#24 『崖の上のティコ』
カフワは【煌魔列車】を使って一旦錬金術で栄えた街【ブレメン】まで戻ってきた。ここはカロと長期間滞在し一緒に魔法の修行をした場所であり、当時ここから少し離れた川や湖の畔を拠点にしばらく生活をしていたのだ。
「懐かしいなぁ。あれから、まだ1年も経ってないのに……すごく久しぶりの気がするよ。……ねぇカロ?」
列車から街に降りたカフワは過去に寄った場所を巡るため、そこから歩いて景色を見ながらの散歩旅となった。
「あっ! あそこ! 狼とか一杯いて大変だったよねぇ。あそこでルーン魔法覚えたんだっけ?」
だんだんと当時暮らした生活の拠点へと近づいていき、今まであったことを思い出してゆく。
「そうだ、あの崖の上、なぜか湖があるんだよね。あそこでもよく釣りをしたなぁ。金色の凄くでっかい魚がいたけど捕まえられなかったんだよね。……行ってみようか」
そうして、カフワは迂回して通りやすい道を探し、崖の上を目指した。
「あっ!」
だんだん湖が見えて来てそこで見たものは、なんと、あの時見た金色の魚が遠くで跳ねているのが見えるではないか。ここからだと良くわからないが、当時少なく見積もっても人間の子供くらいの大きさはある巨大魚であった。
そうだ、あの時もあんな感じで遠くでバシャっと見えたんだよ。泳いで近づいたけど何処にも居なくなってたんだよね……とカフワは心の中で思い、ゆっくりと近づいていった。
そこでふと、気づいたことがあった。あの湖の畔に一つの水瓶が置いてある。しかも、大きくてどこかで見たことのあるデザインだった。
「あれ、どこかで……?」
それを確かめるために、もっと水瓶に近づいた時目に映ったもので記憶が一気に蘇った。
「あれぇ? ほうせきのおにぃちゃん?」
湖の畔からバシャっと音をたて出てきたのはあの、魔導闘技大会で闘った水魔法使いの人魚少女ティコであった。
「ティコ……ちゃん?」
「そうだヨォ。やっぱりほうせきのおにぃちゃんだ」
カフワは久しぶりかつ、意外な場所での再会に驚いたが、人懐っこい性格のティコとすぐに打ち解け色々話を聞いた。
まず、ティコは近くのブレメンの街に住んでいること、両親はブレメンの街で武器防具や魔道具を売る店を構え商売をしている事、水瓶から出る水は自分でここの湖の中でマーキングをして、その範囲内の水しか転送して出せないこと。その他にもティコの喋りたい日常であったとりとめも無い事をいろいろ聞いた。
「どおりで……それで水瓶から魚が出てくるわけだ。この湖に住んでる魚だったんだね」
「そうだヨォ。このみずがめもティコがつくったんだヨォ」
12~13歳位に見えるこの子供が、この歳で自分で魔道具を作る?カフワには全くその工程が想像できなかったが、少なくともこの少女がそういう魔導の才能に長けた天才的能力があることだけは理解できた。
「ところでティコ。背伸びた? なんか、あれから大きくなってない?」
「あれからしんちょう10センチくらいのびたヨォ」
いやいや、半年で10センチは伸びすぎでしょ。とカフワは思ったが、もうこの子に関しては色々謎だらけで考えるだけ無駄だと諦めた。
カフワもまた、昔ココで釣りをしたり水を汲んで生活していたことを説明したが、その途中でティコが親を紹介したいと言い出したので、座っていた腰を浮かせた時、ティコがいきなり凄い剣幕で掴みかかってきた。
「うわっ!? なにするの? ちょっと、わぁ! 落ちる!」
湖の畔に座っていたティコに掴みかかられ、湖に引きずり込まれ落ちたと思った時、気がついたら大きな水桶の置いてある部屋に転げ伏せていた。
「ついたヨォ」
「えっ!? どこココ?」
ティコの話によると、彼女の家らしい。水を媒介とした転送魔法で移動できるのは知っていたが、自分の体も濡れていないしここまで便利魔法だとは思わなかった。
「ティコ、戻ってるのー?」
ティコの母親らしき声が階段下から聞こえてくる。窓の外を見る限りどうやらここは建物の2階のようだ。
「うんー。ともだちつれてきたヨォ」
「えぇ!? そういうのは先に言ってちょうだいよぉー」
ティコに手を引かれ階段を降りて親の居る下の階へ移動するカフワ。強引に連れてこられたのに、なぜか急に上がり込んで申し訳ない気持ちになった。
「ティコの友達とはめずらしいねぇ」
そう発言するティコお父さんらしき人物に挨拶をする。が、どこかで見覚えがある顔だ。というかこの場所が多分見たことがある。
「……ここは?」
「ああ、うちは武器屋をやってましてね……君、昔買い物に来た新米魔導士だね」
やはり、あいても自分の事を覚えている。間違いない。ここは昔カロと一緒にブレメンに着いて初めて入った武器屋であった。
「えっ!? あれ? ここティコの家だったの?」
「……あの、ティコとはどういう?」
ティコの父親であり店主である彼の当然の質問にカフワは魔導闘技大会でティコと闘ったこと、近くの崖の上でティコと半年ぶりに再開して話が盛り上がったことを説明した。
「そうなんです……で気がついたらここに」
「それはそれは、うちのティコがとんだご迷惑を」
なんとか今の状態をお互いが理解した頃、武器防具の並ぶ店内を見てとある変化に気づいた。
「前、来た時あそこに高そうな杖飾っていませんでしたっけ?」
「ああ、あれはですね。半年くらい前だったかなぁ? 強盗に入られまして。店にはたいしたお金も無かったので金目の物として、強盗に持って行かれてしまいました」
「……!? その話! もっと詳しく聞かせてもらえませんか?」
カフワはそれを聞いて思い出した。半年前、間違いない。あの杖だ。魔法を消す赤い光を放つ杖がココに飾られていて、ここで盗まれた後、カロにその杖を使われたのだ。
「え? えぇ、いいですけど……」
ティコの父親の話によると、その杖は【白夜の御杖】と呼ばれる魔道具で彼の御先祖様が作った物だという。ティコの家計は代々魔道具職人として、その高い魔力と物に特殊な力を宿す魔法で有名だったらしい。
今はその血も薄れ魔道具職人としての力は失われたが、ティコにはなぜかその力が遺伝してある事が分かった。
さらに詳しく聞くと、【白夜の御杖】は振ればあらゆる魔法や悪気を払うとされるが、杖は全部で1対の2本あり、先端の赤い宝玉は元々1つだったものを半分に分けて2本の杖が作られたと言う。
「どうして宝玉を2つに分けたんですか?」
「口伝による伝説なんですが、それはね……」
杖の材料となった元々の魔道具【白夜の宝玉】は他人の魔法を強制的に取り出して使ったり使われた魔法を打ち消したり自由に制御する力があったという。
そのあまりにも強力すぎる能力が故、使用者の魔力を根こそぎ奪い、作成した先祖の魔導士は自ら作った道具の力で死んでしまったそうだ。
それを知った親族が宝玉を砕き2つに割った所、魔法を取り出す力と、魔法をかき消し封じる力、それぞれ別の能力の魔道具となったが、使用者から魔力供給する機能が失われ、使うとそれ以降効果が無くなってしまったそうだ。
「それで? そのもう一本の杖はどこにあるんですか!?」
「確か実家の納屋にしまってあったかなぁ。でも、そっちはもう先代の誰かが使ったみたいで、もう魔力の残ってないただの杖なんですよ」
「!? その杖、俺に譲ってくれませんか! お金ならいくらでも出します!」
カフワはティコの存在も忘れ、店主に必死にお願いした。もしかしたら、ひょっとしたらという想いが一縷の可能性にすがるように今持っているお金を全部カウンターに出して、杖を譲ってもらえるようお願いをした。
「お金なんていいよ。どんな事情か知らないけど、使えなくなった杖に価値は殆ど無いしねぇ。それにティコのお友達みたいだし、あの杖は君に譲るよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「ここに飾ってあった杖も盗まれるくらいなら、いっそ君にあげたかったくらいだよ」
あっさりと杖を譲ってもらったカフワだったが、ティコのお爺さんにあたる人物がいる実家はここから遠く、すぐには渡せない事を聞いた。
ところが、カフワは居てもたってもいられなくなり自分ですぐに取りに行く事を提案する。
「別にかまわないけど……じゃあ向こうで事情を伝えられる人に念架で連絡しておくから、取りに行くといい。ただ、今日はもう遅いからうちに泊まっていきなさい」
「やたー。ティコ、おにいちゃんといっしょにねるヨォ」
カフワはティコの父親の好意を受け、長旅になるであろう明日に備えるのであった。




