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閑話 領主の苦悩、森のオークたち

閑話です。


「はぁぁぁ」


 そうため息をついたのは、セブンス帝国領である影正たちの住む森から北西部に位置する街、ファースを治める領主マジーメ・ドミニク。今年で18歳の若き領主である。(この世界では、15歳から成人)階級は辺境伯。


 そこにコンコンとドアがノックされた。


「失礼します。ぼっちゃ・・・・・閣下、報告書をお持ちました」

「・・・ああ」


 入ってきたのは、壮年の男性でマジーメが最も信頼する家臣であるオルフェ・コーコーヤという男である。


「それで、どうだった?」

「ハッ。報告させていただきます」


オルフェは、報告書を読み上げる。


 ヤミノアール商会の積み荷を奪った盗賊と盗賊を討伐しにいった冒険者の二パーティーが帰還していない。


 ヤミノアール商会と繋がっている闇ギルド、日本でいうヤクザが、積み荷が来ないことにしびれを切らし、森へ人員を派遣した。


 森からのモンスター出現率が下がっている。


 各地の村にアンデットが出現し、村人を殺し回っている。領軍が駆けつけた時には、既にアンデットは姿を消していた。村人の死体と共に。


 オルフェがそこまで読み上げると、マジーメは疲れたように聞いた。


「じゃあ、1について聞こうか。まだ戻っていないのか?」

「はい。あれから二日経過しておりますが、まだ帰還しておりません」

「だが、Dランク冒険者チームの中でも実力派なんだろう?」

「しかし、現に帰還していません。恐らく何らかのトラブルが起きたと思われます」


 ならしかたないなとマジーメは諦め、2の事案について聞いた。


「2だが、ヤミノアール商会と繋がっている闇ギルドと言えば、あそこだな?」

「はい。闇ギルド[泥熊]の連中です。密偵の報告では、数十人程のギルド員を森へ送りこんだと」

「馬鹿か?森の中に大勢で入れば、モンスターに見つかりやすいというのに」

「はい。事実奴等は、森に入った後オークの集団に襲われ、半分まで減らし撤退したようです」


 そこまで聞いてマジーメは、馬鹿な奴等だと再度思いつつ3についても聞いてみる。


「では、森からのモンスターの出現率低下というのは?」

「はい。森付近の街道を通る商人からの報告ですので、間違いありません」


 ならば良かった。商人は、領内にとって重要な存在なのでモンスターの出現率低下はありがたい。


「じゃあ4は、・・・・・・・・・奴か?」

「奴で間違いないかと。」


 二人は、村を襲っているアンデットに関して、いや村を襲っているアンデットの首魁に心当たりがあった。



「「死霊公」」





 死霊公


 嘗てマジーメの父、先代領主の若い頃に現れた上級アンデットで、千を越えるアンデットの軍勢を率いてドミニク辺境伯領に侵入した。先代領主は帝国軍に応援を要請、そしてたった100人の衛兵だけで帝国軍が来るまでの時間を耐えきった。


 そして帝国軍と領軍、冒険者が一体となりアンデットの軍勢を壊滅に追い込んだが、首魁の死霊公は取り逃がしてしまった。その後死霊公を捜索したが、見つけることが出来なかった。


「じゃあ奴が動き出したのは」

「恐らく、また攻めてくるでしょう。それもあのときより更に多くアンデットを率いて」

「・・・・・頭の痛い話だ」


 マジーメは頭を抱える。今現在このドミニク辺境伯領は、各町に領軍を派遣しておりファースの街には騎士20、衛兵100しかいない。帝国軍を呼ぼうにも、金がかかる。


「・・・・・・・この際、村々を切り捨てるか?」

「領主としてやってはいけないことかと」

「そうだな。すまん」


 確かに各町、村に派遣している領軍をファースに集結させれば、1000を越す軍を編成することが出来る。だが村人を見捨てれば、たとえアンデットを退けたとしても後の統治に支障が出る。最悪離反してしまう恐れがあった。


マジーメとオルフェはため息をついた後、再び討議を始めた。








◆森 オークの集落



 ここは、森の中にあるオークの集落の中でも最大規模の集落であるブ族の集落である。


 現在この集落のオークたちは、皆元気がない。それもそのはずで、森の中にあるオークの集落が次々と壊滅していっているからだ。そんなブ族の集落の一角には、数体のオークが集まっていた。


「諸君。聞いたかな?」

「うむ」

「東の集落じゃな?」

「また骨どもか」


 ここにいるのは、それぞれ集落の長だったオークである。それぞれの集落がアンデットに襲われた為一族を率いてこの集落に避難してきたのだ。


「どうする?」

「と言われてもな。」

「戦うしかあるまい!」

「いやいや。あの大群が我らの集落に同時に来たんだぞ。正面からは無理じゃ」


 因みに、彼らは真面目に話しているが、周りから見るとブヒブヒとしか聞こえない


「ではどうすればよいのだ!」

「わからんから話し合っておるのじゃ」


 二体のオークが言い争いになったとき、ブ族の長であるオーク、オークの進化系であるオークコマンダー指揮官、が一つの提案を示した。


「皆、最近この森の中で骨ども以外に何かが進出してきたことは知っているかな?」

「何?」

「なんだそれは?」


 ブ族の長は自分の知り得る情報を教える。といっても噂程度の話だと前置きにして



 曰く、その勢力は山の麓にいるらしい。


 曰く、その勢力は様々な種族を配下にしている。


 曰く、その勢力はテリトリーに入ったものに容赦はしない。


 曰く、その勢力は、トロールを軽々と倒す。


 曰く、その勢力の長は強大な力を持つ


「にわかに信じられん」

「あのトロールを軽々に仕留められる訳がない」


 オークの長たちは一様に信じられんといった顔をしている。


「ああ。私も始めは信じられなかった。だがね。私の集落のオークが見たのだよ。トロールを一撃で倒した者を」

「「「「一撃!?」」」」


 オークたちは驚きの余り立ち上がってしまった。


 実は、トロールを一撃で倒したのは影正である。あのスケルトンウォーリアーを倒し、ドラゴンベビーをダンジョンに戻した後、一人で静かにモンスターを狩っていたのだ。その中にトロールがいただけであった。トロールの倒したのも、【スリープ】で眠らせ心臓を刺しただけである。端から見れば十分すごいが。


「ああ。そこで我が集落は考えたんだ。どうすれば生き残れるかをね。結論としてその勢力に匿ってもらうことにしたんだ」

「な!?」

「本気か!?」

「トロールを一撃で倒す奴等だぞ!?一体どんなことを要求してくるか!」


 オークたちは反対したが、一人だけ賛成者がいた。年のとったオークである。


「儂は賛成じゃ」

「では」

「じゃが先程言っておった者もおったとおり、相手が対価を要求してきたらどうするのじゃ?まさか考えていない訳じゃなかろう?」


 ブ族の長は暫し黙り、口を開く。


「“巫女”を差し出します」

「「「「!?」」」」


 “巫女”とは、ブ族の中で最も魔法に長けたメスのオークをいう。今までブ族が繁栄できたのも“巫女”のお陰と言ってもいい。


「し、しかし“巫女”はお主の」

「ええ、私の妹です。ですが妹は賢い。ブ族の未来の為ならばと協力してくれました。」


 一同は愕然としていた。“巫女”を手放すということは、生活基盤の大半を失うと同義である。ブ族の長の手は苦渋の決断だったのか力一杯握りしめており血が出ている。


「兄上」


 するとそこに一人のオークとは思えない美女が立っていた。


「カ、カレン?」


 カレンと呼ばれた、黒く長い髪に褐色の肌、スイカサイズの果実のついた豊満な肢体を持つ、美女は兄であるブ族の長の手を握ると、


「大丈夫です。私の身を捧げればオークは助かるかも知れないんでしょう?」

「ッ・・・・・・!」

「もしかしたら殺されるかもしれません。でも集落の皆が生き残れるなら本望です。だから安心してください兄上」

「す、・・・・すまない」


 端から見れば美女と野獣である。


「それで、その勢力の所にいくのはいつですか?」

「・・・・・・・場所の特定と護衛の選定、やることがたくさんある。少なくとも1ヶ月必要だ。」

「わかりました兄上」


 そう言ってカレンは、去っていった。ブ族の長は考える。上手くいくのは五分五分、カレンはオークソーサラーというオークの魔術師で名前をもつモンスターだ。モンスターにとって名前を持つことは信頼出来る証である。名前を持つモンスターは知能はもちろん戦闘力も上がる。更に女としての魅力もある。戦力としても女としてもよし、普通のオスならすぐに食いつく。最も勢力の長が男である確証はないが。


「・・・・・・・・すまないカレン。お前を守れない私を許してくれ・・・!」


 ただ謝ることしか出来ないブ族の長を見て他の面々は黙ることしか出来なかった。



次回は、本筋に戻ります。

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