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逃亡、三海魔の魔石

また遅くなりました。すいません。


誤字報告ありがとうございます。


◆ドシア王国 密貿易用港



 真っ二つになった邪魔者である〈帝将〉の死体から目を離し男の“騎士ナイト”は、己の胸ぐらを掴み怒りの形相になっている〈血染めの貴婦人〉となった自分ナイトを見る。


「何故邪魔をシタァ!ワタシと夫のイチャラブストーリーヲ!」

「いや、イチャラブストーリーって何や。悪質なストーカー行為やないかい」

「言い訳は聞きたくナイ!」


 男の“騎士ナイト”は、〈血染めの貴婦人〉の言葉に呆れを含んだ指摘をするも、〈血染めの貴婦人〉は男の“騎士ナイト”の言葉を自分への言い訳として、胸ぐらを掴む力を更に強める。


「許さなイ、ユルサナイィィ!」

「はぁ、面倒やな」

(というか、妙に長くアイツのことを覚えとるな。いつもなら、すぐに忘れる癖に。・・・ん?)


 〈血染めの貴婦人〉が憤怒に燃える中、男の“騎士ナイト”は違和感を覚える。〈血染めの貴婦人〉は、いつもならターゲットの男の妻と自称し、スライムの如く粘着し、一ミリでも女の影がちらついたら男共々女を惨殺し、あれだけ男の妻を自称したことなど綺麗サッパリ忘れて新たな夫を探し始める、他の“騎士”から見てもかなり異質な存在だ。

 だが今回は、対象を殺したにも関わらず対象をしっかり覚えている。これは、つまり〈血染めの貴婦人〉に奴を殺したという確信がなかったということではないか。ということは、〈帝将〉はまだ生きている訳で。


(いや、まさか。体はおろか重要な箇所である脳まで真っ二つにされたんや。ワイらでも、魂を幾つか消費してでもないと再生出来へん。どこまで強かろうと、魂が一つしかない奴に再生出来る筈が・・・・ッ!?)


 男の“騎士ナイト”は、自身の予想を否定するように〈帝将〉の死体が倒れていた場所を見て、愕然とする。


 無かったのだ。おびただしい数の血痕を残しながらも、倒れているはずの〈帝将〉の死体が。


「は、ハアッ!?嘘やろ!?って、邪魔や!」

「グギィ!?」


 男の“騎士ナイト”は、胸ぐらをつかんでいる〈血の貴婦人〉の顎を蹴り上げ、手を離させる。そして、血痕の調べ始めた。


「ん?血痕が続いて・・・あっ!」


 男の“騎士ナイト”は、血痕が妙に伸びていることを気付いて血痕を追っていくと、港の船着き場で止まっていた。つまり。


「もう、逃げられた後かい・・・っ!糞ったれ!」


 男の“騎士ナイト”は、その場で地団駄を踏むが、踏んだところで何も変わらないことを知っているので、苛立ちを残しながらも撤退することにした。


「チッ、おい。さっさと退くで。〈帝将〉の対策を錬らなアカン」

「アアアアアアァァァ!!貴方ァァァ!何処にイルノォォォォォォ!!」

「・・・ホンマに手間を掛けさせるなぁ。コイツ」


 男の“騎士ナイト”は、懐から一つの魔道具を取り出す。それは、白く丸い球体に黒い錠前が付いている、奇妙な物であった。そして錠前には、一本の鍵が差し込まれている。男の“騎士ナイト”は、差し込まれた鍵を黒い錠前から抜き出す。すると、空を覆っていた透明の膜が消え去った。


「はあ、せっかく“女王(クイーン)”はんから〈空間封錠ロック・オブ・ディメンション〉を借り受けたのに、無駄になったわ」

「アアアアァァァーーー!私の夫ォォォォォォ!」

「うっさい!さっさと帰るで!」


 男の“騎士ナイト”は、〈血染めの貴婦人〉の頭を掴み、苛立ちを顕にしながらその場から消え去った。
















◆南方諸島中央部 海底 カゲマサside



 危なかった。肉体の再生がもっと遅かったら、確実に死んでいたぞ、あれは。

 俺は、《環境適応》と《水泳の達人》、《暗殺者》などのスキルを駆使して、海底を泳いでいた。


「クソっ。あの“騎士”共め!今度会ったら、ただでは済ませんぞ」


 俺は、そんな小物の如きセリフを吐きながら海底を泳いでいく。

 さて、何故俺が脳ごと身体を真っ二つにされてなお生きているのか。答えは単純で、二つに断たれた直後にスキル《超速再生》を使い、肉体を一つにくっつけただけだ。大したことではない。だが、“騎士”二人が喧嘩を始めて俺から気を離さなければ、再生させる隙さえなく死んでしまっていただろう。

 まあ、現に生きているのだから問題はない。生きていれば、奴等に一泡吹かせる機会もあるだろう。


「そうだ、生きていればチャンスはある。だが、この幸運が何時までも続くと思うなよ、カゲマサ」


 俺は、自分にそう言い聞かせると、泳ぐスピードを早めた。すると、スキル《存在感知》が何者かの接近を知らせてくる。


「ん?敵性生物?数は、五十だと?」


 今は、真夜中の暗い海の中。いくら目を凝らしても、敵影は見えない。俺は、さっさとスキル《暗視》を用いて敵を探し、見つけた。


「あれは、シーマン?いや、シーマンにしてはデカイぞ?」


 俺が見たのは、巨大なシーマン?と巨大なシーマン?に率いられたシーマン達だった。余りにも怪しかったので、スキル《鑑定》を使って確認して見る。



名前

種族 邪魂寄生者 シーマンエンペラー

職業 “冥府教”上級幹部“騎士” 部族長

ランク B+

レベル 30

スキル 多魂操王コピー 地獄王コピー 悪意還元(コピー) 魚人王 槍術 身体能力強化 水生物



 マジですか。寄りにもよって、本日三人目の“騎士”じゃないか。

 俺は、ゲンナリしながらもシーマン“騎士”の動向を探る。よく見ると、奴等は何かを慎重に運んでいるように見えた。それこそ、危険な爆弾を取り扱うような慎重さだ。


(ふむ、アレを奪えば少しは溜飲も下がるかな?)


 俺は、ニヤリと嗤いながら、ナニかを運ぶシーマン“騎士”の一団に密かに急接近した。















 南方諸島中央部の海底にて、五十名からなる部隊が密かに行軍していた。


「ふ〜、良し。もう少しで“女王クイーン”はんの指定した島やな。この劇物を渡して終了、いや〜楽な仕事や」


 部隊を率いるのは、突如として中央部のシーマン部族に入り込み掌握した、シーマンエンペラーもとい“騎士”。彼は、カゲマサに壊滅させられた西部のシーマン連合の長の一人の肉体に寄生し、中央部のシーマン部族に紛れ瞬く間に長として君臨した。その目的は、対強者用に使う使い捨ての戦力集め、そして今回のとある物の探索・輸送であった。


「これで、全部揃ったことになるんか?確かえ〜っと、古の巨竜の化石に大量の死の力、そしてこの古代三海魔の魔石やったけな」


 シーマン“騎士”は、頼まれた物について記憶を穿り返していく。


「確か古代三海魔の魔石の内二つ、東部にあった大海魔竜レヴィアタンの魔石と中央部にあった巨甲亀ザラタンの魔石、そしてワイの運ぶ西部の海悪魔デビルクラーケンの魔石。というか、何で西部まで行かされてんねん、ワイ。まあ、仕事やからしゃあないけど」


 古代三海魔。現代より、遥か太古から存在していた三体の災害級モンスターの総称。

 一度暴れると、東部の海のあちこちに巨大な渦巻きを発生させ、何十隻もの船を破壊した、大海魔竜たいかいまりゅうレヴィアタン。

 小島よりも遥かに大きい甲羅と肉体を持ち、その巨体故に動くだけで津波を発生させ近隣諸国を壊滅へと追いやった、巨甲海亀きょこうかいきザラタン。

 途方も無い悪食を誇り、八本の腕を使って数々の船を海の中へ引きずり込み船ごと船員を捕食していった、大海喰魔たいかいほうまデビルクラーケン。

 三体とも、南方諸島の人間や亜人といった者達の間では、知らぬものなどいないレベルのモンスターである。大海喰魔たいかいほうまデビルクラーケンに至っては、十年前まで生きていた。


「で、レヴィアタンは、大昔にロシフェル聖王国の〈神罰者〉マリアンナの母であるセリアンヌに討ち取られ、ザラタンは当時のセブンス帝国から救援に来た帝国軍第二軍大将ヤヌイ・フラークによって相打ち、デビルクラーケンは確か戦女アマゾネスの将軍であったハルニスタ・グオールによって相打ちになったんやっけ」


 シーマン“騎士”は、首を鳴らしながら思い出していく。そして、相打ちありきだとはいえ、人間がよくもまあ、あの古代三海魔に勝てたものだと感心した。三人中二人は、ハイエルフと戦女アマゾネスという亜人だが。


「いや〜、ホンマにセリアンヌもヤヌイも死んで良かったわ。ハルニスタに至っては、アレやもんな〜。グフフ」

「ほお、ハルニスタとやらはどうなったのだ」

「それは、秘密。ワイ等にしかわからんようにしとんねん」

「それは残念。しかし、古代三海魔か。是非ともお目にかかりたかったものだな」

「ははは、そんなこと出来たら見てみたい・・・なっ!?いつの間に!?」


 いつの間にか話し相手が出来ていたことに驚いたシーマン“騎士”は、急いでその場を離れようとする。だが。


「遅い」


 敵、カゲマサは既に手刀をシーマン“騎士”の胸にねじ込んだ後だった。そして、カゲマサは魔法を発動させる。


「ち、ちくしょ」

「【エクスプロージョン】」


 この日“女王クイーン”へ魔石を届けるはずだった部隊は、深海の底へと消えていった。デビルクラーケンの魔石と共に。


良かったならば、高評価、ブックマーク登録、誤字脱字報告等、よろしくお願い致します。

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