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第三十戦

『拠点突破されました!これで残り拠点はあとわずかです!』


伊達兵の危機迫る声が本陣を駆け抜ける。


状況はやばい。


「これで残りはこの天守と数カ所の拠点だけだな……」


慶次さんは戦場図を見ながら、ひっそりと呟いた。その声音からはこの状況が危機的状況だとひしひしと伝えていた。


「俺が出ます!大して役に立たないかもしれないけど少しでも敵の動きを封じます!」


俺はさっきから何度か言っている言葉をまた言った。ただ本陣である天守に居るだけじゃ状況は変えれないと思ったから。俺は、俺なんかじゃにもできないとさっき悟った。俺ぐらいのやつが戦場に出たところで出来ることは知れている。だけど……だけどっ!しかしまたこの言葉は否定させられた。


「迅、何度も言わせないで今は待機よ」


「でもサクラ!待ってるだけじゃ!」


「これは『総大将』の命令なのよ?迅」


「……っ!」


さっきからこの問答の繰り返しだ。サクラは最後には必ず慶次さんの命令だと言う。確かに命令したのは慶次さんだ。でも慶次さんはさっきから戦場図を見ているだけでなんの指示も出していない。


「分かってくれ迅……」


また問答を始めようとした時、戦場図を見ながら慶次さんゆっくりと口を開いた。


「今は戦力を分散させたくねぇ。一点防衛で強固な守りを作りてぇんだ。そうすれば敵が誰であれ簡単には突破出来ねぇだろう。もしかしたらそこから盛り返せるかもしれねぇしな」


俺は馬鹿だ。慶次さんはしっかりと考えて待機を命令してたんじゃねーか。それなのに俺は……俺は……


「分かりました。待機します」


今は我慢だ。そして信じるしかない。慶次さんを。


「それにしても……」


と慶次さんは再び口を開いた。


「やけに拠点がいくつも落とされるのが早ぇ」


そう。今回、拠点が落とされるスピードが尋常じゃないほど早いのだ。信玄や、直政さんよりもずっと早い。


いくら戦力が大幅に無くなっている。伊達&前田軍でもここは伊達の本拠地だぞ?´城攻め,は攻める側が圧倒的に不利なのに、今回は守る俺達が圧倒的に不利だ。


「もしかしたら奴さん……『総大将』自ら出てるのかもな」


「舞剣大心本人がですか?」


「あぁ」


俺はまだ、舞剣大心本にと対峙いや、会ったことすらない。だけど……慶次さんの姿を……左腕のない姿をみたらいやでも舞剣大心が強いということが分かる。


それに舞剣は大心だけが出ている訳では無いだろう。幹部クラスも何人か出ているに違いない。


『全拠点突破されました!城内にも敵が来ます!』


その時、伊達兵の声が響いた。



ときは少し遡り、舞剣本陣。


「待ってください!大心さん!」


「どうしました?『美蝶姫』?」


1人、先頭に立ち戦場に赴こうとした大心を咲が呼び止めた。


「わざわざ大心さんが出陣なさる必要はないんじゃ?」


「いえ。そんなことはありませんよ『美蝶姫』」


「??何故ですか?」


咲には分からなかった。疲弊している伊達をわざわざ舞剣の超最高戦力である大心自らが出陣することが。確かに`城攻め、ではあるが舞剣の幹部数人でことは足りると咲は思っていたから。いくら前田が援護しているとはいえ、前田の戦力は手負いの前田慶次に数百人の兵。それに`千人切り,迅。どう考えても大心が出るような場面ではない。それも序盤から。


その疑問を大心が言葉で解決する。


「確かに伊達軍そして前田軍。両軍とも戦力ではどちらも私達には劣っています。でも……」


一拍おき大心は続ける。


「今、あの両軍には伊達政宗がいる……」


少しの間が空き、ようやく咲は口を開く。


「どういうことですか?」


咲は先日の舞剣本隊×伊達、前田軍の戦の結果をしっている。そこであまり伊達政宗が活躍してないことも。だから咲は大心の言ったことが分からなかった。伊達政宗が居るから?何故?と。


「これはまだ憶測ですが……」


困惑している咲を尻目に大心は続けた。


「おそらく伊達政宗は先の対戦で両目がいや見えていた片目も見えなくなっているはず……そうとなれば今、最も危険な存在は伊達政宗ということになります」


まだ分かっていない咲に大心は


「そのうち分かりますよ」


と声をかけ戦場に赴く。


「心配しないでください。数人幹部も戦場には出します。本陣の護りは頼みましたよ。『美蝶姫』」


「は、……はい」


「私が出て早くこの戦いを終わらせないと行けませんね。伊達政宗が動く前に……」


最後に言った言葉も咲には聞こえていたが、意味はわからなかった。



下が騒がしい。

敵が城内に入ってきたから。


慶次さんはまだ動こうとしない。


隣を見るとサクラの顔もさっきとは違い、顔にに余裕は消え焦りが顔に出ていた。


瞬間、慶次さんの口が開いた。


「決断しなくちゃな……」


決断?なんのことだ?


「迅……」


「は、はい……!」


俺はいきなり名前を呼ばれて驚いてしまった。だがこの程度で驚くことは無かった。何故なら……


「現時刻を持って我、前田慶次は前田家の当主の座を迅に移行することをここに述べる」


「……え……?」


これを聞いて俺の思考は止まった。





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