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第四十五戦

俺でも知っている戦国武将は、無論、数多の人達が知っているという事だ。


目の前にいる人物。真田幸村もまた、俺でさえ知っている戦国武将の一人だ。最近じゃアニメとかで人気が高まっている。いや、さらに高まったと言えばいいのかな。


このゲームでもいや、ほとんどの戦国系ゲームで登場しないことはないんじゃないかと思われる人物を俺は目の前に捉えていた。


俺の知っている真田幸村の情報は、多分皆が知っているのと同じくらいの情報しかない。大阪夏の陣で一躍有名になったということや、かの徳川家康に日本一の兵者とまで呼ばせた人物というくらいしか。


まぁ、あとは使ってる武器は槍だとか、性別は男だとかというくらい。ざっくりとした情報しか真田幸村には持ってない。でも、そんな中でも分かるのは真田幸村は強いということだ。


でも、まさかこの世界じゃ女の人だったとは。


目の前に真田幸村がいるという現実とその真田幸村が女の人だという驚きで声が出ない。


「あれ?私のこともしかして分からない?黙っちゃってるけど……まあ、しょうがないかな。近隣じゃないもんね。ここと四国は」


「あ、いえ、目の前に真田幸村がいるのに驚いてるというか」


「ということは……私のことは知ってるってことでいいんだよね?」


「そりゃ、まぁ」


ここまで有名な武将を知らない人なんていないだろう。いや、いるかも知れないけど。


「うんうん。知ってる人がいるなんて感激だよ。じゃ早速さっきの質問に答えよっかな」


軽快に話す真田幸村。

自身が『総大将』だということを暴露したのにも関わらず、こんなにも明るく振る舞えれるのか。もっと殺伐としそうな感じなんだけど普通は。


「どうして私なんかが君の悩みを理解できるのかだったっけ?」


下唇に人差し指を当てながら、俺が聞いた質問を思い返す素振りを見せる真田幸村。でも、そんなことはもうしなくていい。


「いえ、答えなくて結構です。どうしてなのかが分かったんで」


占い師さんが真田幸村だということと、その真田幸村が四国を納めている大名だと分かれば、さっきの質問の答えは貰ってるのと同じだ。


「え?分かったの?やっぱり頭がいいね君は」


こんなこと俺じゃなくても分かると思う。


さっきの質問に対する答えは、彼女が真田幸村だということで返答を貰った。けど、ここで新たな疑問が生まれた。じゃあどうして真田幸村がここにいるのかということだ。


「すみません。また、質問いいですか?」


「ん?いいよー」


ニコニコしながら受け答えするその姿は、余裕が感じられる。俺が強襲しても無駄だと言わんばかりだ。


「どうして、貴方は前田の領地…俺の国にいるんですか?」


「おっ。なんだか今の発言は『総大将』の威厳が感じられるね。ていうかさ……」


ニコニコしながら受け答えをしていた真田幸村は俺の質問を聞くと、途中まではさっきまで同様、ニコニコしていたのに対して、一瞬俯くと、『総大将』の顔を俺に見せる。


「その、威圧的な態度での質問は、私に喧嘩を売っているのかな?それとも私を下に見てるのかな?」


背中がゾクリとした。

一気に場が緊張する。


「まぁ、分るらなくもないけどね。自分の国に敵兵がいるだけでも警戒するのに、それも『総大将』がいるとなるとね」


一瞬見せた『総大将』の顔は消え失せ、また笑のある表情になる真田幸村。


「けどさ、その態度は見過ごせないね。これでもトップをやってるんだし。そんな私が下に見られるなんて悔しいし、腹が立つよね。ここは調子に乗ってる前田の新『総大将』に先輩としてお灸を据えないとね」


そういって臨戦態勢になる真田幸村。その目は本気を表している。


「いやいや待ってください!貴方にとって俺が気に食わない態度を取っていたのなら謝りますからっ!」


必死に抗議をする。ここで争いたくはない。

それに、やりあったらどっちもただじゃ済まないだろう。特に俺が。


「謝る?」


「はい!謝りますから!」


構えていた身体を元に戻す真田幸村。

良かったどうやらやり合う気をなくしたらしい。


「ハハハ!やっぱり面白いね!君は!」


不意に笑い出す真田幸村。

何がおかしいのか俺には全く分からない。


「は、はは」


釣られて笑ってみるが、乾いた笑いしか出ない。


「ふざけないでよ?」


ヒュン


そんな音が俺の耳元で聞こえた。


気づくと目の前ににいたはずの真田幸村は居なくなっていた。いや、近づいていた。目の端に捉える服の裾が近くにいるということを認識させる。


真田幸村は俺に対して、俺の顔面を掠めるように右腕を放ち、俺の左頬を通過した。その時に聞こえたのがさっきの音だろう。そして、俺と真田幸村に身長差があるせいか、また、俺に右腕を放ったことによりさらに身長が低くなったことで、一瞬真田幸村が目の前から完全に消えたように見えた。


そして、俯いている顔を上げる。


「今のはね。警告だよ?君の『総大将』としての不甲斐なさに」


「不甲斐……なさ?」


「そ。君は不甲斐ないよ。これだけはまず、言わせて」


さっきのが比じゃないくらいに真剣な表情になり、言う。


「『総大将』がトップが!……簡単に謝るなんてするなっ!!」


大きい声にビビったのか、それとも口調が強いことにビビったのかは分からない。けど、ぐっとその言葉は心に来る。


真田幸村は俺から離れ、距離をとった。


「さてと、やろうかトップくん。さっきの含め君にはいろいろと教えなけいといけないみたいだし。売られた喧嘩は買うよ私は」


(今のを見ても介入しないと見るとよっぽど信頼されてると思っていいのかな?)


そして、構えた。


これはやるしかない。もう話し合ってどうこうするとかの問題じゃない。理不尽なきもするが、戦国じゃ関係ない。覚悟を決めろ俺。俺は『総大将』なんだから。


俺は差してある刀を抜こうと手を動かした。


しかし、手は空を彷徨う。


まずい!城下町に来るだけだからと思って刀を差してなかった。どうする?どうすればいい?考えてる暇はない。無ければ素手でやればいいだけだ。


ごめんサクラ。天下統一できそうにない。


一線の汗が頬を流れ、俺はそんなことを思っていた。

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