破:クソ野郎の独裁者しかいない件
「まずはハイチの独裁者から」
「サラッと言ってるけど独裁者なのかよ」
「はい。ハイチで特に有名なのは、親子二代にわたって恐怖政治を敷いたデュヴァリエさんですね」
父フランソワ・デュヴァリエ。息子ジャン・クロード・デュヴァリエ。親子あわせて大統領の在位1957~86年。
父は元医者であり「パパ・ドク」という愛称を持つ。やった事といえば、いかにもな独裁者のソレで、国民の不満をダシにして、秘密警察トントン・マクートを組織し、政敵を次々と粛清していった。
「ハイチでは選挙もやったんですが、投票用紙にはあらかじめ『YES』にマルがついた状態だったとか」
「北朝鮮とほぼ同じシステムじゃねーか!?」
「後を継いだ息子も似たようなものです。投票用紙には『はい』か『YES』しか選択肢がなかったとか」
「どっちも同じ事しか書いてねえじゃねーか!?」
デュヴァリエ親子が支配していたおよそ30年間、ハイチ国民は貧しいままだった。国が生んだ富は、デュヴァリエとその側近たちだけで独占したからだ。
「まったく……なんつーロクでもねえ親子だ。典型的なクソ野郎の独裁者じゃねーか。そりゃ貧乏国のままにもなるよな。
でもよ、さっきの話だとドミニカの方は発展したんだろ? ってことは、ドミニカ側は民主的で自由な経済で栄えたって事なのか?」
「いいえ。ドミニカを支配していた大統領も、典型的なクソ野郎の独裁者ですね」
「マジで一体どういう事だってばよ!?」
そういや最初、莉央ちゃん言ってたな。「ハイチもドミニカも政情不安で、時の大統領がしょっちゅう暗殺されたりクーデター起こされたりしてる」って。
「ドミニカの独裁者も、特に重要な人物は二人います。
元軍部トップのトルヒーヨさん。そして彼の後を継いだ側近のバラゲールさんです」
「うーん、経歴からしてロクでもない匂いがプンプンするな」
「トルヒーヨさんは1930年に大統領に立候補。軍を使って選挙管理委員会や反対派を脅しまくった結果、圧倒的な支持を得て当選します」
「もう選挙とか民主主義がゴミのようだなホント。やる意味あんの?」
「一応形式的でもやっとかないと、アメリカとかから支援受けられませんからね」
トルヒーヨは独裁者らしく秘密警察を作り反対派を弾圧したが、一方では年金制度を取り入れたり公共事業を起こしたりして、ドミニカ経済は成長していった。
「む……デュヴァリエと違ってやるなトルヒーヨ。ちゃんと自国経済育ててるじゃん」
「国が潤わないと、個人資産も増やせませんから。トルヒーヨさんはドミニカ国土の耕地三分の一を自分のモノにし、一族に儲かる主力産業の経営を独占させ、私腹を肥やしまくります。
もちろん政敵や批判者を国外追放する事にも余念がありませんでしたよ」
「ごめんやっぱロクでもなかったわ」
首都サンドミンゴはトルヒーヨ市と改名され、あちこちにトルヒーヨの銅像がいっぱい建てられた。やりたい放題である。
しかしそんなトルヒーヨにも最期の時が訪れる。1961年、彼が愛人宅に向かったところを裏切った側近が待ち伏せており、激しい銃撃戦になった。最終的にトルヒーヨは全身ハチの巣にされ、暗殺されてしまったのだ。
「ゴタゴタがありましたが、かくしてトルヒーヨの後を継いだのが、副大統領のホアキン・バラゲールさんです。
ここからがドミニカの歴史の真骨頂! 是非とも彼の生き様をつぶさに見ていきましょう!」
「さっきまでとあからさまにテンション違いすぎだろ莉央ちゃんや」
ホアキン・バラゲール。どうやら今回の彼女の推しはこの人らしい。一体どんな怪人物なのやら。




