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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第4話 聖徳太子は非実在? 編
14/56

プロローグ:いつもの

* 今回のあらすじ *


 俺は歴史好きの高校生・下田しもだ一郎いちろう

 クールな幼馴染・莉央りおちゃんと共に、6~7世紀の日本、つまり飛鳥時代にタイムスリップしていたぜ!


「聖徳太子非実在説って、内容からして超ナンセンスなんですよ。

 いないものをいないと言う『悪魔の証明』は論証学上、不可能。それは歴史においても同じ事。

 第一、厩戸皇子の存在は認めてるくせに聖徳太子を認めない、というのが意味不明です」


 相変わらず切り口が容赦ない莉央ちゃん。

 聖徳太子の実在が疑われたのって、彼に関する文献内容が色々盛られ過ぎなのが原因なんだけど……そもそも何でそんな事に?

「知ってるか莉央(りお)ちゃん。聖徳太子って実はいなかったらしいぜ!」


 俺の開口一番を聞いた途端、クールな幼馴染・莉央ちゃんは露骨に嫌そうな顔をした。


「朝の挨拶代わりにしても、何を言い出すかと思えば……

 下田さん。一体どこの誰から、そんな話を吹き込まれたのですか?」

「え。吹き込まれたって……だってさぁ、ホントは厩戸皇子(うまやとのみこ)って言うんだろ?

 聖徳太子って呼称は、本人没後の史書で作られた造語みたいなモンだって、ネットの記事に書いてあったぜ!

 一時期、歴史の教科書から名前が消えてたのも、ソレが理由なんだろ?」


「いやその……その理屈で行くなら、東ローマ帝国を『ビザンツ帝国』って呼ぶのもNGになってしまいますが」

「む。言われてみればそーだな……でもよ、日本書紀に書かれてる『聖徳太子の実績』って、どれもこれも本人がやったのかどうか怪しいそうじゃねーか。

 冠位十二階も十七条憲法も、ホントは太子の実績じゃないのに、太子の箔付けの為にぜーんぶ彼の功績って事にしたんじゃねーの?」


「下田さん。『悪魔の証明』ってご存知ですか?」

「ん? ああ。確か『存在しないものを存在しない、と証明する事は不可能である』って話だろ?」

「ええ。百歩譲って、仮に日本書紀の記述がいかにも嘘くさく、疑わしかったとしても『聖徳太子はいなかった』って断言する事は不可能です。

 そもそもがして、厩戸皇子の存在は認めているのに、聖徳太子の存在は認めないって、意味不明だと思いませんか?」

「むう。じゃあどーして一時、『聖徳太子非実在説』なんてのが、あんなに持て囃されてたんだよ?」


 俺が素朴な疑問を口にすると――莉央ちゃんは眼鏡をクイ、と持ち上げてから、自信満々に言った。


「ズバリ――センセーショナルな発表をした方が、発言者が目立てるからでしょう。

 チマチマ『日本書紀のここがおかしい』と言い上げるより、『聖徳太子なんていなかったんだよ!』とブチ上げた方が、

 『な、なんだってー!?』『一体どういう事だ○バヤシ!?』とか、みんなビックリするじゃないですか」

「……えぇえ……」


 しかし俺としては、非実在説を推す連中の言い分も分からなくはないんだよな。

 聖徳太子の実績や逸話はとにかく、諸手を上げてベタ褒め。中には話を盛っているとか、そんなレベルではない記述も存在する。


「なーんだ、そんな事ですか。史書なんて所詮、勝者による捏造なのです。

 裏を返せば、歴史の勝者は『自分の事をかっこよく書く権利』をゲットできる、という事」

「ミもフタもねえな!?」


 しかし、だとすると腑に落ちない、と俺は思った。

 何しろ「日本書紀」が編纂され始めた時代――7世紀末にはとうに、聖徳太子の血筋は途絶えていたのだから。


「誰が何のためにそんな事を……?

 単純に天皇家の箔付けの為、じゃ説明しきれないと思うんだが……」

「歴史とは、正しい・間違っているを判定するだけの○×クイズではありません。れっきとした学問です。

 仮に話が盛られたとして、何故そうなったのか……それは私も気になります」


 いつになく言葉に熱が入る莉央ちゃんの瞳を覗き込んでいる内に――いつの間にか景色が変わっていた。


「…………あ。やっちゃいましたね? いっけないんだぁ、下田さんったら」

「いや今回のタイムスリップは、どう考えても莉央ちゃんのせいだよね? 俺よりずっと力説しまくってたじゃん」


 今更、責任のなすりつけ合いをしても始まらないのは、重々承知しているが。

 俺と莉央ちゃんはいつものように、またしても過去の歴史へとタイムスリップしていたのだった。

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