番外編 学園教師
「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す③」
12/5 Dノベルfより発売しました!
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こちらは第1章(書籍バージョン)のお話です。
※なろう版と書籍及びコミカライズ版はかなり異なります。
――第二王子が入学するらしい。
それを聞いた時、教師達に特に驚きはなかった。
ヘルツ王国の王都にあるこの学園は、王侯貴族ならほぼ確実に入学するからだ。
普通の学び舎とは違い、この学園は魔力教育に特化している。
一応は三年制だが、素養なしと判じられれば容赦なく落第。
二年生に進級できるのは三割ほどというかなりの狭き門だった。
ただ落第といっても成績不良という意味ではないので悪い評価ではなく、家督を継ぐためや結婚するためにさっさと落第を希望する者もいるほど。
そもそも七割が一年生のうちにいなくなるのだから、ほとんどの学生にとっては男女の出会いの場でしかない。
だが王族は魔力に恵まれているので早々に落第することはないはず。
第一王子も第一王女も三年生まで通学していたし、恐らく第二王子も同じ。
そして美男美女の兄姉と同じく、整った容姿なのだろう。
……それくらいの認識だった。
「うわあ……」
件の第二王子グラナートが入学式に姿を現した時、教師達から漏れた声がそれだった。
目を引くのは室内でも太陽のように輝く金の髪と柘榴石の瞳。
何の説明もなくても王子だと一発でわかる高貴な雰囲気に圧倒されてしまう。
整っているだろうなと思っていた容姿は整うどころではなく、光を固めて作った人形だと言われたら信じてしまうほど。
一切の無駄がなく、指先や毛先まで完璧に美しい。
その瞳に届くのを遠慮した陽光が睫毛に弾かれて輝く様を見れば、老若男女に関わらず鼓動が跳ねること必至である。
「何ですか、あれ。人間ですか」
「王族って光さえも従えるんですね……」
感動を超えて呆れた声があちこちから上がり、同時にこれは大変そうだと今日から始まる彼の学園生活に思いを馳せる。
何せ、グラナートには正式な婚約者がいない。
一応候補としてアデリナ・ミーゼス公爵令嬢の名が挙がっているようだが、正式決定には至っていない。
社交界ではあまりにも完璧なアデリナに慄いて令嬢達も動けないらしいが、ここは学園。
公式行事や舞踏会に比べればグラナートにお近づきになれるチャンスが目白押しだ。
第一王子も婚約者を定めていないが、あちらのお相手になれば末は王妃。
さすがに誰でも狙えるものではないし、ここまで国内の令嬢との縁談がないのだから他国の姫を娶るのではというもっぱらの噂。
ということでまだ可能性があるグラナートに熱い視線が注がれるのは間違いないだろう。
「おや。あれが例の平民でしょうか」
誰かの声につられるように目を向けると、そこには眩い美少女の姿があった。
頭頂部から毛先にかけて七色のグラデーションというあまりにも特異な髪色なのに、それが似合ってしまう可愛らしい顔立ち。
紛れもない美少女の登場に、周囲の男性生徒がざわめいているのが見える。
何となくその様を眺めていると、ちょうどグラナートと虹色の髪の少女がすれ違いそうになった。
すると虹色の少女が何かにつまずいたのか前のめりになり、それを近くにいた少女が手を出して庇う。
虹色の少女は手に押されて体勢を立て直したが、今度は庇った少女がバランスを崩し……あろうことかグラナートがその少女に向かって手を伸ばした。
周囲に悲鳴が響き、気が付けばグラナートが少女を床に縫い留めたかのような体勢になっている。
グラナートに大きな怪我はなさそうだとわかると、教師たちはほっと息を吐いた。
入学草々王子に怪我を負わせたとなれば大問題。
だがグラナートが自ら少女を助けようとしたわけだし、あくまでも不慮の事故。
注意するくらいで事が収まりそうなのは幸いだ。
しかし、安堵した教師達をよそに、グラナートは動かない。
床に転がった少女と見つめ合った形で微動だにしないまま、しばし。
アデリナが声をかけてようやく体を起こしたが、何だか様子が変だ。
床に縫い留められていた濃い灰色の髪の少女は謝罪して立ち去ろうとしているのに、何故かグラナートがそれを阻んでいる。
虹色の髪の少女が間に入ってようやく解散になったようだが、グラナートは少女二人の姿を見送っていた。
周囲の生徒たちはしきりに「平民のくせに殿下にご迷惑をかけるなんて」と怒っているが、あれはどう見ても事故。
しかも実際にグラナートに庇われたのは灰色の髪の少女の方なので、随分と的外れな怒りだ。
まあ、灰色の髪の少女は平身低頭していたし、失礼ながら平凡な容姿だったのであまり印象に残らないのだろう。
グラナートと虹色の髪の少女が美しすぎるがゆえの弊害か。
虹色の髪の少女は平民なのに入学するほどの魔力の持ち主なので、恐らくは落第することはない。
となれば三年間はあの美貌を目の当たりにするわけで……嬉しいような、疲れるような。
美男美女は目を引くし心惹かれるのもわかるけれど、日常を共にするのなら平凡なくらいがちょうどいいのかもしれない。
「そういえば、どうして殿下はすぐに立ち上がらなかったのでしょうね」
教師の1人がぽつりとこぼすが、そう言われれば確かにそうだ。
怪我をしていないのなら、女性を床に押し倒したような体勢のままでいる意味がない。
故意ではないと全員がわかっているが、誤解をされても仕方のない体勢なので、百害あって一利なしだ。
「まさか、離れたくなかった……とか?」
すぐに体を起こさなかっただけではなく、去ろうとする少女を止めて話しかけていたし、立ち去る姿をずっと見送っていた。
名残惜しそうなその表情は、まるで愛しい人に向けるようなもので……。
「いや、ない。ないないない」
うっかり思考が変な方向に進んでしまい、慌てて首を振る。
かたや美貌の王族、かたや既に顔も忘れてしまうほど印象の薄い平凡な令嬢。
何かあるかもしれないと考えること自体が不敬だ。
教師は深呼吸をして気持ちを切り替えると、教室へと足を速めた。
これが美貌の王子の初恋の瞬間だとわかるまで――あと少し。
「未プレイ令嬢③」発売しました!
これも皆様のおかげです。ありがとうございます。
初めての公務は――婚前旅行⁉
この王太子、甘過ぎます!
……ということで、なろう版からかなり改稿加筆して③巻をお届け!
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