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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第9話 フランス革命編
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五:戦争! 戦争! さっさと戦争、しばくぞ!

 ヴァレンヌ逃亡事件が起きた後も、ルイ16世は無罪という事になった。悪いのは彼をそそのかした奴だ、という理屈らしい。

 今回の事件、意外にも良い方向に転がった。強情だった国民議会もとうとう歩み寄りを見せ、国王も受け入れ可能な憲法が制定されたのだ。

 肝心の聖職者任命権に関しては憲法ではなく「法律」となったので、ルイ16世のカトリック信仰とかち合う心配もない。


「え……なんかどーにか丸く収まりそうなんじゃね?

 俺が聞いた話だと、ヴァレンヌ事件が原因で、民衆との信頼関係が完全に壊れたって事だったんだが」

「世間一般で言われているほどではなかったのです。しかし問題はルイ16世側ではなく、外国から起こるようになります」


 当時、フランスからは数多くの貴族が国外へ亡命しており、中でもオーストリアに逃げ込んだ貴族があーだこーだうるさかったので、諸外国は「ピルニッツ宣言」をする。


「えと……何だったっけ、ピルニッツ宣言って」

「『フランス王と人民の幸福にかなう憲法が制定されなければ、諸外国連合してフクロにすっぞ』という宣言ですね」

「え……脅迫じゃんそれ」

「でも考えてもみて下さい下田さん。ヨーロッパ諸国が歩調を合わせて動いた事が、かつて一度だってありましたか?」

「………………ねえな!」


 ピルニッツ宣言。亡命貴族がうるさかったので仕方なく、といった体で発された、というのが実情のようである。

 イギリスは最初からやる気などなかったし、発案者のオーストリアもオスマン・トルコとの戦争が終わったばっかりでフランスにちょっかいを出す余裕などない。ロシアに至ってはフランスなど遠い上に、この時ちょうど定期イベントであるポーランド分割に忙しかったので、正直どうでもよかった。


「ですがこのしょーもない紙切れ同然のピルニッツ宣言を盾に、ルイ16世の弟や亡命貴族たちは『諸外国がアンタの味方につくから憲法なんかブッチしちゃいなYO!』と余計なそそのかしを始めます」

「えーと、ルイ16世さんの反応は……うわっ」


 ルイ16世、弟たちの愚行に激おこであった。


「前々から思っていたが、弟含めてフランス貴族にはアホしかおらんのか!

 確かにちょっと気に入らん所もあったが、おおむね受け入れ可能な調整をしてくれたし、これで一件落着したのだ!

 なにゆえわざわざ、よその国からボヤ火事を焚きつけるような真似をする!?

 こんな事を始めたら、まるで余が憲法を受け入れつつも諸外国に介入を働きかける、風見(かざみ)コウモリであるかのような誤解を招くではないか!」

「なんだってファッキンブラザー! ユーのために俺はベリーベリーボーンブレイクしたってのに! まったくアンビリーバボーな言い草だZE!

 諸外国のエブリバディ! 俺と一緒にトゥギャザーしようZE!」


 ルイ16世から来た怒りの説教つきお返事に、弟やボンクラ亡命貴族たちは怒り心頭だったが、オーストリア皇帝はちょっぴり安堵(あんど)した。


「なんだ。フランス王は憲法を受け入れる気マンマンではないか。我がオーストリアとしても戦争する気はない。

 ルイ16世が穏便(おんびん)に話を進めるのであれば、これ以上大事にならずに済みそうだな……」


 しかし残念ながら、オーストリア皇帝の見通しは外れた。確かにオーストリアは戦争する気などない。だが対するフランスは……戦争する気マンマンだったのである。


「いいなぁピルニッツ宣言! こいつを利用しない手はないぞ!

 人民諸君、今フランスは狙われている! 自由と平等を嫌悪する旧態依然(きゅうたいいぜん)としたクソ王族どもの手からフランスを守るには、戦うしかないんDA!

 決して国内経済がガタガタでやべーから、戦争に目を向けさせ誤魔化そうとか、そういう打算が働いたワケじゃないぞっ!」


 内政がグダグダだから、国民の不満を他国に向けさせガス抜きをしようとする……現代でもよく見かける構図である。


「あー……そういう理由だったのね。つーかこいつら、この時点で戦争に勝てる気でいたのかよ……」

「亡命貴族と一緒に、フランス軍をまともに指揮できる軍人も軒並み逃亡していますから、軍自体ガタガタで、体を成していません。

 もっとも国民議会の皆さんは民衆人気欲しさに、そういう都合の悪い部分から目を背けてしまったようですが」


 ふと、聞き覚えのあるメロディの歌が聴こえてきた。


「あれ? これなんか聞いた事あるな……何だっけ?」

「ああ、ちょうどこの時期でしたね。のちのフランス国歌にもなる『ラ・マルセイエーズ』ですよ。

 その名の通り、マルセイユの義勇兵が口ずさんだ事から、パリで流行したんです」

「へー……ちなみにこれ、なんて歌ってるんだ?」

「『残酷な敵が、我らの子や妻の喉を()き切ろうと狙っている。奴らを殺し、奴らの血を我らの畑に飲ませよう!』とか歌ってますね」

「メチャクチャ血生臭(ちなまぐさ)いんですけど!? どっちが残酷なんだよ!?」


 もともと「ラ・マルセイエーズ」は左翼的な革命歌であり、内容も「暴君を倒せ!」と、時の権力者が思わず顔を引きつらせるような歌詞だった。戦意高揚(こうよう)のためだか何だか知らないが、それにしたってドン引きだよ!


「ひょっとするとルイ16世の敗因は、自身が聡明すぎて、他の連中が貴族も平民もみんなそろって結構アホだという事を、甘く見過ぎていたせいかもしれませんね」

「……えぇえ……」


 最悪なことに、フランスの内情を正確に把握(はあく)しており、今戦争などしても絶対勝てる訳がないと分かっていたのは、国王ルイ16世だけという惨状。

 右を見ても左を見ても、国民議会の大多数は戦争支持に回ったため、王たったひとりでこれを(くつがえ)す事など、できそうになかった。


「国王陛下。戦争支持のご裁可と、オーストリアへの宣戦布告の準備をオナシャス!」

「……どうしてもやらないとダメ?」

「議会は満場一致ですし。もし拒否なさるのでしたら、王妃マリー・アントワネットを弾劾(だんがい)裁判にかけざるを得ませんなぁ。

 彼女は確か、オーストリアのマリア・テレジアの娘さんでしたよね?」

「……! そなた、余の妻を人質にするつもりか?」

「憲法では陛下は神聖不可侵という事になっておりますが、王妃はその限りではございませんので(ニチャア)」

「そなたらの血は何色だ……!?」


 憤慨(ふんがい)しつつも結局ルイ16世は圧力に屈し、オーストリアへ宣戦布告。オーストリア側も皇帝が代替わりしており殺る気マンマンであった。開戦不可避。

 という訳で最初から結果の見えた戦争がはじまり、烏合(うごう)の衆のフランス軍は当然の如く連戦連敗。


「なぜだ……なんで勝てない……なにがいけなかったんだ……!?」

「君らホント頭大丈夫? 何から何まで全部ダメだったでしょ」


 なんか銀●伝の自由同盟政府よりひどいなこいつら。

 皮肉な事に、曲がりなりにも戦争経験のあるルイ16世が一番、国防のために奔走(ほんそう)しており、国民議会は(いもしない)裏切り者を吊るし上げる事しか頭にないという無様。戦争おっぱじめたのお前らなのに無責任すぎない?


 フランスは敗戦しまくりで混乱しており、またしても底辺層(サン・キュロット)の皆さんが不満をつのらせ暴動を起こし始める。こいつらいつもキレてんな。

 侵攻していたオーストリア軍は「フランス王一家を害したらパリを破壊するぞ!」と脅した。いちおうルイ16世らを救うために言ったんだろうけど、これにフランス底辺層の皆さんは完全にブチ切れた。

 民衆は武器を持ってテュイルリー宮殿に押し入り、警護に当たっていたスイス衛兵隊と血みどろの戦闘を繰り広げたのである。


「国王を守る味方はほとんどが逃げ、国民的英雄だったはずのラファイエットも役に立たないどころか、オーストリア軍に捕まってしまいます。

 今や国民議会の大半も逃げ、少数だったはずのジャコバン派ばかりでした」

「ジャコバン派……なんか聞いた事のある名前だな……どんな連中だっけ?」

「ざっくり言えばやべー奴らの集まりです」

「ざっくり言い過ぎィ!?」

「本当に、そうとしか説明しようのない連中ですから。

 彼らのメイン支持層が底辺層(サン・キュロット)の皆さんという時点で、大体察せるでしょ?」

「……ああ、それで……」


 1792年8月10日。やべー奴らしかいなかった議会は、ルイ16世一家をタンプル塔に幽閉する事を決めた。

 憲法で王様は神聖不可侵じゃなかったのかって? その憲法決めた連中はみんな逃げちゃったからね。仕方ないね。


「フランスが危機にあるのは何故だ? 俺のせいじゃないぞ……裏切り者がいるからだ!

 疑わしきは捕えよ! 弾劾(だんがい)裁判で奴らの罪を暴き立てるのだァ!!」


 うわー。ここに来てとうとう、恐怖政治とか独裁政治でよく見かける奴来ちゃったよ……

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