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49.会議室と最後の課題





「――以上で報告を終わります」


 夏の暑さがようやく落ち着き秋めいてきたこの頃、エーテルグレッサ王国の軍事作戦会議室には二十名もの隊長格と、総団長らが勢揃いしていた。


 相も変わらずぴりついた雰囲気の中、高位貴族の娘らしい涼やかな雰囲気をまとう七番隊隊長イクシア・ノーチラスは、第四期課題をこなしたフレイオージュ・オートミールの報告をする。


 今年の七番隊、通称王女騎士隊(プリンセスガード)採用試験に参加した士官学校生は、かの魔帝令嬢のみである。

 たった一人分の報告で済むので、まあまあ楽である。


「銅評価か……」


 緊張感が重い沈黙の中、誰かが小さく呟いた言葉がやけに響く。


「課題中の詳細は書面にて提出済みなので、興味のある方はそちらをご確認ください」


 中にはこの評価に不満そうな顔も見えるが、己が下した評価については、イクシアは曲げるつもりはない。


 ――あれは、フレイオージュ・オートミールは、本物だ。


 実力だけ見れば、どんな課題も最高評価で通過するのはもう知っている。そしてあの特殊な課題で、それでも不足のない動きをしていたのも理解できる。


 魔帝ランクという魔法に特化した素質を持ちながら、しかしそれだけに留まらず剣術も体術も高い水準を維持し、なおかつ判断力にも優れていることが今回の課題で浮き彫りとなった。


 十年もの空白の時間を、いったい彼女はどう過ごして来たのか。

 生半可な努力や訓練では、あそこまで完成はされていなかったことだろう。


 かつて王族を庇い怪我をし、魔法騎士を引退したという忠臣シックル・オートミール。

 そんな彼が手塩に掛けて育てた娘が、あの魔帝令嬢だ。


 ――どれだけ過酷な訓練を強いてきたのか。そしてそれを受け入れてきたのか。


 大きな力を持ってしまった彼女の境遇には、少し同情してしまう。

 公爵家の娘でありながら魔法騎士を目指したイクシアだけに、周囲の状況や境遇という己の力だけではなかなか変えられないものには、少しばかり敏感なのである。


「なお、私が個人的に監査し評価したのは、彼女の人間性と道徳心です」


 イクシアがあの課題を選んだ理由の一つとして、魔帝令嬢の性格や素行、言動などを見たかったというものがある。

 王女騎士隊(プリンセスガード)という職務上、気が荒い者だの暴力的な者だの差別的な者だのを入れては、隊の風紀も評価も落ちる。


 その上で、フレイオージュ・オートミールの、使用人や庶民への反応や対応を見たかった。


 あの公爵家の別邸で過ごした時間は、使用人たちも受験者たちを見ていたのだ。そして個々に評価を付けていた。

 要は、使用人全員が試験官でもあったのだ。


 ――何日も一緒に過ごせば、どうしたって取り繕うのに限界が来る。ふとした瞬間に素の性格や、実家での使用人への対応などが出てしまうものだ。


 使用人たちには厳しく採点しろと告げてあり、その結果は――


「問題はありませんでした。特に見下すことも無茶な要求をすることもなく、しかしちゃんと使用人として接していました」


 使用人に無茶を言う貴族は珍しくないし、使用人に変に気を遣うと職務に支障が出る。

 そのどちらでもなかったフレイオージュは、貴族の傍に置いても問題ないと判断した。


 普通であることが大事なのだ。

 どちらかに寄るのは、あまりよくない。 


 あれならば、本人が望むのなら、七番隊に入ることに否はない。


 ――それと、これは本当に個人的なことなので報告書にも書いていないが。


 彼女が妖精護符で呼び出した、美しい妖精。とびきり強く輝き、フレイオージュの周りを飛び回り、彼女がどれだけ妖精に愛されているかを知り。


 そして、そんな妖精を見詰める時の、フレイオージュの穏やかな横顔。

 あの表情を見た時から、イクシアの彼女に対する人間的な評価は確信へと変わった。


 まあ、あくまでも、個人的な感想だが。





「フレイオージュ・オートミールは、七番隊には不合格か?」


 一番隊隊長レオンヴェルト・エーテルグレッサが問う。


「はい。ちなみに今年の七番隊合格者はいません」


 この辺のことは総団長グライドン・ライアードには報告済みである。


 ――一応二名ほど「いいな」と思った受験者はいたが、「一年間は礼節やこの国のことを学ぶ時間になる」と説明したら逃げ……辞退された。


 七番隊は王女騎士隊(プリンセスガード)

 その職務は、高貴なる方々の傍に仕えることが非常に多い――ゆえに、礼節やこの国のこと、特に各貴族などの家族構成や相関図といったものを知らないと、仕事にならないのだ。

 できることなら隣国や友好国の情報と言語も習得してほしいくらいなのだが……


 逃げ、いや、辞退……いや、逃げられたのだ。

「そんなの覚え切る自信がない」と言われて。


 なお、軍部の二人は元から受験者ではない。あの課題のためだけに借りてきたのである。


「やはりうちに欲しいな」


「譲る気はないぞ」


 またレオンヴェルトと、二番隊のベルクオッソが睨み出す。


 と――


「あの! オートミール嬢は一時十番隊(うち)に預けてもらいたい!」


 声を荒げる姿など見たことがなかった十番隊隊長リステマ・シーズが、語気荒く言い放った。

 実に珍しいことである。

 いや、彼が隊長になってからは初めてのことである。


「なんだと?」


「あぁ~? 聞こえんなぁ~? もう一度言ってみろ、頭でっかちの青二才」


 片や王族、片や騎士団の最古老。

 どちらも魔法騎士団の花形、最前線に立つ魔物討伐隊の英雄だ。しかも爺の「聞こえんなぁ」の顔が非常に腹立たしい。


 同じ隊長格ではあるが、実際はまったく同じではない――言うなれば実績と功労が違いすぎるのだが。


「うちに! 十番隊に! 預けていただきたい!」


 しかし、リステマは引かなかった。一切。一歩たりとも。睨まれたって微塵も動揺しない。強い光が宿る目で、花形の隊長どもを睨みつける。


「あなた方は報告を聞いていなかったのですか? フレイオージュ・オートミールは同時に二つ(・・・・・)の魔法を使ったと言っていた! この技術を解明し物にできれば、魔法騎士団全体の底上げになる! いや、このエーテルグレッサ王国の歴史を変えるほどの大事件だ! なぜこんな重要なことがわからないのです!?」


 言われてみれば確かに重要なのだろう、とは思う。

 だが、レオンヴェルトとベルクオッソはいまいちピンと来ない。


 その理由は、一番隊と二番隊は討伐を専門とする部隊だからだ。

 小細工や小手先の技術より、生きるために磨いた実戦で役に立つ技術しか役に立たないことが骨身に沁みて実感しているからだ。


 魔法が二つ同時に使える?

 そんなものより窮地を救うたった一つの魔法を磨けと。いざ追い込まれた極限では、そういうものしか使えないことを体験しているからだ。


 だが、リステマが言っていることも理解できないわけではない。


 ――実戦を知らないぬるい若造が生意気を、とは思っているが。でもさすがにそれは言わない。子供の悪口にしかならないから。


「若造が」


 いや、爺は言った。大人げない。


「事は、ただ優秀な一訓練生という枠を大きく越えています! ぜひ十番隊に技術の解明と分析をお任せしていただきたい!」


 なるほど、騎士団で一番魔力色の多い四色の魔竜ランクであるリステマらしい言い分だ。こと魔法に関しては花形の隊長たちより熱の入りが違う。


「それに関しては同感だ、リステマ・シーズ」


 黙って経緯を見守っていた総団長グライドン・ライアードが重く口を開く。


「だが、それは彼女が正式に騎士団に所属が決まってからの話だ。それこそ君が言ったように、まだ彼女は一訓練生に過ぎない。君の要望を彼女が聞き入れる理由も、また我々がそれを命じる権利もない」


 課題として上下関係が生じてはいるが、まだ訓練生は部下ではないので、命令権など存在しない。

 仮に頼み込むにしても、騎士団に訓練生を招くことは、騎士団の情報漏洩に繋がりかねない。痛くもない腹を探られるのは、フレイオージュも困るだろう。


「では、いずれはこちらに回していただけますね?」


「十番隊に所属するかどうかは当人次第だが、どこに所属しようと協力の要請は出そう。あとは君が彼女を口説きたまえ」


「……わかりました」


 リステマが着席する――と、六番隊隊長セレアルドが肩を揺らした。


「彼女はモテるなぁ」


 それに関しては、この場の全員が同意見だ。

 一つ一つの意味合いは違うかもしれないが、どの隊も、フレイオージュ・オートミールを自分の隊に欲しいと思っていた。


 そして、グライドンに視線が集まる。


 士官学校の課題は、毎年五つか六つとなっている。

 フレイオージュ・オートミール以外の訓練生の評価もきちんと定まり、異例にして期待の訓練生こそいたが、それ以外は本当に滞りなく進められてきた。


「……」


 エーテルグレッサ王国魔法騎士団の隊長格の視線を一身に浴びる総団長は、少し考え込むような素振りを見せる。


 ――今年の課題は五つと決まっており、スケジュールはそれに合わせて進んできた。


 つまり、残す課題はあと一つということだ。

 五つ目である最後の課題として、かの魔帝令嬢をどの隊に預けて何をさせるのか。


 注目が集まるのも無理はない状況で――グライドン・ライアードはここに来てまだ迷っていた。

 だからこそ、言った。


「――ずっと考えていたのだが、結論が出ない。ゆえに皆の意見を聞きたい」


 さっきリステマに言ったことだが、フレイオージュが騎士団所属だったら迷うことはなかったと思う。

 総団長としてやらせたいことを命じて、終わりだ。


 しかしそうじゃないから迷い、結論が出ない。


 あらゆる能力が高く、人間性にも問題がなく、もはやどの隊に入れても活躍することが判明している期待の新人。


 ここまで異例の課題も多くこなしてきた彼女であり、今回の七番隊の課題はむしろ意地悪であったと思う。要所要所で個人的評価を得ているのがその証拠で、真っ当なら最低でも銀評価は取っていただろう。


 そんな彼女に対して、この期に及んで、なんの課題を出すべきか。

 個人技を問う課題なら普通になんの苦も無く金評価を取るだろう彼女に、何をさせるべきか。


 まだ試していない、試すべき任務があるとすれば――





「――討伐隊への同行を迷っている。訓練生には絶対にやらせないことだが、私は早めに投入し、一番隊や二番隊に所属してやっていけるかどうかを試したいと思っている。


 皆はどう思う? 私は間違っているか? それともやらせるべきか?」





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