ダンジョンバトル、決着
何ということだ。オリハルコンゴーレムに対して必死になっていたせいで、ユラの存在が頭から抜け落ちてしまっていたとは!
「ほ、本当だ!いないよ!?」
「しかも、ダンジョンコアまでねぇぞ!?」
台座の上に置かれていたコアは、綺麗さっぱりと消えている。
「あ、さっきぶっ飛ばしたサキュバスもいねぇ!?」
リューゼが、先程気絶させたハイサキュバスのキュースがいないことにも気づく。
不味い。このまま姿を眩ませられたら、見つけるのが面倒になる。ええい!何か無いか!?奴の居場所が分かる方法が!
「なあ、魔法で敵の位置が分かるのって無いのか?」
「え?それなら、【サーチ】っていう空間魔法があるんだけ」
「それだ!」
俺は、魔力を集中させる。そして、集中させた魔力を拡散ようなイメージを行う。
「【サーチ】」
今のところは何の反応も無い。俺は、魔力をもっと広範囲に拡散させた。すると、三つ程の反応があるではないか。
「見つけた!お前ら、行くぞ!」
「え?」「は?」
俺は、アルカとリューゼの腕を掴む。
「【ディメンションムーヴ】!」
そして、その場から二人と転移した。
◆ユラの屋敷、廊下
時は少し遡る。無事ダンジョンコアを持って脱出したユラは、廊下を必死に走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
普段から肉体の訓練を怠っていたユラは、息切れしているものの必死に駆けていた。
(まだよ。まだ終わっていないわ!屋敷には、まだ予備の兵力を隠してある!それらを使えば!)
オリハルコンゴーレムは強い。オリハルコンで出来たボディは、いかなる攻撃をも受け付け無い。そして、その攻撃力も圧巻の一言だ。唯一、スピードが乏しいが並の存在ならば問題なく勝てる・・・はずだった。
(まさか、まさかオリハルコンゴーレムが破れるなんて!一体カゲマサって男は何だって言うのよ!?)
事実、カゲマサはオリハルコンゴーレムの攻撃を食らい、致命傷を負ったのに【ヒール】の魔力で瞬時に回復してしまった。そして、そのあと真っ正面からオリハルコンゴーレムを下して見せた。
(というか、【ヒール】ってあんなに回復するものなの!?あんなの、【メガヒール】並の回復力じゃない!?)
ユラが、そんなことを考えながら必死に走っていると。
「ユラ様ぁぁぁぁ!!!!」
「え?」
後ろから声が聞こえてくる。振り替えると、こちらに走ってくるキュースの姿が見えた。
「キュース!」
「ユラ様、申し訳ありません!遅れました!」
「いいわ!とにかく今は、急いで予備兵力と合流するのよ!」
「はい!!」
キュースと合流したユラは、再び走り出す。すると、一つの大部屋に着いた。そこには。
「ん?あれは?・・・ッ!?」
「は、ハイサ!?」
五人衆の一人でありハイサキュバスのハイサだった。ちょうど起きたらしく、身体を押さえながら辺りをキョロキョロと見渡している。
「ハイサ!」
「え?ゆ、ユラ様!?何故ここに!?」
「詳しい説明は後よ!付いてきて!」
「は、はっ!」
そしてユラ、キュース、ハイサの三人は扉の奥に走り出そうとした瞬間だった。
目の前に、カゲマサとアルカ、リューゼの三人が転移してきたのである。
「なっ!?」
「ふ~、間に合ったぜ」
ユラは驚き、カゲマサは安心した表情をしていた。今この場で、最終決戦の火蓋が切られたのである。
「・・・驚いた。まさか転移してくるなんて」
「魔法は得意なんでね」
ユラが悔しげに言い、俺は得意気にいい放つ。といっても、これは邪神から貰った膨大な魔力が無ければ無理だった。
「ユラ様!ここは我等にお任せを!」
「何としてでも道を作ります!」
ハイサとキュースは、決死の覚悟で足止めを志願した。
「駄目よ!彼等は一人だけでも、恐ろしい強さを持つのよ!?」
「しかし!」
「もうこれ以上!!仲間を失いたくない!!」
「ッ!!」
ユラは、涙を流しながら叫ぶ。その顔は、ハイサとキュースを動揺させるのに十分だった。
仲間。ハイサとキュースの知る限り、ユラはそんな言葉は一切言わなかった。というか、部下のことなど単なる道具としか見ていなかったような人だったのだ。
だが、同時に無理をしているような印象もあり、ハイサとキュースは気になっていた。そして二人は、笑顔でこう告げる。
「ユラ様。我等は、あなた様の為に命を捨てる覚悟は既に出来ております」
「でも!!」
「それに、仲間と呼んでくださるならば、せめて仲間らしく守らせてください」
「ッ!!」
「そうですよ!私達に任せてくださいって!」
「う、うぅぅぅ、ハイサァァァァ!キュースゥゥゥ!」
ユラは、泣き叫びながらハイサとキュースに抱きつく。一方、リューゼ、アルカ、カゲマサの三人はというと。
「・・・なあ、俺達は何を見せられているんだよ?演劇か?」
「・・・えっと、部下と上司の美しい友情の図、かな?それにしても、まさかユラが仲間思いだったなんて」
「・・・何か俺達、悪役みたいになってるよな。これ。正直に言ってやりづらいな」
絶賛困惑中だった。今まで小物に見えていたユラのまさかの一面に狼狽えているのだ。
「・・・どうするよ」
「どうするって、う~ん」
「じゃあ、この際だ。コアだけを狙おう。コアを割れば勝ちなんだし」
「「意義なし」」
カゲマサが提案しリューゼとアルカは了承した。
「じゃあ、俺がハイサキュバスの足止めをする。アルカは、ダンジョンコアを狙ってくれ。リューゼ、足止め付き合え」
「チッ、分かったぜ」
「了解だよ」
方針を決めたカゲマサ達は、今だに抱き合う三人を見ながら【フレイムアロー】を放つ。
「ユラ様!」
咄嗟にキュースが、ユラとハイサを担いで退避したお陰で傷はない。
「不意討ちとは卑怯な!」
「いや、卑怯も糞もあるのか?この勝負」
戦争において、不意討ちなど日常茶飯事だ。というか、このダンジョンだって角から不意討ちでモンスターが襲ってきたのだ。何を今さら、といった感じである。
「よし、俺はハイサをやる。お前はキュースに行け」
「へいへい」
「ユラ様!行ってください!」
「早く!ユラ様!」
カゲマサとリューゼは、標的を定めた。ハイサとキュースは、ユラを逃がすため二人に立ちはだかる。
「・・・・わがっだ。ざぎにいっでる」
涙を流しながらユラは、全力で走った。リューゼとカゲマサの側を駆け抜けたが、二人はあえて無視する。何故なら、ユラにはアルカという門番がいるのだから。
「良し、行ったな?足止め開始だ」
「先には行かせねぇぞ?サキュバス供!」
「行きますよ、キュース」
「うん!ハイサ!」
こうして、ハイサとキュース。カゲマサとリューゼの二組はぶつかった。
「行かせないよ、ユラ」
「・・・アルカ」
一方、アルカとユラはお互い対峙していた。
「しかし、驚いたな。典型的仲間を使い潰す大魔王派閥かと思いきや、まさかの仲間思いの異端な悪魔だったなんてね」
「・・・ふん、笑うなら笑うがいいわ」
「笑わないよ。寧ろ、君の本音が見れて嬉しいんだ」
「・・・」
「よくよく考えてみれば、君が使い捨てにしてたのって下っ端中の下っ端のモンスターだよね?幹部クラスのモンスターは、一切使い捨てにしていなかった」
「・・・ごちゃごちゃ言うのは止めにしましょう。一撃で決めるわ」
「じゃあ、こっちも一撃だよ」
ユラは、闇魔法で槍を造り出す。アルカは、剣を抜き魔力を集中させる。
「【ダークスピア】!!」
「【ダークスラッシュ】!!」
黒い槍と黒い剣が交差し、アルカの右胸に黒い槍が。ユラの腹に黒い剣が刺さって、腹部に隠してあったコアが砕け散った。
「あ・・・・・」
ユラは、呆然とコアが砕け散るところを見て僅かに言葉を出す。
『はぁ~い!ユラチームのコアの破壊を確認!よって新人トップ3チームの勝利!おめでとう!』
邪神のアナウンスが、ダンジョンに響き渡った。
決着です。
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