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48.詳細と反省

48.詳細と反省





 七番隊、通称王女騎士隊(プリンセスガード)の採用試験を兼ねた第四期課題は、ここエーテルグレッサ王国の王都で行われた。

 なので、帰りは非常に楽である。


 課題が終了した翌朝には、フレイオージュは普通に徒歩で帰宅した。


「――なんだと!?」


「――ウソぉ!?」


 家族の朝食の席に間に合った。一緒にテーブルに着き、銅評価……銅で造られた硬貨を見せると、父シックルと妹ルミナリは強い衝撃を受けた。はしたない、と母アヴィサラは漏らした。


「お、お、お姉さまが銅!? 銅評価!? 金、銀、鉄、銅、木の中の銅!? 下から二番目の銅!?」


「ルミナリ」


 だが母のたしなめる声など聞こえないらしく、ルミナリはしつこいまでに確認してくる。もちろんフレイオージュは頷く以外ない。


「なぜだ!? 失敗したのか!?」


「あなた」


「いや! これは由々しき事態だぞ、アヴィ! フレイオージュはすでに現役隊長格より――!」


「――あなた」


 目も合わせずナイフでベーコンを切る母の声は変わらず平坦なままなのに、何らかの意思を感じたのか父は「うっ」と小さく呻くと、こほんこほんと二度咳ばらいをした。


「朝食の後で詳細を聞かせなさい。それとルミナリ、食事中に大声を出すんじゃない。はしたない」


「お、お父様……汚いわ……」


「汚いとはなんだ。せめてずるいと言いなさい」


 その言い換えになんの意味があるのか。

 まあ、とにかく、オートミール家はアヴィサラを中心に回っているのである。





「――なるほど、チーム戦か。道理で……」


 手早く朝食を済ませ、父の執務室に連行されたフレイオージュは、昨夜までやっていた第四期課題について話した。

 昨夜から続く雨のせいで、今日のシックルは外回りをキャンセルしたようだ。ここまでゆっくり対面したのは久しぶりである。


「へえー! お姉さまの第四期課題って王女騎士隊(プリンセスガード)の採用試験だったんだ!」


 ちなみに、家族になら課題内容を話してもいいと許可を得ている。

 シックルは元騎士でルミナリも騎士志望だ。常に高潔さを求められる立場にある以上、そう簡単に外部に漏らすこともないだろう。……まあ、妹は若干さらっと話してしまいそうな印象はあるが。


 更に詳しく説明を……昨夜の動向の全てを、勘略式の見取り図を描いて説明すると、父と妹は唸った。


「面白い課題だな。私が知る限りでは、相当な変わり種だ。……まあ、七番隊の採用試験としては珍しくないのかもしれんが」


 騎士を引退してからも騎士関係の仕事をしているシックルでも、王女騎士隊(プリンセスガード)の詳細は知らないらしい。


「ほうほう。お姉さまの足止めに一人、陽動に二人、標的の部屋の襲撃に二人、でもって秘密を探りつつ財産を狙うのが一人……

 で、秘密を探られて負けたんだ?」


 ルミナリの問いに、フレイオージュは頷く。


 ――フレイオージュ自身も互いの動きの詳細は後で知った。


 まず、外回りのフレイオージュを確実に足止めするために二人投入。

 そして「二人いる」ことを印象付けた後、すぐに別行動を取った。全ては足止めと時間稼ぎのために。


「それにしたって、たとえ現役の騎士相手でも、お姉さま相手じゃそう長くは持たないでしょ」


 その通りだ。

 しかし、そのわずかな時間が勝負を左右したのは確かだ。


 迷う時間などなかったのに、迷ってしまった。

 間違いなく敗因の一つだろう。


「――え? 相手は七番隊の現役騎士で、ちゃんと仕留めたから木評価じゃなくて銅評価になった、って?」


 フレイオージュの表情から言いたいことを察したルミナリに、シックルが驚く。


「……おまえよくわかるな」


「まあ、産まれた時からの長い付き合いだもの。ねー?」


 ねー、と心の中で声を合わせる。


「ほら。お姉さまもああ言いたそうだわ」


「私にはわからん」


「えぇ? ちょっとお父様ぁ、娘に愛情足りてないんじゃないぃ? 娘の言いたいことくらい表情一つで読んでよぉ」


「無茶を言うな」


「他の家では普通にできてることだわ。世のお父さんは娘の気持ちなんて手に取るようによくわかってるのよ」


「……冗談だろう?」


 もちろん冗談である。

 だがルミナリは肯定も否定もせず話を戻した。


「ガラスを割った、っていうのがすでに陽動よね。音で注意を引き寄せてここから二人侵入し、護衛たちの注意を引き付けつつ逃げ回るようにして、財産があるであろう大きな部屋を一つずつ確かめつつ屋敷内を爆走した、と」


 そう。

 そしてそれだけではない。


 秘密を暴くために単独一人行動する予定だった者の進行ルート上から、追手を遠ざける役割も担っていた。

 要するに、「財産という標的を狙いつつ派手に陽動する組」だったのだ。


 行き当たりばったりの逃走劇を繰り広げたらしいが――実はその逃走ルートは、緻密に考えられたものだったと、後から知らされた。

 これがあったから、「秘密を暴く単独一人」が誰にも遭遇することなく、ストレートに執務室まで行けたのだ。


「へえー! すごーい!」


「おい。フレイオージュはなんと言っている」


「窓から入った二人は囮の役目もあったんだって。ほかの襲撃者が動きやすくなるように、最初から決まっていたルートを通って逃げ回ったんだって。お姉さまの仲間はそれに引っかかったみたい」


 そういうことである。


「で、家主を狙った二人は、静かに二階の家主がいると思しき部屋に侵入した。これは陽動ではなくちゃんと襲撃した形になるのね。

 ただ、これは防衛側も読んでいた」


 そう。

 家主として参加していた試験官イクシアは、二階の大きな部屋で就寝する際、明かりを落とした後に隣の部屋に移動し、そちらで寝るようアルマから指示が出ていた。


 そして代わりに、そのベッドには防衛チームの二人が入っていた。

 要は替え玉を仕込んできたわけだ。


 家主への襲撃に関しては完全にガードできたのだ。


「で、お姉さまを襲ったあとすぐに別行動を取った一人が、秘密を暴くために侵入した、と。この人が本命だったんだね」


 本命というか、むしろ賭けに出た形だろう。


 漠然と「秘密」と言われても、探しようもないだろう。

 いくら屋敷の間取りがわかったとしても、どこがどうなっているか、どう使われているかまではわからないはずだから。あれだけ大きな屋敷だ、空き部屋も普通にあったようだし。


 可能性が高いだろう予想を立て、それに賭けて動いた。

 その結果、勝利に結びついた。


 襲撃というにはあまりにも杜撰かつ穴だらけだ。しかも動ける時間はかなり短かったはず。


 ――その辺を考えると、勝敗の行方はやはり、一か八かの命運で分かたれた気がする。


「まあ、こんな結果も致し方あるまいな」


 と、シックルは顎を撫でる。


「課題という形である以上、どうしても制限が付いてしまう。たとえば襲撃側は、本気で公爵家を襲うのであれば、もっとなりふり構わず行くだろう。外からたくさんの魔法を叩き込んで屋敷ごと侯爵の命を狙うような、そんな卑劣な真似もするかもしれん」


 確かに。

 ここは王都だ、上位貴族の屋敷が襲われれば援軍も来るだろう。悠長に襲っている時間などない。


「無論、防衛側とて同じだ。本物の襲撃ならおまえも襲撃者を殺すことに躊躇わんだろう? そうすればもっと早く次の行動に移ることができたはずだ」


 それも同意だ。

 わざわざ襲撃者を縛るというタイムロスがあった。厳密に厳密に考えると、やはり課題と実戦ではできることが大きく制限されるのだ。


「――とにかく、いい経験をしたな。これはすんなり金評価を得るより価値がある課題だったかもしれん。腐らず堂々と受け入れなさい」


 フレイオージュは頷いた。


 自分もそう思う。

 なかなか経験できない形の課題だったので、本当にいい経験になったと思う、と。


「確かにこれは面白い課題……あ、時間! 学校に遅れちゃう!」


 思い出したようにルミナリは立ち上がり、部屋を飛び出していった。


 ――まあ、いつものことなので、もう父も姉も何も言うことはない。





 なお、その頃妖精のおっさんは、フレイオージュの部屋で熟睡していた。


 そのおかげで、三人の話は実にスムーズに進んだのだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 執務室の隠し部屋の想定はできても、ギミックを解除して初めて秘密を奪われたと言えるのに、襲撃側が執務室に到達しただけで負けってのは無理がある。 それでは隠し部屋というギミックがある意味が…
[一言] 妹が姉に対してはとても優秀
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