第60話 しっかりわからせてあげないと
シオリがきょとんとした表情で俺を見ている。
理由はわからないが、とにかくチャンスだ。
ここで畳みかけるしかない!
「俺はシオリに指輪をあげたのに、シオリは俺に指輪をくれてないだろう!
シオリも俺に指輪をプレゼントしてくれないか!?」
何を言ってるのか自分でも意味がわからなかった。
自分から勝手にプレゼントをしたのに、そのお返しを要求するなんて新手の詐欺じゃないのか?
押し売り強盗みたいだ。
そもそも指輪は一度シオリに破壊されてるしな……
だけどシオリは義理堅いからなのか、思うところがあったかのように手を止めている。
「それは、その、どういう意味の……」
「意味なんて、そんなの……決まってるだろ……」
何にも思いつかなかったので、つい目を逸らしながら適当なことを口にしてしまう。
まずい。これはさすがに誤魔化せないか……?
「………………」
シオリは無言のままだったが、手にした深紅の魔槍はボロボロと崩れていった。
元の朽ちた状態に戻る。
どうやら怒りは収まったらしい。
とりあえず最悪の危機だけは脱したみたいだ。
「……わかったわ」
シオリが頬を赤くしながら俺を向く。
その手はしきりに、左手の指輪に触れていた。
「私も、ちゃんと用意するから……待っててくれる?」
「ああ。もちろんだ。楽しみにしてるよ」
俺はほっと安堵のため息をつく。
それを見たシオリがぽつりとつぶやいた。
「……そんなにうれしいんだ……」
「とりあえず、アイギスを元に戻してやってくれ」
「………………………………。
……どうしてこの流れで別の女の話を……」
「いや、シオリに殺人犯になってほしくないし……」
「………………」
めっちゃくっちゃ不機嫌そうな目で俺を睨んできたが、やがてため息とともにつぶやいた。
「わかったわよ……」
「……っがはぁっ!!!!」
元に戻ったアイギスが勢いよく起き上がる。
「クソが、何なんだ今のは!!」
訳が分からず混乱してるようだ。
まあ、冥界のことを知らなければ、自分に何が起こったのかなんてわかるはずもないか。
なんの前触れもなく突然カエルにされたんだもんな……
「くそっ、きもちわりい……。カエルになったせいでまだ体がヌメヌメしてる気がするな……
さっきのはてめえがやったのか?」
「そうだと言ったらどうするの?」
「決まってんだろ。このアタシがやられっぱなしでいられると思ってるのか」
アイギスが好戦的な笑みを浮かべる。
シオリが俺を振り返った。
「私が落ち着いても、向こうはやる気みたいなんだけど?」
「あたりまえだ。ケンジには負けたが、そこの女に負けた覚えはない。止めるんじゃねえぞ」
どう見ても負けたけど……
負けず嫌いなんだろうな。
あるいは、正面から戦わなければ認められないという事なんだろうか。
どちらにしろ争うのはやめてほしいんだけど……
というか、他の場所でならともかく、冥界でシオリ相手にケンカを売るのは……
「ケンジは下がってて。これは女の戦いなの」
「そういうことだ。どっちが上か、しっかりわからせてやらねえとな」
そういって2人は向かい合った。
……まあ、2人がそういうなら仕方がない。
天の逆鉾をしまってくれたから、最悪の事態になることだけはないだろうし。
先に仕掛けたのは、やはりというか、アイギスだった。
「じゃあ今からてめえをぶっころぷゲェぎゃぁ
泡を吹くような音を立ててアイギスがペシャンコに押し潰された。
瞬殺だった。
そして5秒ほどした頃、元に戻った。
「はぁ、はぁ……クソがっ! この程度であぎゃっ」
再び目の前にいたアイギスが消え、足元にアイギスだったものが転がる気配がした。
なんというか、絶対に人間がなってはいけない形状になってる気がする……。
怖くて下は見れない……。
「……ッがはぁ!」
再び元に戻ったアイギスが目を覚ます。
「やってくれるじゃねえか。だがこの程度でごぐぱぁ
──ビシャっ
生水をぶちまける音が響く。
怖くて下は見れない……。
それを繰り返し続けて、5分後。
「ぜぇーっ……、ぜぇーっ……!」
アイギスは全身から油汗を流しながら、冥界の大地にうずくまっていた。
その顔色はかわいそうなくらいに蒼白になっている。
「まだ5分しか経ってないけど、もうそんなにへばって大丈夫なのかしら?」
「はっ……! 言ってろ……!」
青ざめた顔で、それでもシオリ相手に吠える。
その根性だけは本気で尊敬する。
生殺自在の力により、短時間で何度も蘇っては死んでを繰り返している。
その痛みや恐怖は、俺なんかの想像では遠く及ばないだろう。
とっくに精神が崩壊しててもおかしくない。
俺ならとっくに降参してるはずだ。
なのにアイギスの目は未だ闘志を燃やし続けていた。
「てめえを見りゃわかる……。てめえの魔力量なんて、たかが知れてるだろ……っ。この領域はあと何分もつんだ?」
「さあ? 15分ってところかしら?」
「こんな程度で、くたばるかよ……っ。20分でも30分でもやってみやがれ……!
魔力が切れて、魔法が解除された瞬間に、1億倍にして返してやる……。
骨すら残さねえから、覚悟しとけよクソ野郎ッ!!」
血走った目で睨みつけるアイギスに、シオリが目を細める。
「あと何分耐えられるのか楽しみね。ふふふ……」
シオリが笑った。
ゾッとするほど、とびっきりの笑顔で。
そして──
──────168時間後。
「して……ころ、して……」
生気が消えた瞳まま、アイギスがうわごとのように繰り返していた。
だからシオリは怒らせるなって言ったのに……。
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