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47.『曲者の刀』で斬ってみると!

 最初にお断りをして置くと表題にした『曲者の刀』とは、「大きく曲がったり」、「多数の刃毀れがあったり」、「刃筋が異様に変形した刀」等の通常では試し斬りに使用できないような大きく変形した刀のことである。

 もちろん、通常、このような変形したひねくれた刀身の刀を使用しようとする武士は居なかったろうし、現代刀で試し斬りをする居合道愛好家の方々にも存在しないと思う。

では、何故、このような使用できないように変形した刀身に触れるのかというと幕末の日本刀による激闘の時代を振り返ると実に多くの『曲者の刀』で戦っているケースが存在するからである。


前稿と前々稿で、日本刀の「平肉」に関連する経験を少し触れさせて頂いたが、実戦の場では「良く斬れる刀」以上に「丈夫で折れない刀」や「大きく刃毀れのしない刀身」が求められていた経緯があったからである。

斬り合いに於いて、瞬間的に大きく変形する斬れる刀よりも斬れ味は通常程度だが、『折れ、曲がりの生じない丈夫な差し料』ほど、信頼に値する刀なかったはずである。それは勤王佐幕双方の武士達にとって命に関わる最重要な課題だったのである。

その結果、時流に合わせて水戸藩や信州松代藩のような乱暴な荒試しが新作刀に対して実施されたのだと思う。

それらの試験経過から考えると第一に『折れない刀』こそ幕末の「武用刀」としての第一関門を突破した刀だったと感じる。

そんな幕末期の刀の歴史を辿っていると「大きく曲がった刀」や「多数の刃毀れがある刀」、「刃筋の通っていない歪んだ刀」等々について、若干の考察をしてみたいと素人なりに考えた次第です。

 それでは、まず、最初に、表題の『曲者の刀』とは何かを定義して置きたい。曲者の刀とは、通常使用できないような大きく変形した刀であり、非常時にはやむをえず使い続けざるを得ない状態の刀のこととして勉強を進めたいと考えている。


(「折れる日本刀」)

 刀剣の会話で良く聞く言葉に、

『折れず、曲がらず、良く斬れる日本刀』

という表現がある。

これは世界中の多くの国の刀剣と異なり、日本刀は折れにくく、曲がりにくい上、切断力も高度なレベルを保持している優秀な武器であるとの観念から一般的に用いられる典型的な表現といって良い。

 確かに、この表現が当てはまる日本刀も多く、達人が使うと常人では発揮し得ない高度な性能を衆目環視の中で実現するケースも少なくない。

 それでは始めに幕末の新撰組関連の資料から「刀剣の折れ」についてスタートしてみたい。


 有名な「池田屋事件」の直後、局長の近藤勇が故郷多摩に送った手紙の内容が、日本刀による激闘の凄さを良く物語っていると思うので、次に略述させて頂くことにする。


    「(前略)永倉の刀は折れ、沖田の刀は帽子折れ、藤堂の刀は

刃切れささらのごとく、(後略)」


以上ですが、日本刀は実戦で予想以上に折れたり、刃切れを生じやすいことが解る。実戦に備えた新選組隊士の差し料でさえこんな状態なので、当時の軟弱な一般武士の刀にも折れる可能性がある刀が多かったと思われる。

その為もあって、新選組隊士は差添えの脇差も大刀に近い大脇差を指していたというが、長いとはいえ脇差では、相手の大刀の斬り込みに対し、どうしても受け身にならざるを得ず苦戦は免れなかったと推定される。結果的には永倉も沖田、藤堂も手傷は負ったが斬り死をしていないところを見ると日頃の鍛錬と精神力が常人以上に優れていたと思われる。


このように、日本刀の脆弱性の最たるものが戦闘時の「刀の折れ」だが、新々刀初期にこの問題点を的確に指摘したのが刀工であり、刀剣研究家でもあった水心子正秀だった。

太平の世に正秀が鋭く指摘した「刀剣の実用性」に関する問題点は多くの協賛者を得て幕末の実用刀へ向けて、新々刀作者の本流を形成することになるのだった。

正秀の指摘の中でも新刀期に絶賛を浴びた「沸出来大乱れ」の刀身の折れ易さは

異様な位多く、『刀剣武用論』等のその関連の著書を見ても驚くほどである。

意地悪かも知れないが、刀鍛冶の個銘を探すと水田国重や津田助広、河内守国助等の大乱れ刃の名手の名前が記載されている。

確かに刀同士の打ち合いでも日本刀は折れ易いが、特に、棟や鎬地を強打された場合、折れ易いと昔から伝えられているし、荒木又右衛門の鍵屋の辻の仇討ちにおいても差し料の金道の刀が相手の下僕の木刀の衝撃によって、脆くも折れる悲劇を生じているのが印象的である。

その関係もあってか水戸藩を初めとする幕末期の刀の耐久試験では、真剣や木刀で色々な方向から強打して、刀身の耐久性を試している。


また、明治になってロシアとの戦いが中国東北地方で想定されると極寒地での日本刀の折れやすさが問題となって浮かび上がっている。古刀はまだしも新刀の低温下での折れやすさは想像以上で満州鉄道沿線の警備を担当する部隊用として耐寒性の高い軍刀が希求される遠因ともなっている。

若い頃、試斬のご指導を頂いた中村泰三郎先生も南方方面での所持軍刀は新刀、新々刀で問題がないが、北方に持参する軍刀は古刀に限るとおっしゃっていた。特に、大出来の大坂新刀は実戦刀としては持ちたくないとまでご強調されていたくらいで、「折れやすい刀」に関しては、所持しないよう日頃心掛けていらっしゃった方だった。

とにかく、「曲がった刀」や「刃毀れの多い刀」も困るが、それ以上に刀身の折れ飛んだ瞬間ほど実戦で困惑する致命的な事態はないと思うのである。


(「刃毀れ」)

 当然ながら斬り合う相手の刀や武具、その他と愛刀が激突すれば、大小の刃惚れが生じるだろうし、人を斬る際にも相手の部位によっては大きく刃が毀れるケースは多かったらしい。中でも最も硬い歯の部位に刀が当たると相当の刃毀れが生じる可能性が高かったという。

坂本龍馬を暗殺した今井信郎のぶおの妹の「けい」の後年の談話でも龍馬と中岡慎太郎を斬った刀には、「刃こぼれが沢山あった」という。暗殺者の突然の斬り込みを龍馬は鞘ごと受けているので、当然相手の刀に刃毀れが生じた可能性は高かったし、その後の斬撃でも、その数を増した可能性がある。

その時使用した今井信郎の刀は新刀だったが、後に今井から師である榊原鍵吉に送られたという。

実際、着込み用の鎖帷子の小片を角材に置いて試し斬りしてみても、新刀の場合小さな刃毀れが生じることがあるが、古刀の場合には細かい刃のまくれになるケースが多い。

刃が小さくまくれた古刀では、目釘抜きでまくれた反対側から少しずつ元に戻すようにするとそれほど大きく研ぎ直しをしなくとも元の状態に近く補修できる場合が多い。

一方、刃毀れした新刀では、たとえ僅かな毀れでも、備水砥か場合によっては荒砥から研ぎ直さないと修正できない場が多かった。


以前、小さな刃毀れが無数にある銹身の新刀を手に入れたことがあったが、刃毀れの為、巻藁を試斬しても、刀が引っかかってしまって袈裟さえ十分に斬ることが出来なかった経験がある。存外、小さな「刃毀れ」といえども斬るという行為の障害になるものだなと感じた。

これは妄想に過ぎないかも知れないが、刃毀れの多い刀は斬れ無いだけでなく状況によっては斬り手の体勢に大きな障害となってしまい斬り合いの最中に不利な状況に陥る元凶になる可能性も否定できない気がする。

増して、大きな刃毀れになると更に傷を広げて刀身の折れや大きな曲がりを招く原因にも直結してしまう危険性をはらんでいる可能性が極めて高い。

その点、気のせいかも知れないが、新刀や新々刀を戦時中軍刀に仕込んで出征する人々が多かったが、戦後、所有者の方がいたずらで試し斬りをされて刃毀れだらけにされた刀に出会うケースが多かった。


(「曲がった刀身」)

反面、新刀に比較して銹身の刀身で古刀や昭和軍刀の場合、刃毀れの多い刀に出会う比率は少なかったように感じている。

 しかし、以前にも書いたが研ぎ減りして平肉が全く無くなりペタンとした状態の古刀では、予想以上に曲がった刀身が多かった印象がある。

 刀身の刃毀れによる損傷と共に「刀の曲がり」は使用者が忌む大きな欠点であり、新刀、古刀を問わず、数打ち物の刀身に多いように感じる。

 逆に身幅の広いガッシリした新刀や新々刀では、木や竹で若干無茶な斬り方をしても殆ど曲がらないケースも多く、特に在銘品ではたとえ三流工でも安心していられるように個人的には感じた。


 しかし、少しでも曲がって「刃筋が歪んだ刀身」の場合、予想以上に刃筋を合わせて使用するのに難しさを感じるのは使用者である私の技量の低さによるものかも知れないが、斬りにくいし、刃筋は合わせにくいと感じた。

 刀剣研磨を職業とされる専門職の方は、補正用の「矯木きょうぎ」を上手に使って曲がりを補正されるが、戦場では手や膝を使って大きな曲がりを修正するしかなかったろうし、相手の激しい攻めが続くと「曲がった刀身」のままで斬り合いを続けるしかない場合もあったと思う。


 それに、残っている刀身を見ても昔の人も戦場では良く曲げたようで、古刀では大きく曲げた証拠の「しなえ」が無数に入った刀や脇差を拝見する機会がある。中には、ご丁寧に「しなえ」の周辺に「刃切れ」を生じている刀も拝見したことがある。

個人的な経験なので、明確な意見として申し上げる訳にはいかないが、時代の下がった「相州伝」の刀や脇差、相州伝の脇物に見える刀身に「しなえ」が多く出ている傾向があるように感じている。

不思議なことに「しなえ」のある刀身には研ぎ減り気味の傾向がある刀が多く、斬れ味から評価すると斬れる刀が多いように個人的には思っている。

また、地方鍛冶の数打ち物に見える末古刀にも部分的に「しなえ」が出ている刀身が多く、斬っていても使用者が刃筋を間違えると簡単に曲がる傾向が強いように感じた。

その点、以前にも触れたが、ガッチリした造り込みで健全その物の「昭和軍刀」の場合、刀身の短さもあって、腕力自慢の壮年の人でも大きく曲げた瞬間を拝見することは少なかった。


初心者に好意で刀を貸した方が、試斬の後、「大きく刀を曲げられて」鞘に収まらない裸の刀身を困ったような顔をして持ってこられる場合があるが、特に、若く体力(腕力)が有り余っているような初級者に貸したケースが多かったと思う。

中には、何年経っても刃筋を合わせる技術を習得できずに、刀の身幅と重量、己の腕力に頼って試斬を続けている方も少なくはあるがいらっしゃるようで、そういう方の場合、失敗すると特に大きな角度で曲げられる場合があり、遠くから拝見していても、その曲がりの異様さに驚かされることがある。

 そこまで極端ではなくともぎりぎり鞘に収められないような曲がりを生じた場合でも、次の試斬に入りにくいケースが多い。

多分、世界中の刀剣全てが、そのような場合、実戦での武器としての機能低下によって、使用者が困惑する危機的状況に至るのだろうと想像する。


(上記以外の使いにくい刀の変形とは?)

 もちろん、「折れ易い刀身」ほど、使用者である武士が困惑する刀はないと思うが、「曲がり易い刀」や「刃毀れの生じた刀身」も上記のように実戦では本当に困った存在となる。

 その他では、「刃筋」の通っていない刀身も試斬に関して、使い難いものである。ベテランの方は器用に曲がりを矯正して使用されているが、初心者の方にとって「刀身の曲がり」は、厄介なものの一つである。

 中でも、深くて広い「樋」のある刀をある事情で複数回曲げた刀身ほど、困るケースはないかも知れない。

素人が元に戻そうとしても中々素直に戻ってはくれず、刃側から見ても棟側から観察しても、刃筋も棟の筋もどこか歪んで、曲がって見える場合が多い。


居合道愛好家の方々には音の出る「樋のある刀」を好む人も多いが、試斬用としては、余り好ましい選択ではないように感じる。

樋の無い一般的な鎬造り刀身の場合、複数回初心者が試斬時に曲げてしまっても、根気良く調整すると、ほぼ元に戻ってくれるケースが少なくないのに対し、深い樋の刀身の場合、刀身が歪んだように複雑な形状に曲がるケースがままあるので、元通りに直すことに予想以上に苦しむ場合があるである。

そんな、刀身が歪んで複雑に曲がった刀で試し斬りをすると、刃筋が完璧に合った日本刀独特の爽やかな斬れ味に遭遇できないケースが多い。大きく曲がった刀身や刃毀れだらけの刀身と共に実際の試し斬りで苦労するのが、このような刃筋を合わせにくい刀身である。

そういえば、手が大きいせいか極端に太い柄を好む術者の方がいらっしゃるが、余りに太い柄だと個人的には歪んだ刀身の刀同様に刃筋が合わせにくい傾向があるように感じる。


 このように日本刀を使用する時に生ずるアクシデントから見てみると、「刀身の折損」が最も大きな障害であり、それに継ぐのが「刀身の曲がり」と大きな「刃毀れ」であるように幕末の新撰組の記録等からも感じる。

 言うなれば、「頑丈でタフな刀」こそ、斬れる刀よりも何物にも代えがたい剛刀のような気がしてくる。出来れば、更に加えて、「斬れる刀」を差し料に求めるのが自然な気がする。

しかし、当時の下級武士や新撰組の平隊士達にとって大業物や業物を選択購入する余裕は金銭的にも少なかったはずである。

 そうなると多少の小さな刃毀れ程度の損傷ならば研ぎによって復元できる下作物でも丈夫な刀を幕末の侍達は求めたのではないかと考えている。

 多くの武士達によって華やかな相州伝や備前伝の新々刀が愛好される一方、斬れ味と耐久性を追求した水戸の徳勝一門や藤枝英義等のように、大和伝系の刀や直刃出来の穏やかな刃紋の「武用刀」が当時、人気を集めた背景も納得できる感じがする。

 加えて、質実兼備な山浦一門の刀が高い人気を博している昨今の愛刀家の秘めた心情も納得出来る感じがするのである。


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― 新着の感想 ―
[一言]  最近の漫画だと『アンゴルモア』は蒙古軍に対して日本刀(あるいはなぎなた)を用いて戦うのですが、槍がこちらからみて新兵器であり、敵の大仰な作りの剣を華奢な刀なんぞで受けてしまったら当然刃はぶ…
[一言] コレ、一言で言うと「分子密度」でだいたい話があぁそおか、になっちゃうんですよね。 鉄の場合、所謂異物は個体の外側に排除するように作用する模様で「鉄は万年」は割と科学的な意味で真理らしいス。…
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