公国軍対プーリ侯爵軍①
俺達は、拠点である宿で作戦会議を行っていた。
「で、カイ。公国軍の構成は分かるか?」
「はい、私が公国軍に居た頃は最低限の戦力以外を集結させれば、正規軍だけでもおよそ三万以上の大軍を用意出来ます。まあ、大体の兵士は農民からかき集められた雑兵ですが」
「そうか、正規軍だけということは傭兵団もいるのか?」
「はい、公王の事ですから傭兵団一万は集めるかと」
つまり敵軍の総勢は、約四万の軍か。数だけ見れば、あのサキュバスのダンジョンマスターのユラ以上だな。しかし、軍の大半は農民の雑兵なら問題は無いか?
「カゲマサ様、敵には恐らく三つの精鋭部隊と近衛騎士団がいる筈。油断は禁物です」
「精鋭部隊と近衛騎士団?お前が前に言ってたゴウエン・フィーゾムだったっけか」
「ええ、ゴウエンを始めに油断のならない奴等がいます」
カイは、精鋭部隊の構成を一つ一つ説明していく。
精鋭部隊の中ではもっとも数が多く、戦争においては最も活躍する主力部隊、“竜”。
精鋭部隊の中で、最も即応性が高い部隊であり戦場にもっとも早く現れる部隊、“鷹”。
内部工作やスパイ、ゲリラ戦等の特殊な任務に特化した部隊、“狐”。この部隊は、ミルスの居た部隊と対となる部隊だったらしい。
そして、公王家の盾であり最大戦力の近衛騎士団。
「近衛騎士団に所属している近衛騎士は、皆ランクC以上の強者ばかりです。総勢百名ですが、連携させれば厄介な者達です」
ふむ、ランクCねぇ。今更ランクCって言われてもな。
「しかし、謎なのは宮廷魔導士団です。あの黒ローブが来てから実力は上がったのですが、どの程度なのかは分かりません。戦争には出てくる筈とは思いますが」
むむ、情報が無いのか。黒ローブというのは、ミルスの言っていた魔導士だな。するとぉ?
「おい、カゲマサよぉ!何かキラーの様子がおかしいぞ?!」
ギオが、ジ・キラーを指差し叫んだ。目を向けると、歯をギリギリと鳴らしながら殺気を撒き散らすキラーの姿が。
「おいキラー、どうしたんだ一体」
「はっ!申し訳ありませんカゲマサ様!」
「大丈夫だよな?何かあったら言えよ?」
「大丈夫です!」
「ならいいが」
俺は、少し不安を憶えたが今は戦争に集中することにした。すると、部屋にロンド・ペリークスが入ってくる。
「カゲマサ様、少し良いですかい?」
「ん、どうしたんだ?」
「へい、入り口にカナベール令嬢がいらっしゃっていますがどうしやすか?」
「カナベール令嬢か。恐らく戦争の件だろう、通せ」
「へい」
ロンドは、部屋から退出していったので俺は一旦考えを纏める。
「お前等、今回の戦争は好きに暴れて良いぞ。ただし、死体の確保を忘れずに。新しい死霊混合人が出来るかも知れないからな」
「強い奴と戦って良いか?!」
「新しい魔道具を試しても良いかい?」
「勿論、可だ」
「イヤッホウ!!」
「フフ」
俺の言葉にギオはテンションを上げ、魔女ミレンダは静かに笑った。
カナベール・プーリは、カゲマサ一派の泊まっている宿の前に護衛のダッチム・トーパーと立っていた。すると、カゲマサ一派の一人のロンドが出てくる。
「お待たせしやした、ウチの大将がお待ちです。こちらへ」
「わかったわ」
ロンドの先導でカナベールは、部屋の前までやって来る。そして、部屋のドアを開けると、
「お、来たか」
「おい、カゲマサ!後ろの奴強そうだな!殺って良いか?!」
「ダメだ」
「おやおや、中々に可愛い娘だねぇ」
「手を出すなよ?」
「出さないよ。アタシは、男好きさ」
人数が増えていた。カナベールは戦慄する。増えた人間の中に、明らかに異常な気配を漂わせている者が三人。いや、他の人間も異質な気配はするが、三人だけは別格だった。
一人目は、オレンジ色の逆立った髪の巨漢。巨漢からは、猛獣のごとき気配がヒシヒシと伝わってくる。
二人目、長い金髪に赤い目、黒い角を生やしている美女の魔族。この美女からは、鋭利な刃物を連想させる程の殺気が感じられた。
三人目、怪しい雰囲気を出す魔女。獲物を狙うような目で此方を見ていた。
「あ、あのカゲマサ様?彼等は」
「スカウトしました」
「は、はあ」
「それよりも本題に入りましょうか。我々に何の用です?」
「あ、はい」
カナベールは、領主カリウスと貴族達との会議の結果を伝える。今回、公国軍と戦うこと。そして、このまま革命を起こし国を変えるために動くこと。その上で俺達の戦力を当てにしていること。
「なるほどね」
「カゲマサ様、どうか我等に協力してくれませんか?」
「ふ~む、我々は一度そちらの契約を破棄しているんですよ?それで我々を頼ると?」
「はい、報酬はお父様の権限の効く限り何でもお支払いします」
「・・・判りました。協力しましょう。ただし、貴殿方の指揮下には入りません。我々は、我々で動きます」
「はい、それで構いません」
「では契約書を」
俺とカナベールは、契約書にサインするとカナベールはダッチムと去っていった。
「良し、お前等。準備するぞ」
◆プーリ侯爵領 都市前 平原
公国軍が行動を起こし一日たって、プーリ侯爵領の都市前の平原には、大勢の兵士で埋め尽くされていた。
攻め手である公国軍。平野に布陣している正規軍三万と傭兵一万で構成された軍勢。
守り手であるプーリ侯爵軍とプーリ侯爵に従う貴族連合、そしてカゲマサ一派を含む傭兵。都市内に籠る総勢一万程度の軍。
四万対一万の戦争の開始である。その頃カゲマサ一派は、外壁の上から公国軍を観察していた。カゲマサを始め、全員思い思いの仮面を着けている。
「壮観だな。これ程の軍団が一斉に来ると思うと、迫力凄いだろうね」
「まあ、大体は雑兵ですけどね」
カゲマサの言葉にカイ・ザーバンスが答える。カゲマサは、少し笑った後に部下へと向き直る。
「じゃあ、各々配置に着け。任務忘れるなよ?忘れたら、【インフェルノ】で丸焦げにするからな?」
俺は、念押しすると元囚人で現魔人の者達は、首をブンブンと縦に振る。ギオとミレンダ、ジ・キラーは笑っていたが。魔人達が散っていった事を確認すると同時にカナベールがやって来た。
「おや?カナベール令嬢よ。何で居るんだ?」
「プーリ侯爵家からの要請です。開幕の一撃にカゲマサ様の魔法を放ってほしい、と」
「魔法を?」
「はい、カゲマサ様の魔法ならば敵を減らせると」
「はいはい、判りましたよ」
「ありがとうございます」
カナベールは、そう言うと去っていく。さて魔法か。何が良いかな?
俺が、【ボックス】から魔法書を取り出し、手頃な魔法を探していると、公国軍から竜が描かれた旗を持った一団が出てきた。
「あれが精鋭部隊“竜”かな」
何となく予想した俺は、魔法書を閉じて一団を見据える。竜が描かれた旗を持った一団は、何やら叫んだ。それに呼応して、公国軍全体が雄叫びをあげる。そして、武器を構えて此方に前進を開始した。
「悪いな。お前達には」
俺は、大軍が前進してくる中一人呟く。
「俺の計画の犠牲になってもらう」
魔力を集め終わり、改めて公国軍を見た。
「俺達の命の為に」
【ダークテンペスト】
かつてカゲマサの前に現れた死霊公、それが放った魔法をカゲマサは威力を高めて放ったのだ。死を呼ぶ黒き竜巻が、公国軍に牙を剥く。
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