第18話 覚悟と共有
「…………」
海旅行の帰り道、俺はボーッと車窓から外の景色を眺めていた。
午前中は何をしていたのかあまり覚えていない。とりあえずお世話になった海の家のスタッフに挨拶をして、早々に引き上げる事になったのは覚えている。
午前中は自由時間だったので遊ぶ時間はあったのだが、誰にも誘われる事はなかった。誘われたとしても、遊んだかどうかは分からないが。
帰りも行きと同様に、八千代さんの運転する車に四季姫が乗っている。どうしてか四季姫と顔を合わせづらかったので、安堵したのを覚えている。
月ちゃんと陽乃姉さんは家の人と一緒に帰るそうだ。初めて見た酒神父と母、凄かったな。
我が父と母とは比べ物にならないほどのイケメンと美人。公太とあの姉妹の両親なのだから当然か。
「……月ちゃん……ね」
昨日の夜、思いもしない事が起こった。
初めてされた……告白でいいんだよな? 好きだとかは言われていないけど、恋人になって欲しいと言われたのだから。
ただ、どうして俺はこんなにモヤモヤするのだろう。
酒神月乃は驚くほどの美少女だ。10人に聞いたら10人が可愛いと言うだろう。
そんな子に告白された、普通の男なら大喜びだろうに。何も考えずにオッケーを出して、あの美少女と付き合えばいいのに。
俺は、答えられなかった――――
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「――――え……?」
「聞こえませんでしたか? 私とお付き合いして下さいと言ったのです。恋人として」
「恋人……」
目の前にいる可憐な少女、酒神月乃から思いがけない言葉が発せられた。
人生で初めて告白された。波の音が心地よく、綺麗な月明りの下というロマンチックな場所で。
周りには木々が生い茂っているだけで、誰もいない静かな夜。
冗談……では流石になさそうだ。そんな事をする子じゃ……いや、しそうだな。俺を揶揄うのが好きな子だし。
でも月ちゃんの目は嘘を言っているようには見えなかった。
頬を染める事なく、冷静に、真剣な眼差しで、淡々と。月ちゃんらしいと言えばらしいが。
「……先輩? 答えを聞かせてはくれないのですか?」
【はぐらかす】
「えっ? あ、いや……なんと言うか……初めて告白されたので、ビックリというか」
本当にビックリはしている。まさか俺が、こんな美少女に告白されるなんて夢にも思わなかった。
でもどうしてだろう? 俺は一瞬、どうしたらこの場をやり過ごせるかを考えた、考えてしまった。
答えを先送りしようとした。なんなら答えないで逃げようとすらしたかもしれない。
嬉しいよ、それは嬉しい。でも、ドキドキしていない事に気が付いた。
なんで? こんな可愛い子に告白されたのに、ドキドキもしないで俺は、はぐらかそうとしたんだ?
「……先輩は、私と――――」
――――パキッ
何か言おうとした月ちゃんの言葉を、何かが折れた様な甲高い音がそれを遮った。
すると月ちゃんは表情を変え、気の抜けた様な顔で別の事を言い出す。
「……はぁ。まぁ急でしたからね、答えは後で聞かせてもらえますか? パパラッチもいるようですので」
「え……あ、うん」
「では先輩。そうですね……夏休みが終わる前までには、答えを頂きたいです」
「……分かった」
そう言うと月ちゃんは背を向け、俺から離れていった。
俺はボーッと月ちゃんの後ろ姿を眺める事しか出来なかったが、彼女は一度も振り返る事なく姿を消した。
何分、ボーッとしていたのだろう? 気が付いたら朝だった……なんて事はなかったけど、どうやってコテージに戻ったのか覚えていない。
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―
「「「「…………」」」」
行きとは違い、少々重い空気が流れる女性陣の車内。
ハンドルを握る八千代も、その空気を感じ取り言葉を発せないでいた。
何かがあったのは間違いないだろう。四人ともに暗い……いいや、どこか思い詰めた様な、覚悟を決めたようにも感じられる表情をしている。
行きの車内で思った……帰りはどんな表情を彼女達はしているのだろうと。
全員が笑っているのか、一人だけ笑っているのか、誰も笑っていないのか。
彼女達が言っていた、共有財産。あの話を聞いた時は、誰か一人だけが笑っていて、他の子は沈んでいる……なんて事にはならないのでは、そう思った。
もちろん、彼が一人だけを選ぶ可能性はある。ただ彼と話し、彼の様子を見ていると、今の彼は誰か一人を選べるとは思えなかった。
様子だけ見れば、あまり良くない事が起こったようにも思えるが、彼女達はダメだった……そういう訳ではなさそうだ。
憂いを帯びた顔にも見えるが、目は強さを失っていないのだもの。
「……みんな、海旅行はどうだった?」
八千代は軽い感じで問いかける。彼女達が旅行を楽しんだのは間違いない、最後に何かあったのかもしれないが、旅行自体を悪い思い出にはして欲しくない。
「……楽しかったですよ」
「……うん、楽しかった」
「色々……ありましたね」
「あったわね……本当に」
「……そう、それなら良かったわ。それで……あなた達はどうするつもりなの?」
何があったのかは分からない。少なくとも昨日の花火の段階では、楽しそうに笑っていた。
誰が彼の隣に陣取るのかを笑顔で牽制し、最終的にローテーションしていた彼女達。何かがあったとしたら、あの後なのだろうけど。
「「「「…………」」」」
何か悩んでいる様子の四人。しかし流石に何に悩んでいるのかを聞く訳にはいかないし、こればかりはね。
まぁ彼女達には、いるからね。
「……まだ、決まった訳じゃないわ」
「そう……だよね、そうだよね!」
「あたし、まだ何も言ってないもん」
「そうです。私……彼に伝えます」
「私も」
「ウチも伝える!」
「うん、あたしも」
「あらあら、急にどうしたのかしら」
一瞬で顔つきが変わった四人。四人は互いに目を合わせ、何か意志の統率を図ったようだ。
一人なら、悩んで悩んで、時間を掛けている内に……なんて結末もあったかもしれない。
でも彼女達は四人、強いわね~。恋仲間とでも言うのか、しかも彼女達は同じ人へ恋をして、それを共有しているのだから、そりゃ強いわよ。
「いつにします?」
「早い方がいいでしょ」
「だね。早く伝えたい」
「別々に言うの?」
「……みんな一緒でよくない?」
「あはは、面白そう。緊張するな~」
「同じ場所で、同じ時間に、一人一人の言葉で?」
「ですね。想いの言葉だけは、別々に」
……ほ、ほんと強いわね。普通、そういう事を話し合うかしら? 今の子は進んでいるのね~。
さて、あとはあの鈍感君が……もう鈍感君とは呼べないか、色々と自覚しつつあるみたいだし。
頑張れ若人。いいわね~、こんな青春を送りたかったわ~。
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次回
→【未定】




