赤き怪人②
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◆港町セイワン 路地裏広場 カゲマサside
冷たい潮風が夜のセイワンに吹き付ける中、路地裏の広場にて二人の存在が対峙していた。
(···何者だ?いや、一体何時からいた?【サーチ】や《存在関知》、《熱源関知》まで使ったのに?)
俺は、建物の上に立つ赤いコートを纏った存在を警戒しながら見る。容姿は、赤い髪に赤目の容姿端麗の男性。因みに《鑑定》したのだが。
名前 ???
種族 ???
職業 ???
レベル ???
ランク ???
スキル ???
と、厳重に阻害されていた。
「おんやぁ?♪無視ですかぁ~?♪薄情ですねぇ~♪」
赤いコートを纏った存在は、わざとらしく悲しそうな表情ですすり泣く仕草をとる。しかしその目は、悲しいとは真逆で心底愉快と語っているように見えた。
「···誰だ貴様」
「んん~、無視!♪···まあ、良いでしょう♪ところでお客さん。あの作品、どう思います?♪」
「質問に答えろ」
「おや、作品が見えておられない?♪ほらぁ、貴方の後ろに鎮座しているでしょう♪」
会話が通じない?いや、此方の会話に興味が無いのか?
その後も何度か言葉を交わしたが、いっこうに通じる気配がないので、警戒しながら後ろの死体の山に目を向ける。
「···あれがなんだって言うんだ?」
「よくぞ聞いてくれました♪あれこそ興がのって造り出した私の力作!♪」
赤いコートを纏った存在、いや長いな。赤コートと呼ぶか。赤コートは、大袈裟に腕を広げながら、まるでお気に入りを自慢する子供のように話し始めた。
「作品名は、『女神と縋る狂信者』♪なんともシンプルでインパクトある作品でしょうか!♪あ、あの木に打ってある少女は女神役です♪何でも一週間前にロシフェル聖王国の聖堂教会から派遣されてきた新米シスターらしく♪なにやらスラムの住人に施しをしていたのでさらってきました♪足元にいるのは狂信者役の聖神信者達です♪シスターを拐ったら追いかけていらっしゃったので、シスター共々私の力作になってもらいました♪あ、頭蓋が割れているのは狂信者であると示す為ですよ?♪狂信者は、信仰している者しか信じず、周りの考えを認めない愚かな能無しなので、実際に脳を取り出して考え無しに縋る狂信者を表現しました♪」
一気に語った赤コートは、ふ~~っ、と息をついて再び語り出す。
「因みに取り出した脳は、砂漠のモンスターに食わせましたよ♪いや~この砂漠には、犬やら蠍やら蜥蜴やらが多いですねぇ~♪まあ、私の敵ではありませんでしたが。では、貴方様に伺いましょう♪私の力作、いかがですか?♪」
···随分と猟奇的な思考を持つやつだ。俺の第一印象はそれだった。実際に赤コートは、残忍な笑顔を浮かべているし、目には次はお前だと語っている。誉めようが貶そうが関係なさそうだ。ならば、俺の正直な感想を言うか。
「···興味が無い」
「···ほう?♪」
「俺なら、そんなことしている暇があるなら、己の目的を果たすのに全力を注ぐ」
「なるほどなるほど♪興味が無い、ですか♪」
赤コートは、少し面食らった状態になったが直ぐに持ち直して、再び話し出す。
「ふ、ふふふふふふ♪興味が無いなど初めて言われましたよ♪私の力作に選ばれた方々は、やれ残虐だ残酷だ、こんなもの存在してはならないなどほざいていましたが、漏れなく力作になっていただきました♪命ほしさに称賛したものも同様に♪心無い称賛ほど不快なものはないですから♪」
不快といいながらも心底面白いといった表情で語る赤コート。なんとも不気味なやつだ。
「そんな者等とは違い、興味が無いとは♪ふふふふ、貴方、中々のイカれてますねぇ♪」
「知らん。俺は、目的のために必要ならば悲しむが、コイツらは別に重要な者達ではない。なら、構うだけ無駄だ」
俺は淡々と答える。実際、彼等に価値はない。価値を図ろうにもすでに死んでいる。強いて言える価値は、人工魔人の素体としてだ。
「それをイカれてると言うのですよ♪私のような常識人からすればあまりにも、ねぇ♪」
「はっ、常識人だと?人間の倫理観で言えば、貴様は十分イカれてるさ」
「おやおやおやおや、私のような常識人を異常者呼ばわりとは♪人間の死に悦楽を見いだして何が悪いんです?♪これだから異常者は♪」
「自覚しろよ外道。見てるとイライラする」
「此方もイライラしますとも、異常者さん♪」
俺は、【ボックス】から一本の剣を取り出した。赤コートは、背中からゆっくりと剣を抜いた。
「さて、戦うならあの力作はいりませんね♪《冥炎剣・灼熱地獄》♪」
そう言うやいなや、赤コートは自らが力作と称した死体の山を剣から放出した炎で焼き払ったではないか。
「おい、力作じゃなかったのか」
「いやいや、新たな力作には犠牲はつきもの♪次の力作は、貴方の死体を中心に制作しますよ♪気が向いたらです、が!♪」
言い終わる前に赤コートは、急加速。そして俺の剣と赤コートの剣が打ち合った。その余波なのか、地面がひび割れた。
「いきなりか貴様は!」
「戦いに合図などないでしょう♪そら、《冥針剣・針山地獄》♪」
赤コートが唱えると、俺の足元から無数の太い針が生えてくる。俺は、慌てて赤コートから離れる。そしてある確信を得た。
いや、ある程度予想していたが、案の定当たったと言うべきか。
《冥針剣・針山地獄》。俺は、それを知っている。詳しく言えば、偶然見たというか。
まさかこんな場所で見つかるとは、思っていなかった。
「ああ、そうか。
貴様が“騎士”か」
俺は、確信をもって呟いた。
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