ダンジョン防衛作戦、第二十一~第二十五階層
難産でした。
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
「ふ~、上手くいったか」
俺は、ベルゼニュートやハングリーデーモン達が冒険者や私兵団構成員を始末し終えたことを確認すると、安堵の溜め息を吐いた。
「ベルゼニュートの場合、ある意味幸せな死かもしれませんね。なんせ、痛みも苦痛も味わうことなく死ねたのですから」
「いや、飢餓で苦痛は味わったんじゃないか?シロよ。・・・まあ死んだのならどうでも良い。死体は、迷宮研究所に回せ。貴重な素体だ」
「御心のままに」
俺の命令にシロは、恭しく頭を下げる。それを眺めながらモニターに目を移す。
「ふむ・・・。どうやら心配は無さそうだな」
俺は、少しニヤケながらモニターを眺める。そこには、第二十三階層以外の階層の様子が写し出されていた。
◆ダンジョン第二十一階層
ダンジョン第二十一階層。その階層にも暗黒街は広がっている。紫色の月が空に浮かんでおり、暗闇に満ちた暗黒街を怪しく照らしていた。そんな階層に落ちた冒険者+私兵団達はというと、絶賛逃走中だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそったれ!私兵団の奴ら、余計なことをしやがって!疫病神が!」
そう悪態を吐きながら逃走するのは、アテリス・ローデンブルクというBランク冒険者である。彼は、共に連れてきた仲間と一緒に暗黒街を逃げ回っていた。
「あ、アテリスさぁん!奴が!奴がもうすぐ側にィィィィ!!」
「走れェェ!とにかく走れェェ!それしか生き残れねぇ!!」
仲間の一人がアテリスに叫び、アテリスも仲間に叫び返す。その時、アテリス達の後方から「ドゴォォォン!!」と激しい破壊音が聞こえてきた。そして、破壊音のした方向から高速で飛んでくる物体が三つ。
「うおっと!?」
その内の一つがアテリス達の方へ飛んできたので、アテリスは咄嗟に手にした大盾でガードした。
「糞!なんだってんだ!ん?こいつらは」
アテリスが飛んできた物体を覗き込むと、それは自分達と同様に落ちてきた私兵団構成員だったものだ。今は、頭を捥がれ身体も見るも無惨に引き裂かれている。
「・・・ッ!?糞、嫌なもん見ちまった!」
「アテリスさん!上、上ェェ!!」
「ッ!!やべっ!」
引き裂かれた死体を見てアテリスは、上から落下してきたナニカに気付き、その場から退避した。
グシャアァァ!!
と、派手に音を立てながら死体を踏み潰して登場したソレは、ゆっくりとアテリス達に振り向く。
「ヒ、ヒヒヒヒ、や、やっと、おいつい、た~よ?」
ソレは、簡単にいえば異形。人間から見たら余りにも、化け物という言葉が似合いすぎる存在だった。
まず造形だが、下半身が芋虫のようなブヨブヨの肉塊で、右側面から四本と左側面から四本のバッタの脚が生えていた。上半身は、芋虫のようなブヨブヨの肉塊の先端に生えており、その上半身はさながらトロール。しかしトロールには無い四本の腕に背中から生える一本の巨大な植物などが存在していた。四本の腕は、上二本がカマキリの鎌、下二本が普通のトロールの腕となっている。身体の色は、全身真っ黒だ。
「ああ、糞!本当に糞だ!よりにもよってウチがこんな化け物と当たるとはなぁ!」
アテリスは、目の前の異形を睨み付けながら悪態をつく。そしてチラッと異形の怪物を《鑑定》してみた。
名前
種族 動物型人工魔人
職業 迷宮研究所直轄実験部隊所属
レベル 20
ランク %@&<
スキル $¥%=:-=
種族や職業、レベルはわかったがランクとスキルは隠蔽されてしまった。
「糞が!肝心なときに役に立たねぇ!」
アテリスは、再び悪態をつくが状況は待ってくれない。動物型人工魔人が二本の鎌を此方に振るってくるのが見えたからだ。
「ぬうゥゥおォォ!!スキル《金剛》《頑強》《魔力障壁》《引き付け》!!」
アテリスは、大盾を構えながらスキルの重ねがけを行う。その甲斐あってか、動物型人工魔人の鎌を大盾は受け止めた。
(良し!受け止めたぞ!あとは、隙を見て逃げ・・っ!?)
アテリスは、鎌を受け止めたことに少し高揚しながらも逃げることを優先したが、大盾にとある変化が起きたことに気付く。
(た、盾が、溶けてやがる!?)
《金剛》や《頑強》などの防御・耐久系統のスキルを使っているのにも関わらず、グズグズと大盾は溶けていく。
「糞ぉ!」
アテリスは、すかさず大盾を捨て、魔法鞄という魔道具から予備の大盾を取り出す、が。
「ヒヒヒヒ、ヒヒ、ブパァァ!!」
敵の動物型人工魔人が八本あるバッタの脚で、アテリスの直上に跳躍。そしてトロールの口から黄色の液体を吐き出した。黄色の液体は、アテリスの持つ予備の大盾に直撃し、またもやグズグズに溶けていった。
「なっ!?糞っ!これじゃ埒が・・・あ」
アテリスが再び大盾を出そうとして、上を見上げる。そこには、大量に降り掛かる黄色の液体。
そこでアテリスの意識は、途絶えた。
「ひ、ヒヒヒヒ、他の奴も皆殺し、ヒヒヒヒ」
動物型人工魔人は、狂ったように笑いながら次の獲物を探し始めた。
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
俺は、あの動物型人工魔人を見ながらシロに問いかける。
「シロ、あの人工魔人は?」
「あれは、迷宮研究所主任のミレンダと昆虫学者魔人との合作だそうで。野生のトロールの死体を素体に開発したとのことで」
「なるほど・・・」
俺は、件の動物型人工魔人を見ながら頷く。そして再びモニターに目を移した。とはいっても、そこまで特筆するものはなかった。
ダンジョン第二十ニ階層では、カース率いるアンデッド軍団ちよる物量作戦でごり押し。
第二十四階層では、悪魔達が冒険者の一部を精神魔法【ドミネイト】で支配、同士討ちさせた。
第二十五階層では、落ちた側からキラーが殴り殺していった。
ここまで行くと、いっそ清々しいほどの大戦果である。ダンジョンの防衛力はどんどん上がっている。
俺は、そう判断してキラーの階層からクロの階層へと目を向けた。
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