死霊公の軍団①
死霊公の軍団が来ました。
◆西の町
「くそ!援軍はまだか!?」
「領都から冒険者と神官、領軍の混合部隊が向かっているって連絡は来たが・・・」
「間に合わないぞ!どれだけアンデッドがいると思ってんだ!?後少しで突破される!」
西の町は今、風前の灯だった。町に冒険者と神官はいたが、いかんせんアンデッドの数が多すぎた。スケルトンやゾンビ、グールなどのアンデッドをいくら倒そうが、次々と襲いかかってくる。更に言えば、アンデッドには恐怖や疲労といったものが無い。一方で人間は、絶え間なく襲いかかってくるアンデッドの波に肉体的にも精神的にも追い詰められていった。
「おい!大変だ!」
「こっちも大変だよ!今度はなんだ!?」
「こっちに向かってた援軍が、アンデッドに襲われて全滅したんだよ!」
「な、なんだと!?」
町を守る領軍にとって、絶望的な情報が舞い込み領軍の士気はみるみる減った。
その時だった。
ドゴォォォォォォン!!
一瞬だけ壁の向こうが光ったと思ったら、凄まじい破壊音が聞こえてきたではないか。
「ッ!?な、なんだ!?」
「壁の向こうからだぞ!」
領軍の兵士達は、急いで物見塔に登った。そこには。
三千体を超えるアンデッドだった死体が転がっていた。そして戦場のあちこちに、何かで抉りとったような跡が見受けられた。
極めつけに空に一体の黒いドラゴンが、威風堂々と滞空していた。
「ひ、ヒィィ・・・・ド、ドラ・・・・」
「な、何で」
領軍の兵士達は、アンデッドが消えて安堵した心が一瞬で砕け散り、ドラゴンに対する恐怖心で、動けなくなった。
それもそのはず、人間の間でもドラゴンは最強の生物である。ランクCレベルのドラゴンでも、小国の軍では対処不能。大国の軍でも、実力のある兵士で一個中隊を編成し綿密な作戦をたてなければ倒せない。それも一個中隊が全滅する覚悟を持たなくてはならない。一人で倒せるとしたら、勇者や英雄といった超人とされる者達である。
そんな化け物を目の前にして恐怖心を抱くのは当たり前である。むしろ抱かない方がおかしい。
そして黒いドラゴン、クロはそんな兵士達を見て、あきれたようにため息をつく。
(全く、こんなアンデッド共に手こずるなんてな。人間は強い奴は強い、弱い奴は弱い、ってことか?)
下では、ロウガから借りたシャドウウルフが走り回っていた。アンデッドにある魔石を回収しているのだ。シャドウウルフは《隠密》と《影走り》というスキルを持ち、偵察、情報収集を得意とするモンスターである。
因みに他のアンデッドだが、ゴブリン、オーク、リビングアーマーの混合部隊によって次々と数を減らしていった。
「ああもう。本当数が多いっすね!」
「わかるぞゴブイチ殿。呆れたくなる数ですな!」
「・・・真面目にやる。」
ゴブイチとオークのブ族の長、そしてヨロイがそんな会話をしながらアンデッドを駆逐していった。
そして、三十分後西の町に押し寄せたアンデッドの軍勢は全滅、ゴブリンやオーク、リビングアーマーのレベルアップに大きく貢献した。
この後に兵士は、こう語ったという。
「確かにアンデッドは消えたけど、俺たちは何も出来なかった。あのときドラゴンが来てなかったら、俺達は皆死んでたよ」
と。その兵士の目には、圧倒的な力への畏怖が込められていたという。
次回は、死霊公の軍団②の予定です。
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