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中央部の噂話

かなり、短い。難産です。


◆南方諸島中央部北の海域 元無人島 カゲマサside



 無人島改造に着手して三日が経過した。今まで一人のモグラマスターと少数のモンスター、野生の動植物が生息し毒草の胞子によって守られた楽園だった無人島が、今では島全域にイボノキ草やロート草等の毒草の胞子がバラ撒かれ多くのモンスターが組織的に警備を行い、囲む山々がモンスターひしめく天然の要塞と化していた。


「ふ〜、かなり急ピッチで改造してしまった。いや、早いことは良いことだけど。派遣するモンスターの選抜には、ちょっと苦労したなぁ」


 無人島全体の改造二日目にあたって、どの程度の戦力を常駐させるのか、最高幹部であるシロやキラー達と議論していた。俺としては、ダンジョン本部より遥か遠方に配置されるので皆嫌がるのかなと思っていたのだが、どうも俺の役に立つことが最優先だそうで、全ての部下が手を上げてくれた。

 俺は、あまりの忠誠心の高さに涙しかけたのだが、島が毒胞子だらけになっていることを思い出して、常駐する人員に《毒耐性》があることを条件に各部下から選抜した。


「改めて思ったが、戦乱地帯でこの程度の数か。大丈夫か?」


 俺は、シロが纏めた簡易組織表を見ながら不安を口にする。

 この島に常駐する戦力は、《毒耐性》所持済みの〈兵士〉三千体。軍隊でいうと、凡そ三個大隊ほどの規模だ。装備は、迷宮研究所開発の物でダンジョンでも高性能なものばかりである。〈上級兵士〉は、六百体という六個中隊規模。装備も兵士と同じだ。下級幹部の〈百魔〉はというと、クロウを含めて六体。それぞれが〈兵士〉五百体に〈上級兵士〉百体の計六百体を率いる。最後に、これを率いるのは幹部の〈狂星〉タマモ。第十一階層守護者であり、〈狂星〉内部でも指折りの魔導師である。いや、スキルが《妖術王》なので正確には妖術師か?

 余談だが、試験的にドラゴンベビーを何体か島内に放った。ドラゴンベビーは、あらゆる可能性を秘めた赤ん坊なので、どんな進化を遂げるか楽しみだ。


「良し。この部隊は、南方方面軍第一連隊と名付けようか。タマモ、連隊長として部隊の統率を頼んだぞ?」

「任せよ!妾に掛かれば万事上手くいく!ところで、マスター?妾は、今夜空いておるぞ?」

「さて、クロウから情報を聞きに行くか!」

「ま、マスターのいけずぅ!」


 俺は、色っぽく誘ってきたタマモを笑顔で無視して、クロウの元へ向かった。背後から聞こえてきたタマモの涙ながらの叫びを聞き流しながら。

 暫く歩いてクロウのいる小山の山頂にある山小屋へ到着した。クロウは、山小屋の中でノートに必死で書き込みを行っており、如何に沢山の情報を仕入れてくれているのかが見て取れる。


「よう、クロウ。やってるな」

「っ!おお、マスター!よくぞいらっしゃった!」

「おう、情報の入り具合を見させてもらうぜ」

「どうぞご覧くだされ!」


 クロウは、ノートに書き込むことを止めて俺に近づいてきた。俺は、それを手で制するとノートを手に取り、ページを捲っていく。そして、顔を引きつらせた。

 ノートの内容は、民衆の噂話レベルの物から貴族達の密談、各国家の機密や弱みについて等が記載されており、三日で手に入れて良い代物ではなかった。ハッキリ言って中央部の国家にとって厄ネタとも言えるノートがこの世に誕生したのだ。


「···クロウ。このあと南方方面軍第一連隊幹部と会議を行う。無人島、いや第四サブダンジョン地下三階層の会議室に来てくれ」

「はっ!了解致しました!」


 俺は、厄ネタノートを手にクロウに命じると、クロウは疲れを見せない元気な敬礼で返した。














 第四サブダンジョン、地下第三階層会議室。そこには、俺とタマモ、そしてノートを持つクロウに他の〈百魔〉の五人が揃っていた。


「さて、これより中央部における情報の共有兼今後の方針について話し合いたいと思う。クロウ、頼む」

「はっ!では、儂から話させてもらいます!」


 クロウは、敬礼するとノートを開いて情報を話し始めた。

 まず中央部の状況についてだが、やはりと言うべきか至るところで戦争が発生しているらしい。小競り合いは、もはや日常レベルに頻発しているようで、人が湯水の如く死んでいくようだ。だが、それでも人口が微々たる程度しか減っておらず、この世界の人間の出産率はどうなっていると俺は内心頭を抱える。

 次に国家について。小さな国家は、情報通り十個以上あり、今は十三個存在するようだ。それぞれの国が資源や肥沃な領土などを取るべく、戦争を続けているらしい。中堅国家は、中央部に六つあり、領土となる島々に鉱山や多少肥沃な領土を持っていることによって、小国に強く出れる。が、やはり同じ中堅国家同士と戦争をしている始末。こちらは、より多くの利益を求めて敵の領土を奪おうとしているのだ。最後に、中央部における大国家、これは二つしかなく毎日の如く争っている。理由は、面子の維持と言う情けないもの。そして、お互いの国内にあるダンジョンを手に入れて国力増大を狙っているらしい。


「···戦争しすぎだろう。十中八九“冥府教”が絡んでいるのだろうが」

「まったく、野蛮な連中よのぅ」


 俺の言葉にタマモが気味が悪いといった顔をして、俺の腕にしがみついていた。俺が優しく振りほどくと、寂しそうに顔を歪ませて席に座り直す。何か悪いことをした気分だが、構わずクロウの話に耳を傾けた。


 報告は、国家からより正確な情勢の話へと移行する。まず中央部に広がっている噂話だが、国民達は戦争が起きすぎていることに違和感を覚えており、国の王達が何者かに操られているのではないか、という噂話が広まっていること。商人の間でも、ここまで続く戦争に違和感を感じて、それとなく国上層部に言ってみたが、戦争が止む気配がないらしい。


 俺は、ここまで聞いて“冥府教”の手が入っていることを確信する。国民達でさえ違和感を覚える程の戦争継続、これは死の力とやらを集めるための工作だと考えたのだ。

 極めつけは、中堅国家と大国家についての話を聞いたときである。


「中堅国家に眷属を飛ばした時になんですが、とある国家の人気のない場所で、数人の赤ローブが何やら話し合っていたのですよ」

「大国家でも、同様のことがありましたね。会話の端々には、戦争、助長、悲願といった言葉が含まれていました」


 どうやら、“冥府教”の手はかなり奥に入り込んでいるらしい。

 俺は、げんなりする気持ちを抑えながら情報をまとめて、どう活用するか頭を働かせんのであった。

 

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