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会談とボテグリューの最後

誤字報告ありがとうございます。


今回も難産でした。


◆フィリア王国 王都マバナ



 フィリア王国王都マバナの王城にて、フィリア王国国王のアーネスと側近である宰相は、心臓をバクバクさせながら目の前の仮面の男と面会していた。その仮面の男とは、かの超大国セブンス帝国から派遣されてきた戦力、カゲマサである。


「か、カカ、カゲマサ殿。此度の戦へのご助力、大いに助かった。れ、礼を言う」

「いえ、今回の一件は帝国上層部が決めた事案ですので。礼は帝国政府に言ってください」

「そ、そうか」


 国王アーネスは、カゲマサの素っ気無い態度とは裏腹にカゲマサから感じる不気味さに、内心恐れ慄き足がガタガタとなることを必死に抑えるだけで精一杯たった。

 そんな国王アーネスの様子に宰相は、冷や汗を拭って内心ため息を吐きながらカゲマサに口を開いた。


「ところでカゲマサ殿。何故帝国は、我等がフィリア王国にご助力することになったのだろうか?どんなに誇張しようと、フィリア王国は大国どころか中堅国家とも言えない小国だ。そんな国に何故帝国が?」


 宰相としては、そこが一番の気掛かりだった。セブンス帝国が西方大陸一どころか、世界を見ても一位、二位を争える超大国である。そんな国が何故フィリア王国に肩入れするのか分からなかった。更には、どんな対価を要求されるか気が気でなかったのだ。


「帝国上層部は、見返りとして貿易の対象を南方諸島国家からセブンス帝国及び西方大陸諸国へと移してほしいそうです」


 カゲマサから帰ってきた返答は、西方大陸との貿易強化の要求だった。宰相は、余りにも軽い対価と感じた。

 現在の南方諸島は、至るところで戦乱が巻き起こる混沌とした場所である。そんな所では落ち着いて貿易出来ないし、出来たところで腐るほどいる海賊達によって商品や金を根こそぎ奪われるのがオチなのだ。ならばいっそ、西方諸国との貿易を拡大したほうが確実に利益が出る。

 宰相は、国王アーネスにそのことを耳打ちする。アーネスは、暫し悩んだ後首を縦に振った。


「わ、わかった。帝国の対価を受け入れる。宰相よ、この会談が終わり次第財務卿と外務卿に連絡を取り、西方諸国との貿易の強化に当たれ」

「ははっ!」


 アーネスは、宰相の返事に満足そうに頷くと同時に内心ほくそ笑む。

 帝国や西方諸国との貿易は強化するが、南方諸島国家との貿易を辞めるとは言っていない。つまり、帝国からの輸入品をそのまま南方諸島国家に流したり南方諸島国家からの輸入品を西方諸国に流すことが可能になる。フィリア王国は、その中継地点となれるのだ。上手く行けば、今より遥かに利益を出す事ことが出来る。

 アーネスは、そこまで考えて頬が緩むのを抑えていたが、カゲマサの一言で現実に引き戻された。


「ありがとうございます。帝国としても、貴方達に南方諸島国家との中継役をかって出て頂けて幸いです」


 その一言にアーネスは、己の欲望は帝国の想定通りなのだということに気がついた。少し知略家を気取ったが自分には向いてないらしいと、アーネスは愚痴る。


「あ、アハハハ、そうだなぁ〜」

「ええ、そうですとも。西方諸国は、南方諸島国家の珍しいものを手に入れる事ができる。フィリア王国は、貿易の中継役として更に利益を得る。お互いに得があるんですからね」


 カゲマサは、仮面で表情がわからないが恐らく笑っているのだろう。若干空気が緩んだ雰囲気が出ている。

 少し緩んだ雰囲気が流れたが、その時カゲマサの雰囲気が引き締められる。


「そして、もう二つの要求を」

「っ!?な、なにかね?」

「南方諸島での、私の行動の黙認。詮索の禁止。これを認めていただきたい」

「な、何をするつもりなのかね?ま、まさか南方諸島の支配」

「違います」


 カゲマサの南方諸島での行動の黙認、詮索の禁止。この条件にアーネスは疑い宰相は、内心首を傾げるが詮索したら帝国に消されそうな気がしたので黙っておくことにした。


「わ、わかった」

「ありがとうございます。ところで、私が持ってきた手土産はどうしてますか?」

「あ、ああ。アマゾネス女王国の将軍ボテグリューなら地下の牢屋に閉じ込めているが」

「ふむ···」


 カゲマサが持ってきたアマゾネス女王国軍の将軍であるボテグリューは、厳重に縛って牢屋に入れられた。現状そうするしかない。因みにアマゾネス女王国の兵士達は、全てカゲマサが持っていってしまった。

 宰相は、カゲマサがアマゾネス女王国の兵士達を部下と共に持っていった理由がわからなかったが、アーネスは急に黙り込んだカゲマサが気になるようだった。


「か、カゲマサ殿。急に黙ってどうしたのだ?」

「いや、情報隠匿の為に暗殺されないかと」

「会談中失礼致します!」


 カゲマサの不穏な指摘と同時に一人の兵士が駆け込んできた。アーネスと宰相は、追加のアマゾネス女王国軍がやってきたのかと恐れたが、兵士の報告は予想とは違った。


「ど、どうしたのだ?」

「はっ!それが、地下牢に閉じ込めたボテグリューが、首無し死体となって発見されましたぁ!」

「「な、なんだと!?」」


 アーネスと宰相は、驚きの表情を浮かべながら叫び、カゲマサはやはりかと呟いた。

 

 三人が地下牢に急行すると、牢屋の中には首を無くした死体が横たわっていた。血がドクドクと溢れ出しているので殺されたばかりなのだろう。


「お、おお。なんと痛ましい··!アマゾネス女王国は、情報隠蔽の為には部下の命を捨てるか!」

「それが当たり前なのでしょう。あちらさんは。さて、用は済んだので失礼」

「えっ、ちょっと」


 アーネスが呼び止めるがカゲマサは、スタスタと歩いていきその場から去っていった。その場には、アーネスと宰相、護衛の兵士が取り残された。
















◆黒岩島 サブダンジョン カゲマサside



 フィリア王国上層部との会談を終えた俺は、転移で黒岩島に帰ってきた。そして、警備に当たっていた部下達を労った後、持ち帰ったアマゾネス女王国の兵士達を収容した牢屋に向かった。


「よう。お前等の言う下郎に捉えられた気分はどうだ」

「「「···」」」


 だんまりか。まあ、気分が悪すぎて口に出す気が無いのは分かるがな。

 俺は、黙り込むアマゾネス女王国兵士達から目を離して、一番奥の牢屋に入れられた存在へと目を向けた。


「お前は答えてくれるのか?ボテグリュー」

「うるさい!早く儂をここから出せ!」


 やれやれ。コイツは、俺が命を救ったことを知らないらしい。教える義理無いから話さんけど。

 何故首無し死体となった筈のボテグリューがいるのか。それは、俺の用意した死体が偽物だからである。フィリア王国に引き渡す直前に、〈ミレンダ謹製の肉人形〉と入れ替えたのだ。

 〈ミレンダ謹製の肉人形〉とは、ミレンダが人体実験の過程で作り出した〈生きた魔道具(バイオアイテム)〉。対象の髪の毛や唾液などのDNAを取り込ませると、対象とまったく同じ姿に変身するのだ。オマケに対象の行動と癖も完コピするので、偽物と疑われない。こんな物を作り出せるミレンダを仲間にして良かったなぁ。

 さて、さっさとボテグリューに聞くかぁ。


「スキル《真実》。おい、ボテグリュー。今回のフィリア王国侵攻は、アマゾネス女王国の女王が決めたのか?」

「違う!儂の栄達の為に女王陛下へ一日で落とせると説得したからだ!··はっ!何故儂はこのことを!?」


 なるほど。こいつ自身の出世の為にしでかしたのか。まあ、これは《真実》が聞くかどうか確かめる為のテストだ。次の質問が本命だからな。


「《真実》。お前にそう言うよう焚き付けたのは、一体何処のどいつだ?」

「それは、儂の目の前に現れた女商人だ!確か、ライ·ランスロットと名乗っていた!」


 ふぅ〜ん。ライ·ランスロットね。どれ、記憶を探るか。そうすれば、嫌でも出てくる。


「おら、【メモリーハッキング】」

「っ!な、何をする!やめっ!」


 俺は、ボテグリューの静止を無視して記憶に入り込む。そして、ボテグリューとライ·ランスロットと思わしき存在が会っている場面を発見した。


『では、今攻めれば楽に攻め落とせると?』

『ええ、まあ。あの国は徴兵制やから兵士は、今近隣の村々に返されましてなぁ。つまり、戦力が分散されとんのです。そこを一気に叩き潰せば』

『···なるほど!よかろう、儂が攻め落としてやろう!』

『おおきに。そうしてくれると助かりますわぁ』


 なんだ。この妙に関西弁じみた言葉の女は。というか、よく見たら赤いフードに赤い靴と赤い手袋って、思いっきり“冥府教”の手先だよな?

 と、俺が推測していた時だった。唐突にライ·ランスロットが、()()()()()()()()()()。記憶の映像である存在が、だ。


『ほぉ〜ん。まさかここまで記憶を覗ける奴がおったかぁ。ええやん。やけど、残念。見られたからには、自爆するしかないわァァァ!!』


 あ、ヤッベ!コイツ等記憶に罠貼ることが出来るの忘れてた!

 俺は、間一髪でボテグリューから手を離す。そして、バックステップでボテグリューから離れると同時に風魔法【ウィンドバズーカ】で吹き飛ばした。


「がはっ!お、おい!一体何を···おおォォォ!?」


 いきなり吹き飛ばされたボテグリューは、起き上がるなり抗議したが、唐突に頭が膨れだしたのだ。


「な、なんだコレは!?た、たすけ··へバァ!?」


 元のサイズから何十倍も肥大化したボテグリューの頭は、ボテグリューの命乞いと共に破裂。血と頭蓋骨片を撒き散らしながら、ボテグリューの身体は崩れ落ちた。


「···掃除が大変だな。だが、これでわかったぞ。裏に“冥府教”がいるのは確実だ」


 俺は、静かに呟きながら血や頭蓋骨片をダンジョンに吸収させた。


良かったならば、高評価、ブックマーク登録、誤字脱字報告等、よろしくお願い致します。

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