第47話 人類を超越した存在との遭遇
溶岩湖の隠し部屋は四角い形をしていて、周囲には入口がひとつもなかった。
仕方ないので部屋に近づき、壁を壊して中に入った。
中は城のような場所だった。
明らかに外から見た大きさより何倍も広く、窓の外からはオーロラのような七色の光が差し込んできていた。
明らかに溶岩の光じゃない。
まったく別の空間に来たのは確かなようだった。
「ここはどこなんだ?」
サーチを使ってみるが、やっぱり場所はわからなかった。
部屋の中央には1匹の巨人が、目を閉じて座り込んでいた。
座ってる状態でもわかる程の巨大な体と、床に突き立てられた赤く燃える巨大な剣。
そして最も特徴的なのは、頭に生えるねじれた二つの黒い角。
あれは炎の巨人、イフリートだ。
>え……?
>あの姿って……!
>魔人じゃないのか!?
>はああ!?
>嘘だろ!?
>魔人がなんでこんなところにいるんだ!?
>隔離区域にしかいないんじゃなかったのか!?
あれ?
みんなもこの敵モンスターを知ってるのか?
>知ってるも何も、人類の敵だよ
>人類絶対根絶やしにするマン
>アメリカ西部はこいつらが現れたせいで人類が住めなくなった
>住めなくなったのはアメリカが核ミサイルを撃ったからだぞ
>核ミサイル30発で魔人の1割を討伐したって授業で習った
>アメリカさんはいつもやることが派手
>報復で国土の2割を失ったけどな
「嘘でしょ……なんでこいつらがこんなところに……」
シオリも驚いているようだ。
「シオリも知ってるのか?」
「むしろなんで知らないの?」
何故か怒られてしまった。
はあ、と呆れたようなため息も聞こえてくる。
「魔人っていうのは、10年前に突然現れた存在なのよ。なぜか人類を敵視してて、何度か人類と争ってきた。
体力、魔力、知力。全てが人類を遙かに上回っている、人類にとって初めての「侵略者」と呼べる存在。それが魔人なの」
「そんなのがいたのか」
「そうよ。知らない人なんていないはずなんだけど……アンタ本当にRTA以外興味ないのね」
「そんなに褒めないでくれよ」
「……」
あっ、これは「褒めてるわけないでしょ」って呆れてる目だな。
「はぁ……。
とにかく魔人ってのは、こんな初級ダンジョンなんかにいるはずのない存在なの」
シオリもずいぶん詳しいな。
きっと戦ったことがあるんだろうな。
>歴史の教科書にも載ってるレベルの存在なんだけどなw
>ケンジくんダンジョン以外興味なさそうだからな
>やっぱケンジくんのダンジョンちょっとおかしいよな
>初級ダンジョンにいていい存在じゃないぞ
>そこ本当に初級?
国が認定したダンジョンのランクは初級だったけど……
そういえば認定したのは10年以上も前って言ってたっけ……
俺たちの話で目を覚ましたのか、魔人イフリートがその目を開いた。
こちらに目を向けると、口元を笑みの形に曲げる。
「ほう。よもやこのようなところに足を踏み入れる人間がいるとは。
溶岩湖に飛び込むなどよほどの阿呆か、死にたがりか。貴様はどちらだ?」
>魔人にまで呆れられるケンジくん
>初めて魔人と分かり合えた気がする
「どちらでもない。解説配信だが、ダンジョンRTA中でな。溶岩の中を進むのが最速なだけだ」
「ふむ。人間の考えることは相も変わらずまるでわからん」
イフリートが面白そうな顔で答える。
やはりわからないか。
人間でも知ってる人はあまりいないみたいだからな。
モンスターにわかるわけないか。
まあそのための配信だもんな。
これから知名度を上げていかないと。
俺は気を取り直してカメラに向かう。
「さて。知ってる人も多かったみたいですが、この敵はイフリートです。
過去にも数回だけ戦ったことがありますが、少し厄介な敵です。あまり出会いたくはありません」
>当然のように配信続けるの草
>目の前にいるのは人類の敵なんですけどねえ
>魔人相手でも平常運転のケンジくん
>なんで魔人がRTA知ってると思ったのか
>つか戦ったことあるんだ……
>さすがのケンジくんでも魔人相手は嫌なのか
>でも少し厄介程度なんだよな……
>何で魔人は嫌なの?
「シンプルに硬くて強いところですね。
魔人にはどうやら心臓が3つあるらしく、どれかひとつでも残ってると死なないんです。なのでさすがに1発では倒せません。
倒すのに時間がかかるということは、それだけタイムが伸びるということですから、なるべくなら出会いたくない相手です」
>命の危険よりも先にタイムが出てくるところがさすが
>ていうかマジで逃げないとやばいって!
>魔人はモンスターとは訳が違う
>あいつら人類を殺すことに快感を覚えてるからな
イフリートがゆっくりと立ち上がる。
その背丈は優に俺の2倍以上もあった。
床に刺さった剣を引き抜き、構える。
殺気が急激に膨れ上がり、部屋全体に充満した。
「……ッ!!」
背中に隠れたシオリが全身をこわばらせる。
俺にしがみつく腕が小刻みに震えていた。
「ふむ。貴様は動じないか。人間にしてはやるようだな。
ちょうどいい。傷も癒えたことだし、そろそろ勘を取り戻したいところだった。少し遊んでやろう。かかってこい」
「それはありがたいな。では遠慮なくいくぞ」
俺はダッシュでイフリートに近づいた。
「なっ!? なんだこの……
ドドドン!!
炸裂音が3回連続で響く。
体に3つの大きな穴を開けたイフリートが、呆然と自分の体を見下ろした。
「ばか、な……」
その言葉だけを残し、そのまま後ろに倒れた。
>え
>うそ
>死んだ?
>魔人が、一撃で……?
「一撃ではないです。心臓が一つでも残ってると死なないので、心臓がある位置を三か所同時に殴りました。 3発もかかるので、他のモンスターの3倍タイムを使います。それが厄介ですね」
>嘘でしょ……魔人倒しちゃった……
>魔人すら瞬殺……
>核ミサイルでも死なない化け物だぞ……
>パンチだけで……
>マジで……なんなのこの人……
この部屋にはどうやらイフリートが1匹いるだけのようだ。
ショートカットになりそうなものがないか、ゆっくり調べるとしようか。
読んでいただきありがとうございます!
この作品はなろうコンに応募してます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブクマや評価、コメントなどで応援していただけるととっても嬉しいです!
どちらも大変モチベーションアップになりますので、ぜひよろしくお願いします!




