“男殺し”の勧誘
開幕一発目で断られたよ。俺が男だからか?ならば、“男殺し”の異名は伊達ではない。だって、今もなお彼女の目は憎しみしかないもの。まあ、諦めないが。看守が気づくまでの勝負だ。ガバガバだがな。
「まあまあ、そう言わずにさぁ。あ、もしかして照れ屋」
「黙れ。さっさと私の前から消え失せろ」
あ~・・・、これは相当男嫌ってるな。
「なあ、何でそんなに男を嫌う?」
「貴様には関係無い」
う~む、仕方ない。脅すか。時間無いしな、うん。俺は、スキルに含まれている《威圧》を発動させて質問した。
「もう一度聞く。何故、男を、嫌う?性分か?魔族としてのプライドか?・・・恨みか?」
恨み。その言葉に“男殺し”は、酷く反応する。職業にも復讐者ってあったからかね?
「ふ~ん、恨みねぇ~。ひょっとして、君が男嫌いなのも恨みが切っ掛けかな?」
「ッ!!」
「もしかして、この国にその復讐対象が」
「黙れッ!!貴様に何がわかる!!」
“男殺し”は激昂し、牢屋の隙間から俺に掴み掛かろうとしたが、俺は素手で止める。
「くっ!」
「その反応は、当たりだな?だとしたら」
「うるさい!!薄汚い男の分際で図に乗るな!!己の欲望しか考えていない獣が!」
「その割には、俺の隣にいる魔女ミレンダは自分の欲望の為に仲間になったぞ?」
「ッ!!」
「まあ、アタシは魔法実験をして魔法の高みに上りたいだけね」
ミレンダが、補足するようにそう言う。こいつの場合マッドな気配がするからな。
「ぐ、だが私は!」
「復讐したいなら、丁度いい案件がある」
「は?」
「俺の計画に参加するなら、お前の復讐相手を見つけてやる。復讐の場も用意してやる。お互いの利益の為に手を組もうじゃないか」
「・・・う、・・・ふ、復讐」
「そう、復讐だ。お前にも利益はある。それとも、復讐せずずっとこの牢獄にいるか?そんな納得できない人生でいいのか?いや、いいはずがない」
俺は、“男殺し”の目が揺らいだのを見た。もう一息だ。
「なあ、“男殺し”。いや、ジ・キラー」
「お前・・・!何故私の名前を!?」
「手を組んでくれ。俺にはお前が必要だ。共に目的を果たそう」
俺は、内心ヒヤヒヤしながらカリスマ風に言う。自分で言ってて、滅茶苦茶恥ずかしいねコレ!!
ジ・キラーは、しばらく俯き何かを決めた顔で顔を上げた。
「・・・チッ、いいだろう、手を組んでやる。精々私の期待を裏切るな。裏切った瞬間その首を掻き切ってやる」
滅茶苦茶嫌そうな顔で言われた。まあ、手を組んでくれるだけましか。裏切る気なんかないし。
「それでいい。じゃあ、牢屋を開けるぞ」
俺は、魔法【アンロック】で鍵を開けた。ついでにジ・キラーとミレンダの手下?も解放した。散乱していた人骨は【ボックス】に収納する。
「さて、さっさとここから出るぞ。え~っと、確か魔法書に団体転移に向いている魔法が。あ、あったあった。【ゲート】」
すると、俺の目の前に白い楕円形の光が現れた。場所は、盗賊を殲滅した山城に設定した。
「ホラホラ、さっさといけぇ~。俺は、連れを待たなくては」
「お待たせしました!」
ちょうど終わらせたのか、ミルスが天井からスタッと降りてきた。
「遅かったな。もう勧誘終わったぞ」
「すいません!兵士達の遅延工作をしておりまして!」
「ならば良し。さっさと【ゲート】潜れ」
「はい!」
ミルスは、【ゲート】を潜り転移する。残った俺はというと、【ボックス】からチンピラ等の死体を取り出し、血がまだあることを確認すると、チンピラの腕を抉る。
(少なくとも、殺されたと判断してくれたらうれしいな)
死体からあふれでる血を辺りに撒き散らし、いかにも何かあった風に装う。そして、血をあふれだしていた死体を解体、辺りにばら蒔く。それを三回繰り返した。
作業を終わらせた後、俺は【ゲート】から退散した。
その後、今さら見張りの兵士が到着し、囚人が一人もいない最下層の現状に驚愕した。それ以降、ローバント牢獄史上最悪の大事件、“血の失踪事件”として語り継がれていく。
◆フリン公国 ヤーレラ城
「くそガァァァ!!!!」
フリン公国ヤーレラ城。フリン公国の象徴の城で一人の男が発狂していた。
「どこ行きやがったァァ!?あの囚人共!!一体どうやって消えやがったァァァァァ!!」
フリン公国の公王の側近の魔導士、ジメイである。彼の執務室で彼は、書いていたであろう書類を握り潰していた。そして、彼の後ろには何本ものチューブに繋がれた透明の巨大ビーカー。ビーカーに入っているどす黒い液体。
「最下層の囚人共が消えてから、エネルギーの充填率の伸びが悪くなった!!奴等は、良い苗床だったのだ!なのに!なのにィィィ!!」
ジメイはしばらく発狂し、少し落ち着いたのか水を飲む。
「はぁ、はぁ、はぁ、落ち着け。落ち着くのだ」
ジメイは、最下層の囚人のリスト、そのコピーをめくる。そこで目を向けたのが、とある人物の名前。
「“男殺し”。ジ・キラー、か。あの女・・」
ジメイは、忌々しいように吐き捨てると、リストを床に捨て去る。
「はっ!今はあの女は捨て置こう。急がねば、急いでエネルギーを・・・!」
執務室を出て、ブツブツと呟きながらジメイは歩いていった。焦燥に刈られたように。
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