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第13話 若人と玄人?

 





 次の日のアルバイトは、確かに昨日よりも大盛況となった。


 土曜日という事や、隣で開催する音楽イベント目当てで来た人がいるからだとは思う。


 しかし逆に、昨日より忙しさは減っていた。そもそも店内に入れる人数は限られているし、浮き輪などのレンタルやシャワー室の使用はそもそも使用者が少ない。


 なによりスタッフが昨日の倍近くいる。目に見えて接客する四人の負担は減っていた。


 今日でバイト終わりの人達もいるが、明日はまた別のバイトが補充されるらしいので問題ないだろう。


「じゃあ後はよろしくね~」


「「「「……いってらっしゃ~い」」」」

「九郎! 八千代をよろしくな!」


 宣言した手前なかった事には出来ないのか、予定通り俺と八千代さんは休憩時間を同じくして店外に出た。


 面白くなさそうにしている四人と、旦那である五郎丸に見送られて、音楽イベントで騒がしくなっている所から離れる。


 というか……女性と二人っきりでデートとか初めてじゃないか? 二人きりで行動する事はあっても、デートという名目で行動するのは初めてだ。


 本気でデートのつもりはないだろうけど、何をすればいいのだろう?



「九郎ちゃん。他の海の家に行ってみない? どんなものなのか興味があったのよ」

「あ、はい。そうしましょうか」


 俺より背の低い八千代さんの隣を歩く。八千代さんは若く見えるが、俺の両親と同年代。


 普通に考えれば親子にしか見えないはずだが……周りにはどう見られているのだろう。



「ごめんね付き合わせて。息子とデートするのが一つの夢だったのよ」

「いえいえ! むしろありがとうございます!」


 深く聞いた事はないのだが、南雲夫婦に子供はいない。


 子供が嫌いって事はないだろう。俺の事を昔から可愛がってくれている夫婦だ、何か理由はあるのだろうが……息子として接してもらえている俺が聞く事ではない。



「あの海の家も混んでるわね。入ってみましょうか」

「はい!」


 そしてそれなりに盛況な海の家に入店し、敵情視察をしながら八千代さんとのデートを楽しんだ。


 ついでに昼食を済ませたが、絶対に八千代さんが監修している料理の方が旨い。


 ノンビリと色々な事を話していると、あっという間に時間が過ぎていった。


 そんな休憩時間は長くないため、この海の家と音楽イベントを軽く覗いたらデートは終わりだ。



「好きな子とデートする予行練習になったかしら?」

「す、好きな子……ですか」


 そう言われて頭に浮かぶのは、一緒に海に来ている四人だった。


 好きな子か。言われて気づくが、結局俺はモテたいと思うだけの受け身の状態でいたのだ。


 好きな子……考えた事がなかった。モテて、彼女が欲しい。そう思っていたはずなのに、俺は行動したのだろうか? 誰かを好きになろうとしただろうか?


 選択は色々としてきた。ただ、先を見据えて選んでいたのか?


 分からない。少なくとも、誰かとこうなりたい……なんて考えて選択してはいない。


 恋愛ゲームに照らし合わせれば、好感度だけを下げないような選択肢を選び続けただけ。


 好感度と言ったって、上がったかどうかなんて分かりはしない。誰かと恋仲になれるような、特別なイベントだって起こせていないと思うし。



「誰か気になる子はいないの? 例えば四人の中の誰かとか」

「気になる……ですか。気になる……」



 【四季姫】



 頭に浮かんでいる四人、気になっているから浮かぶのだろう。


 気にはなる、それは間違いないだろう。人気があるのも頷けるほど魅力的な彼女達と友達になれて、こうして海にまで来れているのだ。


 しかし主人公不在、いるのは脇役。せめて楽しんでくれていればと思うが、そこは彼女達の笑顔を見る限り大丈夫だとは思う。



「気になる子がいるのなら、行動しないとね? 後悔はしないように」

「あはは。そうですよね。後悔してからじゃ遅いって言いますもんね……」


 後悔しないように行動しろ、か。例えば恋仲になるには、告白だ。付き合って下さいと、恋人になって下さいと想いを伝える。


 伝える? 俺が? 誰に……あの四人の中の誰かに? あり得ないでしょ。彼女達は間違いなくヒロインなんだ。


 ゲームの中の主人公は、多くの告白を成功させてきた。それは主人公だからであって、俺のような脇役は舞台にすら立てまい。


 成功なんてしないだろう。彼女達が俺を好きだなんて事、あり得るはずがないんだ。俺はそんな魅力を持った男じゃない。


 ……まあでも、失敗を恐れなければ行動はできるか。これもよく聞くが、行動しなかった後悔より、行動しての後悔の方が良いと言うし。


 でも失敗すれば関係性が変わってしまう……あれ? 仮の仮に成功したとしても、関係性は変わるよな?


 失敗すれば失敗した子と気まずくなる。成功しても残りの三人と気まずく……って、それは残りの三人からも好意を持たれていた場合か。


 ふはは、あり得ねぇ。四人から好意を持たれてるとか、どこの主人公様だよ。


 俺にあり得るのは失敗した先の気まずさ。失敗して関係性が変わるくらいなら、行動しない方がマシなのではないか?



「……行動して、関係性が変わる事って怖くないですか?」

「まぁ、そうね。それを考えて前に進めない人は沢山いると思うわ」


「ですよね。なら今のままの関係性に満足していれば……行動する必要ってあるんですかね?」


「……今のまま、ずっと変わらない関係性でいられると思うの?」

「え……?」


 ニコニコとしていた八千代さんの顔に、真剣な色が混じった。


 穏やかな表情なのは変わらないが、俺を見る目が明らかに変わったのが分かった。



「彼女達の誰か……全員でもいいけど、誰かと付き合う事になったらどうするの?」

「え!? それは嫌っ……ですね」


 思わず叫びそうになってしまった、恥ずかしい。


 彼女達に彼氏が……うわ、嫌だな。


 そっか。一緒にいる事が多かったから考えてなかったけど、彼女達が彼氏を作らないなんて保証はどこにもないんだ。


 ヒロインだと思う程に魅力的な彼女達、男達だって放っておくはずがない。実際に、何度もナンパされている所を見たじゃないか。


 どうにも主人公にしか靡かないって勝手に思ってたようだ。なんて都合のいい頭をしていたんだ俺は。



「あらあら、致命的に鈍感ではあるけど、救いようのない鈍感ではないようで安心したわ」

「な、なんの話ですか?」


 なぜか小馬鹿にされたような気がしたが、問い詰める暇もなく八千代さんは話し続ける。



「変わらない関係性なんてないの。正確には、変わる可能性は必ずある……かしらね? ちょっとした事で、知らない内に、気が付いたら……変わってる」


 まるで母親が子供を諭すような雰囲気で言葉を続ける八千代さん。何が言いたいのかは、分かっていた。


「例えばさっきも言ったけど、彼女達が誰かに告白されて、それを受け入れたら……九郎ちゃんがどう思おうが関係は変わるわよね?」

「そう……ですね」


 彼氏が出来れば、こういう旅行には来なくなるのだろうな。


 俺が変わらない関係性を望んだ所で、周りはそうとは限らない。なにも変えるなと、そんな事を言えるはずも権利もない。


 行動しなくても変わる可能性がある。ほぼ変わるだろう。このままでずっといられる訳がないのだから。



 【自覚】

 【逃避】



 失いたくないのであれば、変えないのではなく……変えなければならないのか。


 ただ、問題は……俺にはいい方向に変える力がない。俺だって主人公だったのならば……。



「ただ九郎ちゃんの場合、女性陣が強いから。変えようと行動するのは向こうね」

「女性陣が強い……? ど、どういう事ですか?」


「私もビックリしたのだけど、今の彼女達は普通の子の四倍だから」

「四倍……?」


 どういう事だ? 恐らく四季姫の事を言っているのだろうが、抽象的すぎて何を言いたいのかさっぱり分からない。


 まあとにかく……強いって事か? 四倍だもんな。



「同じ方向を向いて協力する……なかなか出来ないわよ~? 若さ故なのかしらねぇ」

「は、はぁ」


「九郎ちゃんは、ちゃんと自覚すればいいだけね。自分と相手の事を、ちゃんとね」

「はい、分かりました……?」


 そう微笑む八千代さんを見て、苦笑いを返した。


 休憩時間が終わり、バイトに戻ってからも頭を悩ませる事になるのだった。


お読み頂き、ありがとうございます


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