エピローグ:未来はマルチエンディング?
「うえっぷ! げっほ……げほっ、げほっ」
気がつくと俺は、頭についていた大仰なヘルメットを脱ぎ捨て、床に胃の中のモノをブチまけていた。
「大丈夫ですか下田さん。しっかりしてください」
「うえ……すっげェ気持ち悪ィ……莉央、ちゃん……? 今は何年だ?」
「何年って……2021年に決まっているじゃないですか」
「そっか……戻ってこれたのか……よかった……」
うーむ。辺り一面汚してしまっているのに、莉央ちゃんは意に介した様子もなく俺を気遣ってくれている。ちょっと感動してしまうな。
「未来の夢を見てたんだ。やけにリアルで、便利なのに……ひでェ世界になってたよ……」
「吐くほどでしたか。よっぽど最悪な夢だったんですね」
この最新型ヘッドセットのせいか? 下手なホラーよりよっぽど怖い、近未来ディストピア世界を体験した気がする。
「ところで、ちゃんとオススメした映画は見てくれましたか? 『バック・トゥ・ザ・サッチャー』PART99」
「……ああ、そっちは最後まで見たんだが、見終わった後寝落ちしちまったんだな、きっと……
映画の方は面白かったぜ。最後に主人公のサッチャーが超合金ロボに変身して悪者をバッタバッタとなぎ倒すシーンは圧巻だった!」
「えっ……私が見たラストシーンは、サッチャーさんが生き別れの50年前の恋人と再会して、幸せなキスをして終了してたんですが……」
あれ? 同じ映画を見たハズなのに、全然話が噛み合わないぞ?
よくよく映画のパッケージを見ると、こんな事が書いてあった。
《世界初・マルチエンディング方式を採用! 視聴者様のお好みに合わせ、あなたが最も観たいと思った結末をご覧いただけます》
なんてこった。人によって映画のラストが変わる? 今のエンタメってそこまで進化してんのかよ。
「……なかなか凝った趣向ですね。知っていますか下田さん。
未来にもいくつか分岐があって、それぞれ違う並行世界があるそうですよ」
「……へえ……でもさ。俺が見た未来世界じゃ、みんな砂糖に殺されるって……」
「心配はいりません。私もこの前知りましたが、今後開発予定のスプーンやフォークには、微弱な電磁波で味覚に影響を与える機能があるそうです。
つまり過剰に糖分を摂取せずとも、舌を満足させる事のできる時代が、そのうちやってくるという事なのです」
「!……何だよソレ。すっげーじゃん」
「それに不幸な未来というものは、予測した時点でどうにか解決しようと皆、努力をしたり対策を練ったりします。
逆説的な話になりますが、人類が『未来をより良いものにしたい』と考える限り。未来予知は絶対に当たらないんですよ」
「……………………」
じゃあ俺が見たという悪夢も、確定した未来なんかじゃなく、まったく違う可能性だって十分にある訳か。
「できればもうちっとマシに、幸せも不幸も楽しめる未来になって欲しいもんだね」
「? 何言ってるんですか。とにかく汚した床を拭いて、服も着替えましょう」
相変わらず莉央ちゃんはマイペースだ。俺はのろのろとその指示に従うのだった。
(番外編 おしまい)




