中央部侵入、拠点確保
誤字報告ありがとう御座います。
◆黒岩島サブダンジョン 港区画 カゲマサside
港区画の一角で開催された宴会は、俺以外のジレイク含めた奴等が度数の高いスピリタスとかいう酒を飲みまくり酔い潰れて寝てしまったことで閉会した。マヤは、終始給仕役であっちこっち歩き回ったことで酒を飲み暇がなく、現在は俺の側で宴会の後片付けをしていた。因みに俺はというと。
「··良し。雷槍良し。外套良し。仮面良し。ダミーコア良し。後は··」
【ボックス】の中を覗き込み、中央部に忍び込む為の最終点検を行っていた。いきなり戦乱が起こる場所は行くのだ。備えぐらいする。
「御主人様、本当に行かれるのですか?危険地帯なのですから、部下に任せればよろしいでしょう」
「ああ、ただの戦乱地帯ならば、そうしたさ。だが“冥府教”が関わっている所に生半可な部下は送れない。最悪寝返られて、こちらの情報が抜き取られる」
「···私達が信じられませんか?」
マヤは、俺を悲しみに満ちた目で見る。正直そんな目は、反則だと思うが敵は“冥府教”だ。どんな手札を持ってるかわからない。もしかすると、魂を掌握して操るなんてスキルを所持しているかもしれない。
「お前達のことは、とても信頼している。だがこればっかりは、頼めない。敵があまりにも正体不明だからだ」
正体不明。何があるかわからないから任せられないのだ。故に、送らない。やるとしても、情報収集部隊を同行させるぐらいだ。
「···わかりました。でも、お辛くなったら何時でもお頼りくださいね?」
「無論そのつもりだ」
俺は、未だに寝ているジレイク達に目を向ける。彼女等は、幸せそうに酒瓶片手に寝っ転がっていた。ある者は、鼻から風船を出している奴がいる。
「じゃあ、行ってくる。皆への説明と虜囚共の管理、頼んだぞ?アマゾネス女王国がまた攻めてきたら、すぐ連絡を寄越してくれ」
「···了解しました、御主人様!」
マヤは、悲しみの目から強い意志を持つ目になり笑顔で俺を見送ることにしたようだ。俺は、その様子に満足しながら【ボックス】を閉じる。そして、【フライ】を発動させて港区画が飛び去った。
「どうか、ご無事で」
マヤの呟きを耳に耳に入れながら。
黒岩島から東の方向へ海面スレスレで高速飛行している俺は、道中に敵性モンスターがいないか《存在感知》で探していた。
(飛行中に邪魔してくる奴は、先んじて排除しなくては、ん?反応あったな)
俺の予想が当たったのか、俺の前方の海面から三体のダブルヘッドシャークが飛び出してきたではないか。
「邪魔。こっちは、一分一秒が惜しいんだ」
俺は、苛立ちを露わにしながら久々に加速魔法【アクセラレート】を発動させる。すると、周りの動きが急激に遅くなった。俺は、その隙にダブルヘッドシャークの胴体を手刀て切断。念の為に内蔵を【フレイム】で焼き尽くす。
俺は、【アクセラレート】を解除する。すると、今までスローモーションだった周りが通常の速度で動き出した。だが、ダブルヘッドシャークはバラバラになりながら体の中を焼かれ、何が起こったのか理解出来ずに絶命する。俺は、死体をさっさと回収しながら中央部へと急いだ。
だが海は、俺が思っている以上に敵が多く、ダブルヘッドシャーク以外にも大量のモンスターが襲いかかってきた。
海面から飛び上がり、こちらに向けて水玉を放ってくるテッポウアジ。
海の中からの奇襲で俺を串刺しにしようとする、カジキマグロ。
群れを率いて俺に体当たりを敢行する、クラッシュマグロ。
海面から首を上げて俺を喰おうとする大海蛇、シーサーペント。
主にコイツ等が集中して俺を襲ったのだ。まるで、俺に中央部に入ってきてほしくないかのように。そう思っても仕方無いぐらいに数多くのモンスターが、俺に襲い掛かってくる。おかげで、常時【デス】を待機させながら高速飛行するという、魔力消費が激しい手段を取らざる負えなかった。
このあと数多くの妨害はあったものの、俺はどうにか南方諸島中央部、北の海域に侵入したのであった。
「···チッ、やはりあの程度の手駒では始末出来へんか。まあ、だからこそ派遣されたんやろうけどな」
遠く離れた海域から顔を出していた一体のシーマンに気付かずに。
南方諸島中央部、北の海域。その北の海域北西に、一つの無人島があった。その無人島は、約100km²程の島で周りを小山が囲み貴重な資源はなく、農業に適しているわけでもなく、森林や草原が広がっていた。
人間の手が入っていないので、自然は豊か。小鳥がさえずり、虫達が飛び回る穏やかな世界が広がり、外の戦乱とは無縁の場所だった。
そんな無人島に一人の来客が現れる。その来客は、無人島にすむ全ての動物にとって、異質な気配を持つ存在だった。動物達は、その異質な気配を本能で恐れ我先に逃げ出す。
そして、その選択は遅過ぎた。
目標の中央部にある無人島に着いた俺は、早速小山を飛び越えて島内部の森に侵入する。
「ほ〜、中々に落ち着いた所じゃないか。戦乱続きの中央部にある島とは思えん」
俺は、森の中を駆け抜けながらそう呟く。道中小動物のモンスターが襲いかかってきたが、軽く殺害して【ボックス】に放り込み、ダンジョンになりそうな洞窟を探す。
「しかし、ここまで人がいないとは。益々俺にとって都合が良い。いざというときの、避難場所にできるかも知れんし。周りが山に囲まれているのもグッドだ」
俺は、そう呟きながら森を出て草原を駆ける。すると、島の中央にあたる場所に丘があり一つの穴があった。穴の大きさは、ちょうど半径一メートルの穴で、中から五十程の敵意が《存在感知》が嗅ぎ取った。
「試してみよう。【フロード】【エンチャント·デスヴェノム】」
俺は、洪水を起こす水魔法【フロード】と致死性の毒を操る【デスヴェノム】を洪水に【エンチャント】した。これによって、唯の洪水が触れるだけで生物は死ぬという常軌を逸する災害に早変わりだ。
俺が放った洪水、いやもう【ヴェノムフロード】と呼ぶか。【ヴェノムフロード】は、穴へと侵略し生物の命を次々と刈り取っていく。やがて、穴の中が【ヴェノムフロード】による毒水に浸された時、俺はスキル《環境適応》を発動させて穴の中に潜水した。
穴の中は、アリの巣のように枝分かれしており、通常の人間だと迷うことは必須。だが、俺の前では無意味だ。所々には、生物、いや低ランクだがモグラ系統のモンスターの死骸が漂っており、この穴がモグラのモンスターの巣窟だと教えてくれる。
やがて穴の最奥へとたどり着いた。そして、俺は驚愕することになる。
「オイオイ、マジかよ」
最奥にあったのは、一体のモグラを無理矢理二足歩行にしたようなモンスターと一つの丸い球体、ダンジョンコアだったのだ。それが意味するのは、つまり。
「あのモグラ人間、ダンジョンマスターか!なんでこんな無人島にいるんだ!?」
俺は、漂うモグラ人間の死体を見ながら驚愕を顕にする。まさか、こんな無人島でダンジョンを運営しているなど、運が無さ過ぎる。領域内にいる動植物からDPが取れるとはいえ、人の居ない場所で強大に育つわけがない。何時生まれたかは知らないが、本当に不運な奴だ。
「まあ、良いか。新たなサブダンジョンを提供してくれたと思うと、感謝しないとな。ありがとう」
俺は、モグラのダンジョンマスターのコアを手にとって、握力で握り砕く。
「さあ、邪魔な生物を皆殺しにした後で、ゆっくりとこの島を拠点に改造しよう」
そう言って嗤う俺の顔は、他者から見たらとんでもない大悪党と思われるだろう。それぐらい、俺は悪どい笑顔を浮かべていた。
良かったならば、高評価、ブックマーク登録、誤字脱字報告等、よろしくお願い致します。




