vs血染めの貴婦人③
最近暑いですね。皆さんも、熱中症にお気をつけください。
◆アマゾネス女王国王城 女王の私室
カゲマサが“騎士”の攻撃の〈剛力鬼拳〉によって、両腕の肘より先が引き千切られた時と同じ頃、アマゾネス女王国女王のヒッポリュテ・アマゾネスは、自身の私室にて久方ぶりの休憩を行っていた。
「はあ」
ヒッポリュテは、小さく溜息を吐く。本来の彼女は、溜息など滅多に吐かないのだが、今日は何度も溜息を吐いている。その最たる原因として、フェオール・テニシアとその配下の誘拐事件やアマゾネス女王国の精鋭部隊が例の黒い島で全滅したこと等だ。
あの一件以降、フェオール・テニシアが仕切っていた歓楽街では動揺と困惑が広がっており、中にはフェオール・テニシアが死んだと早合点し、フェオールの後釜を狙う輩もいる。また、アマゾネス女王国のペンテレイシア率いる精鋭部隊が未帰還になっていることが国内のみならず、支配している島々の男性間に噂として広がり、小規模だが種馬用の男性達による反乱が次々と起こった。現在は鎮圧したが、次また何処で起こるか予断を許さない状況にある。
「・・・糞っ!」
ヒッポリュテは、思わず眼の前にあった机に拳を振りかぶり、思い切り叩きつけた。大きな破壊音と共に、机は粉々となり残骸となって辺りに散らばる。
「これも、全て忌々しい雄のせいだ・・ッ!」
ヒッポリュテは、絞り出すような声で国内を荒らした存在を貶す。そう、こうなったのも従魔であるアングを殺し、フェオール達を誘拐し、精鋭部隊を全滅させた男が関係している。少なくとも、ヒッポリュテは判断していた。
「今頃、ペンテレイシアやフェオールはどうなっているのか」
ヒッポリュテは、一旦怒りを抑えた後、恐らく囚われているであろう部下達を思い浮かべた。皆外界基準でも、非常に美人揃いだ。外界の下衆な男共から見れば、捕まえた女虜囚など欲望の捌け口とするのに格好の的であろう。彼女達の有様を想像し、ヒッポリュテは身体を震わせる。
「やはり、私だけでも取り返しに行くべきか・・」
ヒッポリュテは、アマゾネス女王国女王にして最強の存在である。自分が出向けば、男共を皆殺しにしつつ部下達を助けられるかもしれない。
「いや、駄目だ。国内を安定させなければ下手に動けん。はぁ」
しかし、国内で種馬の反乱や民の不安を沈めなければ迂闊に動けないことを思い出したヒッポリュテは、自身の考えを却下した。そして、何度目か分からぬ溜息を吐く。
「こんな時、ペンテレイシアの母君がいてくれれば、どんなに楽だっただろうか」
ヒッポリュテは、脳内にボサボサに伸びた赤髪と豊満な肉体を揺らしながら、笑顔で敵を殲滅していく女戦士を思い浮かべる。彼女の突破力は、常に女王軍に高い士気をもたらし、敵に絶対の死を想起させるものだった。そんな彼女は、十年前に国内の海域で突如現れた巨大なタコ型モンスター、ランクA+の化け物である大海喰魔デビルクラーケンとの一騎打ちの末に相打ち、海の藻屑となってしまったが。
「はあ、無いものねだりは出来んな。全く」
ヒッポリュテは、悪化していく現状に再び溜息を吐き、先行き不透明なアマゾネス女王国の未来を憂いるのだった。
◆ドシア王国 密貿易用港 カゲマサside
「おらぁ、死ねぇ!【ヘルフレイム】ゥ!」
俺は、顔を赤らめながら笑顔で突進してくる“騎士”に、火系統魔法を放つ。
「モウ!何よアナタ!この炎のように熱く愛し合いたいデスっテ!?もう、旦那様ったラ〜っ!」
だが“騎士”は、意味不明なことを吐いた後、俺の【ヘルフレイム】を右手に持った大鉈で、真っ二つに切り裂いた。更には、大鉈の一振りによる余波で、いくつもの建物が倒壊したではないか。
「ぐぬっ、俺の魔法をぶった斬った挙げ句、建物までに衝撃がいくとは。ますます化物だな、お前ぇ!」
「アハハはは、嬉しいワ。嬉しいワ嬉しいワ嬉しいワ!アナタに褒められるなんテ!今夜は、お祝いネ!」
俺の罵倒に何を勘違いしたのか、褒められたと取った“騎士”は、顔をニヨニヨさせながら大鉈を振るう。俺は、ギリギリで大鉈を躱し、直様海のある方向へと駆け出した。
(これ以上、こんな異常者を相手にしていたら、こちらがおかしくなりそうだ。さっさと島を出て空間魔法で逃げるしかない!)
「ここで決める!【アクセラレート】!」
俺は、加速魔法【アクセラレート】を発動させ、一気に加速。海へと走っていった。だがここで、思わぬ邪魔が入る。
「待ちぃな。お前には、ここで死んでもらわにゃあアカンねん」
「っ!?」
現れたのは、ボデグリューの脳内で見た存在とは違うものの、根本の気配が後ろから接近してくる“騎士”と同じ男。それが意味するのは。
「テメェ、“騎士”ォォ!」
「《冥血剣・血ノ池地獄》」
俺の怒声と共に放たれた蹴りが男“騎士”の腹に直撃するが、男“騎士”は、意に介さずスキルを発動させる。たちまち血ノ池の中に拘束される俺だったが、ならばと全身を超高熱で覆い、血ノ池を蒸発させようとした。
「残念、遅かったな。ほい」
だが、そうするよりも早く男“騎士”は、血ノ池を俺に向かってくる巨体の赤髪“騎士”の前に移動させる。赤髪“騎士”は、既に大鉈を振り上げており、止めることはできない。
「ッ!?ワタシ、お前ェェェェッ!!?」
「悪いと思っとる、いやホントに」
男“騎士”は、悪いと言いながらもその顔を面白くて仕方ないのか、邪悪な笑みを浮かべていた。対して赤髪“騎士”は、顔を絶望に染めながら大鉈を振り下ろす。
そして、振り下ろされた大鉈は、呆気なく俺を真っ二つにした。
「アアアアアアアァアアアアァーーーーっ!!」
結果、夜の港に一人の女の絶叫が響き渡った。
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