第17話 花火と月明り
コンテストが終わり、酒神姉妹と合流した俺達。
あのあと軽く海で遊んだのだが、コンテストの入賞者と準優勝者は記憶に新しいようで、恐ろしいほど声を掛けられた。
俺が出張るまでもなく、陽乃姉さんがビックリするほどの威圧で男達を蹴散らしていたのだが、流石に数が多かったので早々に引き上げる事になった。
そして夜。明日の昼過ぎには帰路に付くので、最後の夜という事になる。
俺達が最後の夜に選択したのは花火大会であった。
「……やっぱ花火は線香花火一択だな」
線香花火は人生だ。火が付き、徐々に激しく燃え、ゆっくりと消えてゆく。始まりから終わりまでを表現した花火だろう。
火をつけていきなりマックスな花火も綺麗だけど、終わる時って本当にいきなり終わるからな。
「先輩、火を分けて下さい」
「……本気で言っているのか酒神後輩? 線香花火から火を貰うなんて聞いた事がないぞ」
「大丈夫ですよ。今なら」
「いや無理だ――――ああっ!?」
ポトリと落ちた火種。まだこれからだという段階だったのに、外的要因に人生を終わらせられてしまった。
くそ、邪魔さえ入らなければ……まだまだだったのに。
「先輩の人生みたいに儚く終わりましたね」
「終わったんじゃない! 終わらせられたんだ!!」
俺の怒号を無視して月ちゃんは火の元へ。本当に俺の人生を終わらせに来たとしか思えない行動に苛立っていると、不穏な気配を纏った陽乃姉さんが近づいてきた。
その手には……ロケット花火? これほどロケット花火が似合う人は他にいないだろう。
「受けてみなさい」
「受けてみなさい!? 冗談だろ? それを人に向けたらいけないのは幼稚園児でも分かるぞ!?」
この人ならやりかねない、そんな顔をしている。しかしいくらなんでも、それは下手をすれば犯罪だろう。
「冗談よ。何も言ってくれない弟に、少しだけ撃ち込みたくなっただけよ」
「なにも言ってくれない……あぁ、そういう事か」
そう言えば陽乃姉さんには言うのを忘れていた。他の四人にばかり気を取られて、すっかり忘れていたのだ。
「準優勝おめでとう」
「……それだけなのかしら?」
「えと……準優勝の景品ってなんだったの?」
そう言うと陽乃姉さんは睨みを利かせてきたので、慌てて素晴らしかったとベタ褒めに舵を切った。
満足したのか、最後は笑顔になってくれたが……本当になぜ準優勝できたのかが分からない。確かに外面は素晴らしいが……。
「九郎~! 打ち上げ花火やるよ~!」
「早く早く~」
夏菜と春香の声に振り向くと、準備万端といった様子の四人が手招きをしていた。
残った数本の線香花火を確保した後、急いで彼女達の元へと向かう。
「はい、クローが火をつけて」
「気を付けて下さいね」
着火を任された俺は、四人が離れたのを確認してから打ち上げ花火に近づいた。
そこにはもの凄い数の打ち上げ花火があった。とても高校生が遊びで行う花火大会ではないな。大人が介入するとここまで規模が大きくなるのか。
そんな大人たちは酒を片手に、楽しそうに談笑しながら俺達を見守っているようだった。
「じゃ~いくぞ~……」
とりあえず三つほど連続で着火。安全性を考慮しているのか、導線が長いため時間には余裕があった。
着火後は六人の元へ。戻って少しした辺りで小さな打ち上げ花火が夜空に打ち上がった。
「……しょぼ」
「店売りの打ち上げ花火はこんなものです」
とは酒神姉妹。まぁ、俺もショボいと思ってしまった。
「やっぱり花火は打ち上げ花火だね」
「うん! 九郎! 次は10連くらいやってよ!」
「10連……や、火傷には気を付けて下さいね」
「この陳腐さがいいのよ」
四人は充分楽しんでいるようだ。確かに10連くらいすれば、見応えがあるのかもしれない。
「お~それなら俺達が火をつけるよ! 行くぜ五っちゃん!」
「任せろ! まずは配置からだな……」
酒を片手にやって来た大人二人。若干、足がふら付いているが大丈夫だろうか。
俺は二人に任せる事にして、六人の元へと移動した。
そして待つ事数分。いい感じに花火の配置を終わらせた二人が、着火の準備を始めた。
「じゃ~行くぞ~? 10連どころか……30連はあるぞ!」
そして始まった30連の打ち上げ花火。一つ一つは小さくとも、これだけの数が連続で打ち上げられていくのは圧巻だった。
「綺麗……」
「うん、凄いね」
「綺麗ですね」
「ええ、とても」
打ち上げられた花火の光に照らされる四人の横顔。ありきたりではあるが、俺は花火より彼女達に夢中だった。
コンテストで入賞を果たした、誰もが認める美少女たち。そんな彼女達と一緒に花火が出来るなんて幸せだった。
【みんなの方が綺麗だよ】
【みんなの方が可愛いよ】
……言ってしまおうか。恋愛ゲームではよく聞くフレーズだけど、実際に言うとなると恥ずかしさがヤバイ。
キャラじゃないし、そもそも俺なんかが言っても気持ち悪いだけかもしれない。
でも、本当に……そう思うから。
「……みんなの方が、可愛いよ。綺麗だ」
「「「「――――っ!?」」」」
うはは、言っちまった。顔から火が出そうとはこの事だな。
恥ずかしくて彼女達の顔が見れない。彼女達は肩を震わせたから、聞こえたのは間違いなさそうだけど……出来れば聞こえなかった事にしてほしい。
「あぅ……それは卑怯でしょ」
「にゃ、にゃはは……」
「流石に恥ずかしいです……」
「…………ばか」
俺はその後、彼女達の顔を直視できないままコテージに引き上げた。
片付けなどは大人がやってくれると言うので、高校生組は早々に引上げだ。
言った事を後悔はしていないけど……明日、どんな顔をして彼女達と会えばいいのだろうか。
――――
――
―
最後の夜。俺は寝付けなかったので、柄にもなくコテージの外に出て夜風に当たっていた。
少し離れた所からは大人たちの馬鹿笑いが聞こえてくる。あの歳にもなって騒げる友達がいるのはいいな、俺もああなりたいものだ。
思い起こせばあっという間だった。去年の夏どころか、人生で一番楽しかったと言っても過言じゃない夏のイベントだったな。
それもこれも、みんなのお陰。特にあの四人の存在は大きかった。
最近、いつも心の中には四人がいる。何かあれば四人の事を考えている自分がいる。
いつからだろうか? 明確にあの時から……そういうのはないのかもしれない。
俺はどうするべきなのだろう。最初は、ずっとこのまま変わらずにいられたら……そう思った。
この先もみんなと一緒にいたい。でもそれには、変わらないといけないのかもしれない。
でも誰かとの関係が変われば、誰かとは一緒にいられなくなるのかもしれない。
八千代さんと話してから、こんな事ばかりを考えていた。男女の仲っていうのは難しいなぁ~……そもそも俺は、彼女達とどういう関係になりたいのか――――
――――なんて思っていると、後ろから足音が聞こえてきた。
足音は一つ……この足音はまさかっ!?
【春香】
【夏菜】
【秋穂】
【冬凛】
って分かるかい! そんなゲームみたいな選択肢が表示されても困る。
……待てよ? この展開、もしかして選んだ人が後ろに立っているんじゃ……?
それなら俺は――――
「――――こんばんは、先輩」
「……月ちゃん?」
やってきたのは酒神月乃。月明りの元で怪しく目を光らせる彼女は美しく、年下だとは思えないほどの色香を纏っていた。
いつもとは違った雰囲気を感じた俺は、なぜか心が落ち着かなかった。
そんな彼女は自然に、息をすると言う当たり前の行為のように言葉を紡いだ。
「九郎先輩。私と――――付き合ってくれませんか? 私の恋人になって下さい」
お読み頂き、ありがとうございます
もう数話で章終わりなのですが、書き直す事にしました
次回
→【帰りの車内では】




