第56話 方法がなければ作ればいい
「くそっ、くそっ! なんで当たらねえ!」
アイギスが声を荒げながら何度も突撃を繰り返し、竜の腕を振り回す。
もちろんそれらは俺に当たることなく、空振りを繰り返していた。
アイギスは俺にしか興味がないようで、シオリには目も向けていない。
あえてシオリから離れるように動くと、真っ直ぐに俺の方を追って攻撃してきた。
>アイギス相手に舐めプすると聞いてきました
>いいぞもっとやれ
>竜骸をこんな簡単にあしらえるやつなんて他にいないよ
>ケンジくんがいれば日本は安泰だな
>遅れてやってきた救世主
そういえばさっきからコメントにも流れてるけど、竜骸ってなんだ?
>災厄を知らないのかww
>さすがRTAしか興味ない男
>世界平和<<<超えてはいけない壁<<<RTA
>この世界には世界を滅ぼしかけたやばい人が7人います
>竜骸のアイギスはその中の1人
>最近誰かさんのおかげで8人になりつつありますけどね
>単純な戦闘力だけで見たら最強って言われてる
……え? あれ人間なの?
>あ れ に ん げ ん な の ?www
>はい切り抜き決定
>これはバズる
>軽率にバズワード生まないでください
>人間なんですよ一応w
>年頃の女の子相手にひどいです謝罪してください!
確かに軽率な発言でしたね。
どう見てもモンスターだし、てっきり人間に擬態してるのかと思ってたのですが、やっぱり人間だったんですね。
すみません。
>謝らなくていいよ、いい人過ぎw
>相手は歩く災害だからな
>人間に擬態してるというのはあながち間違ってない説ある
>闘争に頭を焼かれた悲しきモンスターだよ
>ケンジ君もわりと人間か怪しいからね?
>私は神とモンスターのハーフだと思ってる
>人間の遺伝子0かあ
もしかして人間を操る系のモンスターに囚われてるとかなのか?
じゃあ助けないとな。
>ワンチャンその可能性はある
>アイギスは思考がぶっ飛んでるからね
>災厄はみんな頭おかしいけど
>まともならそもそも災厄にならないからね
>この状況でも他人を思いやれる余裕、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
RTA中に冒険者のピンチに出会うことはもちろんある。
その時は当然、人命救助が最優先だ。
RTAはまた挑戦すればいいけど、命は一つしかないんだからな。
でもその間のタイムを止めたりとかはしない。
あくまで「ダンジョンに入ってから出るまでのタイム」を競うのがダンジョンRTAだ。
その中で起こるイベントの全てがダンジョンなんだからな。
だから最速で助けて最速で再開する必要がある。
俺が回復魔法をショートカットに入れてるのもそれが理由だ。
竜の腕を壊すのは簡単だけど、さっきからすぐ元に戻ってしまうんだよな。
再生するというより、新しく作られるという感じだ。
だけど魔力によって生成されてるわけでもなく、どちらかというと別の世界からこちらに召喚されてるような感じがする。
うーん、なんだろうなこれは。
今までにないタイプのモンスターだ。
……ああいや。人間なんだっけ。
力任せに破壊すれば、中のアイギスにまで被害が及ぶかもしれない。
中のアイギスを助けつつ、外の竜骸だけを破壊しなければいけないようだ。
まあ考えても仕方ないか。
さっそく救助を開始しよう。
弱点はわかってる。まずは全身の外殻を剥がしてみようか。
アイギスの攻撃をかわしざまに、その体に連撃を叩き込む。
全身の外殻が一度に全て弾け飛んだ。
「なっ、なんだこの速度……! さっきので本気じゃなかったのか……!?」
>救助(物理)
>荒療治すぎる
>まあなんとかは殴らなきゃ治らないって言うし?
>てか今これ何発殴ったの……
>まったく見えなかったんだけど……
>竜骸もこれで反省するような性格だといいが
竜の体を失ったアイギスは空中を落下していったが、すぐにまた全身を竜の外殻で包み込んだ。
「……っんあああああうざってぇええええ!!」
アイギスが吠えた。
突然アイギスの全身から攻撃的な魔力が溢れ出し、周囲を薙ぎ払った。
「ちょこまかと虫みてーに飛び回りやがって!
ストレス溜まるんだよクソが!!
もうめんどくせえ。全部まとめて消し飛ばしてやる!!」
アイギスが右腕をこちらに突き出してくる。
「竜骸骨格・火砲」
腕の先が大きな竜の顎になると、その口を大きく開いた。
「消し飛びな! ドラゴンロアー!!」
破壊され大穴となったダンジョン全体を埋め尽くすほどの、巨大な火炎が吐き出された。
これはさすがに逃げ場はない。
それに下手によければ、後ろのシオリにまで被害が及ぶかもしれない。
俺は魔力の壁を大きく広げ、正面全体に展開した。
炎が魔力の壁に当たって阻まれる。
そのまま炎を包むように魔力の壁を丸め、炎を閉じ込めた魔力球を作り出した。
>えっなんだ今の……
>炎を封じ込めた……?
>魔力操作だけでそんなこと可能なのか
>操作が滑らかで早すぎる……
炎を防いだ隙にアイギスが目の前にやってきた。
「やっと足を止めたな」
「あえて隙を作ったからな」
竜の肘に新たに生まれていた噴射口が火を噴き、ブースターのように爆発的に加速しながら殴りかかってくる。
それを紙一重でかわし、カウンターで拳をめり込ませた。
メゴッ!
直撃を受けた外殻がひび割れ、さらに内部に押し込んだ魔力球が炸裂する!
──ッドオオオオオオオオン!!
しかし。
「そんな甘い攻撃が効くわけないだろ!」
壊れたのは竜の体の表面一枚だけで、それもあっという間に再生してしまった。
続け様に襲ってくる竜の攻撃をかいくぐって、俺はいったん距離を取る。
なるほど。
アイギス自身を気絶させればあるいは、と思ってかなり強めに攻撃したんだが、ほとんどダメージにはならなかったようだ。
やはり地球の法則とは違うというか、俺の知らない法則で守られているんだろうな。
どうりでサーチで解析しきれなかったわけだ。
アイギスを傷つけずに、竜骸だけを壊す方法はなさそうだな。
方法がなければ、作るしかないか。
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