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第四十戦

天下道千代はただただ驚いていた。

そして我が耳を疑った。


それもそうだろう。戦国武将ならば普通、自らが天下人を目指すものなのだから。(たまに例外はいるが)それに、それを言い放ったのは、あまり戦国武将をしらずとも、名前だけは聞いたことがあるなどと、多数の人々が知っているかなり有名な武将真田幸村なのだから。しかもこの世界でも最初は也は潜めていたとはいえ動いたらどの国にも脅威になると噂されていたほどの人物だ。その真田幸村の口から出た天下人の嫁宣言にさすがの天下道千代も動揺を隠せない。


「天下人の嫁…!?」


驚きが混じった天下道千代の声に対し、真田幸村は意気飄々と答える。


「そ。天下人の嫁。つまりはお嫁さん。主人のあらゆることをサポートして、一緒に人生を歩んでいくパートナーのことだねっ!」


「そ、そこまでお嫁について語らなくてもいいわよ…!」


真田幸村の弁舌を聞き、少し顔を赤くしながら言う天下道千代はどこか女の子らしかった。

それを聞き、目にした真田幸村は少しからかう。


「ん?どうしたの?天下道の大将さん。顔が赤いよ?」


「う、うるさい!」


真田幸村のからかいに即座に反抗し、天下道千代は斬撃を飛ばす。


その斬撃は熱いものに触れてすぐ手を離すように、反射のごとく出された斬撃だった。

普通ならば、力を溜めた斬撃より幾分か力が落ちるのが並の武将の攻撃なのだが、天下道千代が反射的に放った斬撃は力は落ちず、いつもと同じ威力の斬撃が放たれた。この時、注目してもらいたいのがいつもと同じというところだ。反射というのはほぼ無意識での体の反応だ。無意識かの中で威力をいつもと同じに調節いや放った天下道千代は何回も体に覚えさせたのだろう。


そのいつもと変わらない威力の斬撃を体を翻して躱す真田幸村。

地を蹴り、空を飛び、回転しながら着地する。滑らかなその動作もまた、何回もやり体に覚えさせた技術。


(ありゃりゃ。少しからかって隙ができるかな~何て思ってたんだけど、隙ができるどころか普通に攻撃を出してきちゃったよ。)


じわりと冷や汗がでる真田幸村。

見つめる先に見える天下道千代。

その風貌はさっきまでのどこかやわらかい感じはなく、集中を極限にまで高めていた。


(もう集中力を高めてる…)


真田幸村は天下道千代を見つめながら


「ふぅ…」


と息を吐いた。


身体や衣服に着いた埃や土を軽くほろいつつ。


静かに闘志を…集中力を高める。

そして、フードを被り、顔のほとんどを覆う影からエメラルドのように光る緑の眼光。


(強いなぁ~でもっ…!)


集中力を高めていた天下道千代ではなく、攻撃を仕掛けたのは静かに集中力を高めていた真田幸村だった。


飛び、空中で態勢を整え、そして攻撃へと転換させていく。

それは蹴り。そしてそれは…


「流星…蹴りぃぃぃいい!!」


真田幸村の特殊技(必殺技)である。


「ん?」


それを目の当たりにする天下道千代。

集中力を高めていたその体は、その眼は、真田幸村の攻撃をしっかりと捉える。


「ただの…蹴りがぁぁあああ!!」


刀を横に構え、防衛に全ての力を回す天下道千代。


瞬間、ドンッ!とあたりに響く強烈な音と風。

真田幸村の蹴りと天下道千代の刀がぶつかった。

まるで静止画のようにぶつかったままの両者。


真田幸村の攻撃の威力がほんの少し遅れて天下道千代に襲い掛かる…!


「ぃ……ぐっ…!」


「無駄だよ天下道ちゃん…!僕の攻撃は…」


さらに威力を強め、攻撃していない方の脚をあげる真田幸村。


「そんなんじゃ…!防げないっ…!」


右足に頼っていた攻撃を今度は左足にシフトチェンジする。それを交互に…右、左、右、左と繰り返していく…脚の乱れ撃ちだ。


「……くっ……!」


それでもなお、天下道千代の防御は崩れない。

が、地面が威力に耐えられず、徐々にほんの数センチずつ天下道千代の体が沈む。


「はぁぁあああ!」


攻撃をする真田幸村だが限界が近づいていた。


(ダメ…!このままじゃ脚が…!)


攻撃を中断し、一旦間合いを取る真田幸村。

その顔に、また身体から疲労の色が見えていた。


「はぁはぁ…まいったな~。これを防がれるのはかなり厳しいよ」


肩で息をし、言葉を紡ぐ。


しかし、苦しそうに息をしている割にどこか余裕が見えていた。


「天下道ちゃんも足に来てるんじゃないかな?」



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