「あるよ。あっちじゃ」
イブリックが指差す方へ目をやると、奥にも岩で仕切られた湯船があり、湯けむりで良くわからないが、かすかに人影が見える。
「じゃ、自分はあっちへ入ってきます」
「うんうん。ゆっくりしていくとええ」
カフワがタオルと黒い魔導書を抱え奥へ向かうと何やら人影から女性の笑うような楽しげな声が聴こえる。
すこし近づいてその様子が見えた時、カフワは硬直する。
(あれ、アルーシャと誰だっけ? 大会に出てた女の人だ!)
まだ向こうには気づかれてはいないようだが、この状況。
本能でなにかまずい気がする。
「カフワ殿も好きじゃのう」
いつの間にか目の前の岩場で浸かっているイブリックにビクッとするカフワ。
「あれ、アルーシャじゃ……どういう事ですか? これ」
「混浴じゃよ、知ってて来たんじゃなかったのかの?」
「えぇっ!?」
カフワは大声を出しそうになるが咄嗟に口を抑える。
「まぁ。ここで浸かってゆっくり堪能しようじゃないか」
イブリックの隣にゆっくり足から入り熱くないのを確認して肩まで浸かるカフワ。
「混浴なんて聞いてないですよ」
そう小声でイブリックに伝えるが、その老人の様子を見てなにやら雲行きが怪しくなってきた。
あとで聞いた話だが、イブリックは魔導学園の学長も兼任しており、アルーシャもあそこにいる隣の女性ナタリーも学園の生徒だったらしい。
「長生きの秘訣じゃよ。若い女の裸体は芸術じゃて」
風が無いせいか、さっきより濃くなった湯けむりのせいで向こう側に浸かる2人はよく見えなくなっていた。
だが、向こう岸を望む老人の目は輝いていた。
「ココからじゃ見えないですし、そんなガン見してるのバレたらマズイですよ」
さらに小声で耳打ちするカフワ。
「カフワ殿もまだまだじゃの。ただ見るのでは無い、心の目で観るのじゃ!」
一見カッコイイ事を言っているようだが(ただのエロじじいじゃねーか!)と内心思うカフワであった。
老師イブリックはここで目の保養をする事が長寿の秘訣じゃと言う。
そういう意味でもここが人気の温泉であることは納得したが、別に何も悪いことはしていないのにちょっと罪悪感でたじろぐカフワ。
「カフワ殿も年頃じゃ、気になる女の子とかもおるんじゃろう?」
「……はぁ。まぁ、なんというかその為にここに来たというか」
そう伝えてあとで後悔した。
「カフワ殿も隅におけんのう。好きな女子と温泉で語らう……夢があるのう」
たぶん、いや、絶対誤解している老人の妄想にカフワもつられて考えてしまった。
(カロとゆっくり温泉巡り……楽しそうだなぁ)
「なにジロジロ見てんのよ! 気持ち悪いでしょうが!」
妄想の中で自主規制がかかり、殴られるカフワ。
自分でも知らずの内に随分と調教が進んでいたようである。
バシャっとイキナリ水面に頭をぶつけて沈むカフワ。
「どうしたんじゃ!? カフワ殿?」
浮かび上がって濡れた髪をかき分け頭をブンブンと振る。
「大丈夫かの。ちょっと、無理させてしまったかの」
「いや、大丈夫です。ちょっと思い出に殴られただけでして……」
――その後。
カフワはイブリックに聞きたい事、【白夜の宝玉】の事について何か知らないか聞いてみた。
「知っとるよ。使っただけで命まで奪った魔道具はそうそう無いからの」
白夜の宝玉は強力すぎる故、それ1つのみ作られただけで他には無いことや、2つに分けられて玉の半分が嵌められた杖になっていた事、効力が弱まり連続使用が不可能なこともイブリックは知っていた。
「それで消された魔法って元には戻せないんですか?」
カフワは一番気になっていた事をイブリックに問う。
「あれはの、正確には『消す』ではなく『魔導を制御する力を奪う』道具なのじゃ」
「……と、言うことは?」
「割った2つの玉を1つに戻せば、あるいは制御を本人に返せるかもしれんが……」
「本当ですか!?」
「ただし、カフワ殿も知っておるとおり、玉を使った者の命は保証できん。どういう事情か知らんが、変な考えはよしておく事じゃ」
カフワはそれが必要な訳をイブリックに説明した。
自分の身代わりになって力を奪われた人を助けたい事、彼女が自分にとってとても大切な人である事を。
「事情は分かったが、うまくいくかどうかも分からん。後にも先にもアレを使いこなした魔導士はおらんのじゃからな」
「……それでも、試したいんです。たとえ自分の命が無くなったとしても、彼女には返しきれない恩があるんです!」
イブリックに考え直すよう勧められたが、カフワの意志は揺るがなかった。
教えてもらったことにお礼を言ったあたりで体も温まってきたので、一度湯から出ようと思った時だった。
「ちょっと! そこに居るの、もしかしてカフワ君!?」
立ち上がった所で丁度向こうから湯上がりのアルーシャ達に見つかってしまう。
「あ、アルーシャ久しぶりだね……」
「シュトラウフ先生まで! って言うか、先生なんでうちが温泉入る時、毎回いるんですか?」
カフワはアルーシャの言葉で確信した。
このジジイ本物の変態だと。
「んーあれじゃよ、偶然!偶然じゃよ」
「いや、おかしいでしょ? 白状しなさい! 学生の時からなーんか嫌らしい目で見られている気がしてたのよね」
ヒートアップしてきたアルーシャに隣で立っているのが段々辛くなってくるカフワ。
「お変わりありませんわね。シュトラウフ先生。そのブレない変態ぶりは」
発言からしてアルーシャの同級生で友人のナタリーはどうやらエロ導師の性格をよく知っているようだ。
「……その、ただの目の保養じゃよ。カフワ殿と長寿の秘訣について語っておったのじゃ!」
ドヤ顔で豪語するイブリックに先程までの感謝の気持ちが薄れ、殺意すら沸いてくる。
「カフワ君もぐるだったの!? 長寿とか意味分からないし!」
「えぇ!? 俺はホントに偶然ここに用事があって……」
(ジジイたのむ! 俺を巻き込まないでくれぇ!)
老師シュトラウフに詰め寄ろうとして掴みかかった時、アルーシャの身を包んでいたタオルがスルリと落ちた。
「あっ!」
「おお! もうあと10年は生きられそうじゃ!」
(ダメだこいつ。早く何とかしないと)
空気を読まないジジイの発言に赤面しながら怒るアルーシャの様子を見てカフワはこの場を逃げようとする。
「じゃ、冷えるので俺はこの辺で……」
「ええぃ、変態どもめ! 猛る無慈悲な暴突風!」
突如巻き上げる突風で上空へ吹き飛ばされるエロジジイとカフワ。
「あらあら、朝から元気な人達ですこと」
いつの間にか少し離れた場所から冷静にこの状況を観察するナタリー。
そして、冷静さを失ったアルーシャ。
「飛んでけー!」
「なんで俺までーーーーーー!」




