魔人化と不穏な影
「人間を止める覚悟、だって?」
ミレンダは、一瞬言葉を失い言葉の意味を理解すると困惑した。
「そ、それは私らを後ろのアンデッドのようにするのかい?」
「いや、それはお前達を変えた後に話す。何しろ初めてやることだからな。最悪死ぬかもしれない。それを踏まえた上で聞こう、人を止める覚悟はあるか?」
俺は、真剣な目を囚人達に向ける。
ギオは、ワクワクとした感じで口を開く。
「俺はいいぜ!更に強い奴と戦えるかもしれないからな!!」
ジ・キラーはというと。
「異論は無い。邪神様の使徒様のご意志に従う」
ミレンダは、頭をガリガリとかいたあとやけくそ気味に言い放つ。
「はあ~、まあ私の魔法力上昇の為。人間の一つや二つ止めてやろうじゃないか!」
といった感じで概ね大丈夫らしかった。他の囚人達も大半は了承、そう大半は。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!俺達を実験台にする気じゃねぇか!そんなので死ぬのはごめんだ!」
概要を聞いた一部の囚人が憤慨していた。そこにミレンダが半眼になって一部の囚人に問いかける。
「へぇ~、上手くいったら人間越えた力を得られるかも知れないのに?」
「う、うるせぇ!命あっての物種だろ!命の危機に陥る可能性なんて考えたくも」
「あっそ、じゃあ」
俺は、囚人の言葉を遮る。囚人達は、何かを悟ったように顔を歪めて俺に襲いかかってきた。
「くそぉぉ!!」
「死ね。【インフェルノ】」
俺は、襲いかかってきた囚人達に向かって深紅の炎を放つ。
「ギャアアアア!!??」
「あ、あぢィィィィ!!」
「し、死にたくねぇぇぇ!!」
炎の中で囚人達は、絶叫をあげながらジタバタしていたが、やがて動かなくなる。今までいた囚人は、ギオ達含めて一気に十二人まで減ってしまった。
「さて、邪魔者は死んだ。さっさと始めよう」
俺は、焼死体を【ボックス】にしまいながら淡々と話す。その光景に他の囚人達は、ブンブンと首を縦に振る。
「じゃあミレンダ、お前からいこう。今から使うスキルは、一日一回しか使えない。老いて何時死ぬかわからないからな」
「はいはい、わかったよ」
俺は、ミレンダの頭に手をのせる。そして、今まで死蔵していたスキル《魔人王》の能力、一日一回知的生物を魔人に変える能力を発動させた。すると、ミレンダが赤黒い繭に包まれる。赤黒い繭は、ドクンドクンと脈動しており不気味だった。そして、数分間待ったのだが未だに出てくる気配がない。
「遅いなぁ。もしかして失敗?」
「マスター、繭はまだ健在です。恐らく時間が掛かるものかと」
「なるほどね、シロ。あ、そうだ。今のうちにコイツらの収容先を作っておいてくれ。あと、お前達に預けたモンスターの成長具合をデータにして提出よろしく」
「承知しました。収容先は、ゼクトの配下である蟻型モンスターにやらせます。データはお任せを」
「わかった。後、新たなモンスターを召喚可能にしたから、この件が終わり次第召喚するよ」
「わかりました」
そう言ってシロは、部屋から退出した。そして俺は、【ボックス】から魔石屋で買った魔石取り出しダンジョンに吸収させる。良し。
さて、繭の方はというとまだ出てきていなかった。
「おいカゲマサ!!これ何時まで掛かるんだ!?」
「さあ?なんせ初めてだから」
ギオが、大声で叫ぶので適当に返す。待っている間にギオが勝負を仕掛けてきたりして、少し問題があったが何とか納めている間に三十分が経過した。そして遂にその時がきた。
「ん?」
「お!いよいよか!」
「やっとか」
繭にヒビが入ったのだ。ジ・キラー、ギオ、俺は、繭の方に目をやる。その間にもヒビは、どんどん大きくなり、やがて音をたてながら木っ端微塵に砕け散った。
「ふわああ、随分と長かったねぇ。って、なんだいあんた達。アタシをジロジロ見て」
そこには、ダークグレーのウェーブの掛かった長い髪にナイスバディの絶世の美女が。なんということか。どんなビフォーアフターだ。
「ん?あんた達、アタシの顔に何か付いてるかい?」
「え!?い、いや、魔女ミレンダ、だよね?」
「そうだよ、何言ってるんだい」
「あ、いや、その」
「おおっ!美人だなババア!!」
余りの変化に俺が返答に困っていると、ギオが元気に叫んだ。
「ああ!?誰がババアだい!この戦闘バカが!」
「ははっ!美人になったからいいじゃねぇか!」
「はいはい、一旦落ち着け」
ギオとミレンダが喧嘩になりそうだったので、直ぐに諌める。そして、ミレンダを《鑑定》してみる。
名前 ミレンダ
種族 中級魔人
職業 闇の魔導士
レベル 1
ランク B
スキル 闇魔法の達人・・闇魔法の威力、効果上昇 呪術の達人・・呪術の威力、効果上昇 錬金術の達人・・錬金術の精度、効果上昇 etc...
おおっ!いい具合になってるぞ!
俺は、若干興奮しながら鑑定結果をミレンダに伝える。
「なるほどねぇ。レベルは1からってのは面倒だけど、また上げればいいさね」
たいして気にしてなさそうである。
「ならいいさ。これからよろしくね、ミレンダよ」
「まあ、よろしく頼むね。アタシの期待を裏切るんじゃないよ?」
「当たり前だ」
頼もしい味方獲得である。
◆フリン公国首都ツンドルン ヤーレラ城
一方その時、フリン公国首都ツンドルンにあるヤーレラ城では、魔導士ジメイが執務室で必死になって資料を見ていた。後ろには、ちゃんと二人の護衛がいる。
「くっ、やはりプーリ侯爵領は少ない。公王に進言して攻め滅ぼし、一気に回収するか?いや、その為の兵力がたりない!」
ジメイは、ブツブツと独り言を呟きながら資料を捲っていく。
「・・・0.2%、0.7%、0.5%・・・・糞が!やはりローバント牢獄の分が著しく下がっている!前は10%以上だったのに!このままでは」
『何やら慌ただしいね』
「ッ!!」
突如として響いた声、ジメイは慌てて声のした方向、目玉の模様のついた水晶玉に振り向き跪く。
「申し訳ございません!いらっしゃるとは思わず!」
『ハッハッハ、いいさいいさ。で、例のエネルギーは?』
「はっ!日に日に貯まっていますが、まだ53%までしか貯まっておらず」
『ほお、溜まりがわるいのかい?』
「はっ!申し訳ございません!」
水晶玉の声の主は、暫く黙りこむと再び口を開く。
『ふうむ、しょうがないな。ならばもう少し待とう。僕もそこまで鬼じゃないし』
「あ、ありがとうございます!」
『じゃあ切るよ。君なら僕の注文通りの働きができるはずさ。ねえ?“僧正”ジメイ?』
「はっ!ご期待に沿えるよう頑張ります!“王”!」
するとジメイは、急いで部屋を後にした。
『あ、そうそう、今フリン公国に厄介な人物が紛れてるよ?名前は、え~っと、カゲマサって奴だ。一応は警戒、ってもういないか。まあ、いいや』
そう言ったきり水晶玉は、声を出さなくなった。
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