奪われた“冥府教”、第一遠征旅団
また長くなってしまいました。すいません。
待っていた方は、お待たせしました。
◆?????
カゲマサと血染めの貴婦人が愛の逃避行を行った翌日。
南方諸島ではない、あたり一面が真っ白な空間。そこには二人の女、黒いゴスロリ衣装を身に纏う幼女とその場に土下座をしている女性がいた。幼女は、顔をピキピキとさせながら土下座をしている女性に問いかけた。
「今、なんと言ったザマスか?」
憤怒を隠すことをせずにそう言う幼女は、“冥府教”の上級幹部である“女王”。対して、憤怒の“女王”の足元で土下座をしている女性は、三万人以上いる“騎士”の内が一人であるライ・ランスロットである。
「あ、あぁ〜、それがなぁ?失敗してもうたんや。デビルクラーケンの魔石回収」
ライ・ランスロットは、顔を上げながら事の顛末を話していく。
古代三海魔の魔石回収、それがランスロットが増やした自分達であるシーマン“騎士”に与えられた任務の一つだった。既に大海魔竜レヴィアタンと巨甲海亀ザラタンの魔石は、ほか二人のシーマン“騎士”が深海の底より回収している。
「ここまでは良かったんや。やけど、最後の最後で狂ったんよ」
最後の大海喰魔デビルクラーケン、その魔石が昨夜何者かに奪われたのだ。魔石を回収し輸送していた所までは良かったのだが、突如として何者かの強襲を受け魔石を奪われた。“騎士”を含む護衛のシーマンは全滅、魔石の行方は深海の闇の中となったわけだ。
「いや、今回はホンマに反省しとるんや。ほれ!この通り!」
ライ・ランスロットは、ヘラヘラと媚び諂った笑みを浮かべながら土下座をする。一方の“女王”はというと、憤怒の余り思わずライ・ランスロットの頭目掛けてナイフの如き回し蹴りを放った。
「反省してるんザマスか、この寄生虫!!」
「ぐぺっ!?」
“女王”の放った蹴りは、ランスロットの頭を胴体から千切り飛ばした。ランスロットの胴体はその場に崩れ落ち、頭は“女王”の手の中に収まる。
「貴女のせいで計画が狂ったザマス!もぉ、本当に何やってんザマスか!?」
「いやぁ、ホンマすんません。想定外だったんや。ヘヘッ」
「言い訳不要ゥゥゥゥ!ザマス!」
「あビュッ!」
アタマだけになったのだが、ヘラヘラと笑い余りに反省していない声音のランスロット。その態度に“女王”は、ランスロットの頭を真上に蹴り飛ばした。やがて、落ちてきた頭をタイミング良く拳を突き出し、遥かに遠くへランスロットの頭を飛ばしてしまった。
「ホンットに困るやつザマス!奴に増殖能力がなければ殺処分していた・・・ああ、はいはい。あら“王”、どうしたザマス?・・・え、ランスロットが失敗なくした時用にスペアを送っておいたぁ!?ザマス!?」
“女王”は、突然やってきた“冥府教”盟主からの《念話》に思わず大声になってしまったが、盟主からの《念話》は既に途切れた後だった。しかも、いつの間にか“女王”の眼の前に、一つの魔石が転がっていたではないか。あまりの手際の良さに“女王”は、初めからこの流れを読んでいたのかと問いただしたかったが、魔石を蔑ろにはできないので、さっさと《鑑定》する。
「えっ、氷嵐竜王?北方大陸王者の魔石を送るなんて、気前がいいザマスねぇ。“城砦”が取ってきたんザマスか?」
「あ〜、痛かったわ〜。魂六つぐらい消費してもうたで。って、“女王”はん。なんや、その魔石」
“女王”が魔石を持ったまま熟考していると、“女王”の後方から身体を修復したらしいランスロットが歩いてきた。首を鳴らしながら歩いてきたランスロットは、目についた氷嵐竜王の魔石を見て、ニヤリと笑った。
「なんや、代わりがあるんなら最初から言ってくれや。ホンマ謝り損やで」
「貴女・・・!まあ、良いザマス。さっさと、アレの元へ行くザマスよ」
「へいへ〜い」
「本当に少しは、反省するザマス!」
こうして二人は、お互いに言い合いながら白い空間から姿を消した。
◆南方諸島東部 魔王軍第三軍団海兵隊第一遠征旅団
なんでこうなった。
かつて、カゲマサのダンジョンへ突入した経験のある魔王軍第三軍団所属の第一遠征旅団長セイ・コーレンは、心の中でため息を吐いた。
「おい、また登ってきたぞ!迎撃準備!」
「魔導師、雷魔法だ!」
魔王軍第三軍団の中でも一二を争う武闘派である海兵隊第一遠征旅団は、今現在膨大な量のシーマンに襲われていた。もちろんシーマンだけではなく、上位種のシーマンウォーリアやシーマンウィザード、シーマンジェネラル。変異種のスクイードマンやシャークマンなどといったモンスターも襲いかかってきた。
この度重なる襲撃に第一遠征旅団の面々は、疲れを見え始めるだろうとセイは当初考えていた。その考えは、戦闘になった途端霧散したが。
「ヒャッハー!血だぁ!血が心地良いぜェー!!」
「オラオラ魚共!とっととかかってこい!俺様はまだまだ倒れておらんぞォ!」
「フヒヒヒヒ、アハハハハハハ!おい、どうしたぁ!そんなに魚の刺身になりたいか!?えぇっ!?」
セイが配属した第一遠征旅団、武闘派なんて言葉ではきかない程の暴れん坊の集まりだったのだ。今現在だって、襲いかかるシーマン達を男獅子獣人の兵士が爪と牙を用いて血祭りに上げ、男エルフの兵士が背丈以上の巨大な戦斧を振り回し、シーマン達の肉体をバラバラにし、女魔族の兵士が鉄鞭を振り回しながらシーマン達を無慈悲に切り裂いていく光景など、普段の軍人生活ではまず見ない光景を連日見せ続けられる羽目になった。
セイ・コーレンは、魔族では珍しく非戦派に属している。そんな彼が血生臭い光景を見て、普通にしていられる訳がない。実際彼は、目の前で無双している兵士達を見ながら、顔を青くして口元を抑えていた。
「オエェ・・。何でこの旅団の奴等は、こうも血生臭いんだ。気持ち割ぃ。・・うわっ、臓物飛んできた!」
「おや、旅団長殿。彼等の戦闘は四度目でしたな。まだ慣れないのも無理はありますまい」
吐きかけているセイに近付いてきたのは、魔王軍第三軍団海兵隊第一遠征旅団所属の第二大隊大隊長であり、第一遠征旅団の副官を務めるゼェル・ラッドリーという鼠獣人である。見た目は、愛らしい鼠耳が生えて小さな出っ歯とクリクリと動く眼がチャームポイントの美少年だ。そう、見た目は。
「こちら、酔い止めで御座います。気休めにはなりましょう」
「・・・ああ、ありがとう。・・貴官も休んだらどうだ?」
「いえ、これから魚共でバーベキューですので。あと、シーマンの踊り食いもやりたいですな。旅団長殿といかがか?」
そう言うゼェル大隊長の右手には刀身の長いレイピア、そしてレイピアに刺さっている複数体のシーマンの死体。ゼェル大隊長は、シーマンの死体を口から涎を垂らしながら見ている。そう、ゼェル大隊長の外面は良いが、中身は第一遠征旅団の面々と同じ血に飢えた獣なのだ。
「・・遠慮しておく」
セイは、それ以上の質問を辞めて酔い止めを飲み込む。一方のゼェルは、そうですかと無理に誘わずそのまま、いつの間にか開催されていたシーマン大食い大会に出向いていった。
「これなら、まだシャンガンといたほうがマシだ」
セイは、この先第一遠征旅団という猛獣達を扱い切れるだろうかと悲観し、溜息を吐いた。それと同時に自身の胃がキリキリとする音が聞こえた気がした。
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