第3話 四人の彼氏役
すみませんが服装は適当です
分からないよ
待ち合わせ場所でナンパされていた四人。
俺が遅れたせいでナンパされたと、ご機嫌斜めのようだ。
「もうっ! 九郎が遅いから面倒な事になったじゃん!」
「わ、悪い。でも遅いって……十分前だぞ?」
「遅いぃ! 怖かった」
「ご、ごめんな春香」
「罰として飲み物奢って」
「ば、罰って言われてもな……」
「クーちゃん。彼氏役、お願いします」
「か、彼氏役? あれって店の中だけじゃないの?」
頬を膨らませてプンスカする夏菜と春香。その隣ではどこか楽しんでいるような表情を見せるトーリとアキ。
しかしみんなの私服……ヤバいな。以前、勉強会とかで見た事はあったけど、なんだろう? なにかが……。
まずは服装。春香はロングスカートが好きなようで、今日は黒のロングスカートに、白のブラウス。長く綺麗な黒髪がヤバイ似合っている。
逆にトーリはパンツスタイル。ゆったり目のデニムパンツに、なんと黒いノースリーブ。なんてスタイル、こいつ本当に高校生かよ。
アキは女の子っぽいオーバーオール……じゃない! サロペット! そうだよ、昨日色々と調べたんだ。茶系のサロペットに白Tを合わせている。
夏菜はガッツリ脚を露出させていた。デニム生地のショートパンツに長袖シャツを捲って七分丈ほどにしている。
私服の系統はいつも通り、他に何が……あっ!? 化粧か? みんな薄っすらと化粧してるぞ!
いつもしてはいるのだろうけど、何となくいつもとは違う気がする。
【服装を褒める】
【化粧を褒める】
【全てを褒める】
ふふ。待ち合わせでのファーストコンタクト時の反応、それは完璧に学習済みだ。
四人というのが中々にハードルが高いが、全ての女性を褒めて見せようじゃないか!
「みんな、今日の感じ、すっげー可愛――――」
「――――ちょ、ちょっとちょっと!? まさか待っていた男ってソイツ!?」
こぉのモブキャラがぁ!! 邪魔をしおって! 四人のあまりの可愛さにスッカリ忘れてたぜ。
マズいぞ。一番最初に褒めるやり方しか分からない。落ち着いてから褒めるのもありなのだろうか?
「……そうよ。もいいいでしょ? どっか行きなさいよ」
「その男と……どういう関係なの?」
「彼氏よ」
「「「ちょっと! なに言ってるの!?」」」
シレっと彼氏宣言をしたトーリ。馬鹿を言うなと食って掛かる三人。
俺はトーリの彼氏役もしなければならないのか? ヤベ、ニヤけちまう。
「き、君の彼氏? なら他の三人はフリーでしょ? 俺も二人集めるから、八人でさ」
「私も彼女ですから」
「あ、あたしも彼女……かな?」
「ウ、ウチも彼女だった!」
なにを言い出した!? 当たり前のように言ったアキと、キョドりながら言う春香と夏菜。
流石にそれは無理があるだろう。いくらナンパを断るのに有効な手段だとはいえ、それじゃ嘘だって事がバレバレじゃないか。
「は、はぁ? 嘘でしょ? なんで四人も彼女がいるのさ」
ごもっともです。まぁどこかにはいるのかもしれないが、俺に四人も彼女が出来るなんてあり得ない。
「べ、別に一人って決まりがある訳じゃないし?」
「だね。みんなが良ければそれでいいと思うな」
「そういう事だから、他の子の所に行って」
「一応教えておきますと、私が最初なので正妻です」
「「「ちょっと!? なに言ってんの!?」」」
そのまま正妻宣言をしたアキに腕を引っ張られ強制連行。
慌てて他の三人も空いている片腕を巡って口論をし始めた。
中々に素晴らしい演技。呆気に取られた男は一歩も動けず、俺達はそのまま街の喧騒の中に消えていった。
――――
――
―
いつの間にか腕は解かれ、気が付けば目的地であるショッピングモールに到着していた。
ついに始める水着イベント。しかしその前に昼食にしようという話となり、俺達は何でもあるフードコートで好きな物を注文した。
「ところで彼氏くん、なにか言う事はないのかな?」
「言う事……?」
クリームパスタを食べていた春香からの問い。首を傾げつつもニヤニヤしている所を見ると、なにか悪戯心でも芽生えたのだろうか。
「そうね。私も彼氏になにも言ってもらってないわ」
冷たいうどんを食すトーリは、どこか期待しているような珍しい目をしていた。
「今日、最後のチャンスかもしれないですよ? 彼氏さん」
オムライスを食べているのは、小食のアキ。楽しそうに微笑む彼女が言う最後のチャンスとはなんなのだろう。
「もぐもぐ……ウ、ウチのカレシなら彼女を喜ばせる事なんて余裕だよね」
ハンバーガーを食べ終わり、ポテトを摘まむジャンカーの夏菜。一人だけ目を逸らしてそう言うが、お陰で何を言わせたいのか見当がついた。
【みんなの水着が楽しみだ】
【みんなの昼食が旨そうだ】
【みんなの私服が可愛いだ】
一人だけ熱々のラーメンを選択して失敗したと思っていた俺からすれば、みんなのチョイスが良く見えてしまう。
ともあれ正解は水着か私服だが……どちらだろう? 彼女達の私服は以前にも見たんだ、となれば水着の方への期待を伝えれば喜ぶだろうか?
恋愛ゲームでも、二回目以降の私服を褒める描写ってあまりない気がするし……みんな初デートの時だけみたいな?
となれば水着だ……いやいや、なんで一つだけを選ぼうとしてんだ俺は?
全部選べばいいだけじゃないか! そうする事ができるのだから、選べばいいんだ。
水着が楽しみだ! 私服も可愛いだ! そう伝えればいいんだ!
「みんな今日の私服も可愛いね。その化粧の感じも好きだし、よく似合ってるよ。そんな可愛いみんなの水着姿が楽しみで仕方ないな! 流石は俺の彼女だ!」
「「「「へっ……?」」」」
完璧っ! つい昨日、似たような事を言っていた主人公を見たばかりだ。ほぼほぼ同じセリフを言ってしまったけど。
化粧というアレンジを加えたから、これは俺のオリジナル回答。念のため、パクった訳ではない。
その時の彼女の反応も良好だった。ニコやかに微笑んで、ありがとうと……ただ問題というか、二人の関係ってすでに彼氏と彼女だったんだよなぁ。
まあ、今日は彼氏という事らしいし、構わんだろう。
「「「「あ、ありがとう……うぅ」」」」
……なんだ? 思っていた反応とちょっと違うのだが。
喜んでんのかこれ? みんなして俯いて、会話は終わりと言わんばかりに昼食を再開し始めた。
もしかして足りない……? 褒め足りない? 俺の言葉より食欲が勝ってしまったか?
【追撃】
【撤退】
やっぱり一人一人に言わなきゃダメなのかも知れない。四人で一つみたいな感覚は止めよう。
「ねぇ春香、可愛いよ」
「あ、あの……その……うん……」
「なぁトーリ、綺麗だ」
「やめて……もうやめてぇ……」
「アキ、オシャレだね」
「は、はい……ありがとうございます……」
「夏菜、似合ってるな」
「う、うん……どうも……」
結局食べ終わるまで、誰一人として顔を上げる事も俺と目を合わせる事もしなかった。
俯く四人とオロオロする男一人。周りから異様な目で見られたのは当然だった。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【男子立入禁止試着室】




