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第二十七戦

「おぉぉおおお!!!」


前田慶次の咆哮が響きわたると同時に矛と剣のぶつかる衝撃があたりに広がる。


大心は前田慶次の攻撃を受けてなお、余裕のある表情で前田慶次に語りかける。


「おやおや。前田慶次ともあろうお方がこんなにも冷静さをかくなんて。戦とは冷静にですよ。前田慶次」


「あァ?」


しかし。慶次の耳には届いてはいない。

もはや慶次になどんな言葉も届かないだろう。


慶次自身も初の経験なので気づいていない。


自分が戦を戦闘を愉しむためでも、戦人としての血が騒ぐからでもなく、ただ、逆上、いや怒りの為に戦っているということに。


それに大心は気付き、言葉を使った精神への攻撃を無駄であるということを一応確認した。されとて大心は自分が優位だということを信じて疑わない。例え怒りで攻撃力が上がっている前田慶次であろうと、いつもの前田慶次であろうと、大心は自分が負けるとは微塵も思っていなかった。


「ふんっ!!」


前田慶次の攻撃が大心を襲う。


大心はこれも含め、すべての前田慶次の攻撃を軽くあしなう。前田慶次は冷静さを欠いているため、攻撃の力量などを考えてはいない。全て全力で攻撃していた。体力の疲弊も尋常ではない。


「随分動きが鈍りましたね。それでは負けてしまいますよ前田慶次」


この皮肉とも言える大心の声も慶次には届かない。


戦いは徐々に前田慶次の劣勢になっていく。



「ハァハァ……ぁあ」


「だいぶ息が上がってきましたね。ではそろそろ決着をつけましょうか。もうすぐあなたも伊達政宗と同じように横になってもらいます」



余裕のある大心とは逆に前田慶次は限界寸前。しかしそれは逆に怒りで冷静さを失っていた前田慶次を再び冷静にさせてゆく。


慶次は冷静さを取り戻すと現状の状況を冷えきった頭で考える。


そして脳裏に浮かんだのは撤退の二文字。それと自分のすぐ近くで倒れた伊達政宗の姿。


これ以上慶次には戦う意思が無くなった。



「?どうしました前田慶次?そんなに難しい顔をして」


「お前さんは強ぇよ。だから降参だ」


慶次の言ったこの言葉に大心は動揺していた。大心は前田慶次ならばどのような劣勢であっても必ず諦めはしないと思っていたから。


慶次もまた、降参と言った自分自身に苛立っていた。戦う意思が完全に無くなったわけではない。だがこれ以上戦っても状況が悪くなるだけ。それに戦場を離れなければ伊達政宗の治療が間に合わない。この戦の『総大将』は伊達政宗。伊達政宗が戦場を離れた瞬間、伊達、前田は敗北が決定するのだがまだ敗北はしていない。それはまだ戦場に伊達政宗がいるということ。伊達政宗のことも考えた上で、慶次は降参と言った。


「まさかあの前田慶次から降参の二文字も聞けるとは」


「まさか俺も生きててこのこの言葉を使う日が来るとは思わなかったぜ」


そして慶次は大きく息を吸い、全軍に聞こえるよう声を張り上げる。




「政宗が負傷している為、代わりに俺が告げる!……ふぅ。……伊達、前田全軍!撤退だっ!」


「い、いやじゃっ!!」


慶次の撤退宣言が響きわたった中、拒絶の声がそれを上書きした。


慶次はその声を上げた主の姿を見る。


腹部から大量に血を流し、今にも絶命しそうなほどのダメージを負った伊達政宗の姿を。


政宗は慶次ならば必ず勝ってくれると信じていた。いや勝はできなくとも慶次ならばこの大心をなんとかしてくれると思っていた。しかし慶次の口から出たのは撤退の二文字。政宗も分かってはいる。これ以上やりやっても、慶次に自軍に勝機がないことを。しかしそれでも、それでも政宗は拒みたかった。


「な、何を……言っとるんじゃ?……慶次?妾ならまだ大丈夫じゃ……」


「分かってくれ政宗。これ以上は得策じゃねぇ」


「でも……でもっ……!!……慶次っ!!」


泣すがる政宗を遠目に見、慶次は大心への方へと振り返る。そして背中越しに政宗に語りたける。


「政宗……殿は俺が務める」


「殿?いいですよ前田慶次。私だって鬼ではありません。撤退しようとするとならば手出しはしませんよ」


「それはありがてぇけどよ。これはけじめなんだ。それに一発くれぇお前さんに入れたいしな」


「まっいいですよ。これで『前田』もとれるのなら一石二鳥ですからね」



俺が宮城にある伊達本拠地の伊達城につくとそこには疲弊している伊達及び前田の兵士で一杯だった。


俺は城内に入り、慶次さんと伊達政宗の姿を探す。


サクラによれば伊達政宗は相当な深手を負ったらしい。


城内を走り回っていると寝ている伊達政宗の姿を見つけた。小さな体には包帯と思われるものがたくさん巻かれていた。


「こんな小さな体で伊達の広い領土を守っていたのよ」


いつの間にか隣に来ていたサクラが独り言のように呟く。


「ああ。凄いことだよな。」


俺は頷きサクラに同意した。


「『総大将』が城の外にいるわ」


「外に?ちょっと行ってくる」


俺はサクラにそう言ったあと、慶次さんに会うために城の外にでた。



慶次さんはすぐに見つかった。


「迅か。わりぃな秋田を守ってもらったのに俺達が敗戦しちまって」


慶次さんは俺にそう言いながら景色を眺めていた。


「いえ。」


俺はこれしか言うことが出来なかった。

それでもよく言葉が出たと思う。


慶次さんを外で見つけてから俺は言葉を失っていたから。





慶次さんの左腕が無くなっていたから。



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