第5話 経験豊富?な大人たち
そして八月の頭。ついに俺たちは四泊五日の予定で、県外の海へと向けて車を走らせていた。
車は二台。母である三枝子の運転する車に、父の六斗と五郎丸さんと俺。八千代さんの運転する車に春香と夏菜、アキとトーリだ。
そんな男臭い車内で俺は、オッサン二人から質問責めにされていた。
「なぁ九郎……誰が彼女なんだ?」
「はぁ? 誰も彼女じゃないよ」
「冬凛じゃないのか? あんなに仲良さそうなのに」
「違うって。友達ですよ」
オッサン二人からの質問は続く。母は興味なさそうにしているが、聞き耳を立てているのはバッチリ分かった。
「じゃあ誰を狙ってんだ?」
「だ、誰を狙ってるとかは……特に」
「冬凛じゃないのか? あんないい子なかなかいないぞ?」
「トーリが良い子なのは分かってますけど……」
ニヤニヤする六斗と、どこまでもトーリ押しの五郎丸。
誰を狙っているか、か。そういえば、みんな魅力的すぎて考えた事がなかったな。
俺が誰かの彼氏に、隣に立っている所が想像できない。みんな仲良くしてくれてはいるけど、彼氏彼女ってなるとどうなのだろう。
「俺の見立てでは……まだまだだな! この夏休みで頑張れよ!」
「ええ? そうか? 俺から見たら四人とも九郎に気があるように見えるが」
「五っちゃん。まだまだだね」
「……なぁ六斗。お前って昔からよ、色々と鈍感だよな?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ?」
今度はオッサン同士で何やら言い始めた。俺は無視して車窓から見える景色を眺め始める。
「だってお前、高校生の時……あんだけモテてたのに気づかないでよ」
「俺がモテてた? なに嘘ついてんだよ? 女友達は多かったけど」
「……その女友達の目がな? 今の九郎を見てるとお前の高校時代を思い出すぜ。ソックリだ」
「どこがだよ!? あんな可愛い子四人に囲まれるムカつく息子と、どこがソックリなんだよ!?」
なんか一瞬、ムカつく息子とか聞こえた気がするが気のせいだよな?
母の呟きが最後に耳に入ったが、その後は完全にシャットアウトして窓の外を眺めた。
「……鈍感親子。彼女達は苦労しそうね~。頑張らないと、ポッと出の私みたいな女に取られちゃうわよ」
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一方、女子ばかりの車内では。
「――――それで? みんな、九郎ちゃん狙いなの?」
「えっと、そのぉ……」
「あ、あははは……」
ストレートに聞いて来る八千代に辟易する四人。やはり周りから見るとバレバレなほどの好意なようだ。
隠している訳ではないが、いざ他人に指摘されると恥ずかしいものがあった。
「冬凛ちゃんと九郎ちゃんを見てて思うのだけど、九郎ちゃんって鈍感でしょ?」
「「「「はい」」」」
「鈍感にもレベルがあると思うけど、今の様子を見るにまだまだ気づいていないようね」
「「「「……ですね」」」」
恋愛経験がない割には、頑張ってアピールしてきた四人。
ストレートには伝えられていないかもしれないが、あんな行為なんて他の男子には出来ないし、したくない。
言葉でも行動でも好意を表しているのだが……彼は狼狽えるだけで好意には気づいていないように思える。
「でもビックリね。四人ともに九郎ちゃんの事が好きなのに、みんな仲が良いのだもの」
「彼と同じくらい好きですから」
「そうだね。みんなといるの楽しいし」
「ギスギスなんてしたくありません」
「共有財産って事にしたら、楽になりました」
「共有財産? あらあら、それは面白そうねぇ~」
女性陣の笑い声が車内に木霊する。
八千代さんは共有財産という夢物語も、茶化すことなく聞いてくれた。
しかしその八千代さんの口から、少しだけ焦りを生む言葉が発せられた。
「なら、頑張らないとね? 彼が貴方たち以外の人を選ぶ可能性もあるのだから。すれ違いや今の関係に胡坐をかいて、気が付いたら他の女と付き合ってたなんて話はよく聞くわ」
「「「「…………」」」」
「ましてや相手は鈍感君。四人には共有財産という規律というか、不文律的なものがあるのかもしれないけれど、他の子には関係ないのだから」
「「「「……はい」」」」
「鈍感君にはドストレートに、よ? とりあえずこの夏休み、鈍感なんて言っていられないほどにアピールしなさいな」
「「「「はいっ!!!!」」」」
「うふふ、青春ねぇ。羨ましいわぁ~」
どこか顔つきを変えた四人を見て八千代は思う。
間違いなく、この海旅行で……いいや、夏休みで何かが変わるのだろう。
どんな変化なのかは分からない。もしかすると、帰りの車内では笑っているのが一人で、他の三人は沈んだ表情をしているのかもしれない。
四人ともに沈んでいるのかも、それとも本当に四人ともに笑っているのかもしれない。
あの時こうしておけば……なんていう後悔の仕方だけはしてほしくない。
そうした後悔をしてきた人を何人か見てきた大人としては、炊きつけずにはいられなかった八千代であった。
そしてついに、一行は目的地の海水浴場に到着。
彼に自覚させるために、四人の少女が頑張ります。
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