勇者②
勇者始末開始
「・・・・・え?」
勇者は、自分の胸に刺さった短剣と俺の叫びを聞いて呆然としている。その間に俺は、その青年の顔に全力の回し蹴りをお見舞いした。勇者は、軽く吹き飛び地に沈む。
(マスター、シロです)
(・・・シロ?なんで頭の中に?)
(はい、実は先程ダンジョン機能に追加されまして、ダンジョン通話という機能らしいです)
俺は、試しにダンジョンメニューを開く。お、あったあった。
(なるほど、これで連絡が楽になるな)
(はい。あの、マスター実は階層の各出入口に幹部の率いる部隊を配置させました)
(・・・・万が一逃げられないようにか?)
(はい)
(分かった。だが、俺は勝つ。見ていてくれ)
(そこは信じております。あと、私やナタリアもいますので)
ナタリアいるの!?後方待機でいいだろう!?
(ナタリアも戦いを見届けたいそうです)
(はあ~、分かったよ)
俺は、渋々許可を出し勇者に向き直る。勇者は、少し血反吐を吐きながら此方を見上げていた。
「おい、勇者。まさかこれで死んだとは言うまいな?」
「グッ、あ・・なたはいっ・・・たい?」
「俺か?俺はな~、教えるか!このクソ勇者が!!」
俺は、倒れている勇者を蹴り飛ばした。いいね、少しスッとしたよ。まだ足りんがな。
「グハッ!・・・僕、を騙したの・・か?」
「騙す?違うね!俺は、ちゃんと普通に真実を言ったさ。お前に大切な仲間を殺されたってな!」
「何・・・だ、と」
「お前、ワーウルフやオリハルコンアーマー、トロールジェネラルを殺しただろう」
「・・・ッ!?ま、まさかダンジョンマスター!?」
勇者は、辛うじて立ち上がり聖剣らしき剣を抜く。
「な、何が目的だ・・・。僕の命か?」
「何だ、さっきまで言葉が変だったのに今は普通だな。勇者効果か?」
「だ、黙れ!目的は何だ!?」
はあ~、と俺はため息を吐き出す。コイツは、俺の叫びを聞いてまだそんなことを抜かすのか。
「お前、さっきの話聞いてまだ分からないのか?仇討ちだよ仇討ち。お前に殺された仲間のな」
「あ、あれは命が狙われていたんだ!仕方がないだろう!?」
「あーあー、こういうのは結果論なんだよ。俺の中ではな」
俺は、冷や汗を流して対峙している勇者に向けて持論を持ち出す。
「結果論だと!?巫山戯るな!僕は、勇者として当たり前の事をしただけだ!」
「じゃあお前は、仕方ない理由で起こった事故で家族が死んだら事故を起こした犯人を許せるのかい?ん?」
「ッ!」
許せるはずがない。納得出来る筈が無い。仕方がない理由でも殺したのだ。仮に許しても、その事故を起こした犯人がいなければと感じてしまうだろう。勿論持論だ。理解して欲しいなどとは思わない。
「う、」
「う?」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!僕は勇者だ!モンスターを倒し、世界に平和を取り戻す事が僕の使命なんだ!!僕は、悪くない!盗賊だって、人々から略奪していた!殺したのは良かったんだ!不正をした貴族を殺したのだって国民の生活が悪化していたからだ!殺したおかげで国民の生活はマトモになった!復讐しに来た貴族一門を全て殺したのだって正当防衛なんだ!悪くない、悪くない悪くない!僕は、正しいことをしたんだ!僕は悪くない!」
あらら、随分と後ろ暗いことをしてきたんだねぇ?だが、心底どうでも良い。お前の苦悩なんぞ知るか。
「はん!モンスターや盗賊を倒すだけなら、軍や冒険者でも出来るんだよ!不正をした貴族?衛兵にでも調査を依頼しておけ!復讐しに来た貴族一門?殺したくないなら、ほっとけば良いものを!」
「うるさい!」
まあ、復讐しに来た不正貴族一門に関しては、殺したことは正解だと思う。復讐者はしつこいからなぁ。おや?聖剣に光が集まって・・・・・。
ヤベッ!?俺は咄嗟に真横へ跳ぶ。
何かが光ったと思ったら、地面に一直線の地割れが起きていた。
「・・・凄いな。聖大剣とやらの力は」
俺が感心していると、また光が集まってくる。チャージして放つ技かな?確証が足りん。そう思いながら俺がまた真横に跳ぶと、光の軌跡を写しながらソニックブームのようなものが俺の隣を横切る。僅かに俺の足が切れてしまった。
勇者は、再び先程のソニックブームの構えに入った。これで溜め技ということが分かった。良し。俺は、イメージを開始する。イメージするは、短距離の瞬間移動だ。ムムムムム、ハッ!
「【ディメンションムーヴ】」
すると、視界が切り替わり勇者の後ろに転移していた。良し、成功だ。
「ふん!」
「アガッ!?」
俺は、対象が消えて戸惑い間抜け面を晒している勇者の股間にキツイ蹴りを入れる。
「・・・ッ!!!」
男にとってもっとも大事な所を強打した勇者は、声にならない悲鳴を上げる。
俺は、股間を押さえのたうち回っている勇者を魔力をたくさん込めた【スリープ】で眠らせた。聖大剣や勇者の持ち物を剥ぎ取り、なおかつ手錠で動きを封じてから処刑場に持っていくことにした。
◆????
「剛力の勇者がやられた?」
「はい、先程意識があることを示す魔道具が光を帯びなくなりましたのでそう判断しました」
「へえ~。しかし、召喚したばかりとはいえ勇者を倒すとはやりますね。その新入りは」
そこは、暗闇が支配する部屋。その室内で二人の人物が話し合っていた。
敬語で話すのが、綺麗な執事服を着る美少年。
報告を受けたのが、銀色の髪に赤目の幼女。
幼女の言葉には、所々に期待が込められていた。
「いかがなさいますか?」
「ふふふ、そうね。会いに行ってみようかしら。支度なさい、ロロ」
「かしこまりました。ナナお嬢様」
ナナと呼ばれた幼女は、幼女に似つかわしく無い妖艶さな笑顔を浮かべた。
次回は、第二の先輩の予定です。
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