第6話 秋姫の番
今日も今日とて、四季姫と屋上へ。
こんな学校に来るのが楽しみな、幸せな一週間が過去にあっただろうか?
ないな。少なくともお昼休みがこれほど待ち遠しいと感じた事はない。
今日はアキの番。そのアキがレジャーシートを持ってきてくれたようで、いつもとは違う雰囲気が感じられた。
なんでだろう。靴を脱いだだけなのに、妙にみんなのおみ足が色っぽく見えてしまう。
「九郎くん、見過ぎでしょ」
「あ~、九郎って足フェチなんだっけ?」
「い、いやっ! そんな事はっ」
……ない訳ではないけど。なんというか、本能がそうさせるのではないだろうか。
足も一応、隠された箇所じゃん? 普段は靴によって隠されていて、そんなに見る事がない場所。普段見えない所が見えると……なんというかさ?
というか、いつの間にか俺が足フェチという事が浸透していないか? 春香めぇ……。
恨みがましく春香を睨みつけても、優しく微笑まれて返り討ち。
「……それより、秋穂ったら遅いわね」
「そうだね~……あ、来たよ」
アキは屋上に来る前、寄る所があるといって別行動をとっていた。
少しだけ遅れてやってきたアキが、ピクニックにでも行くのかと勘違いしそうなほどの、大きなボックスを持って姿を見せた。
「ご、ごめんなさい。遅くなりました」
「大丈夫だよ、そんな待ってないから」
申し訳なさそうな顔をしてやって来たアキにフォーローを入れる。
靴を脱ぎレジャーシートに上がったアキ。なんだろう、やっぱり何故かえろ……おっと、三人が睨んでいるような気がする。
そんなアキ、弁当箱というより籠から取り出したのは、小さな入れ物。
なぜそんな大きな入れ物……と聞くと雰囲気らしい。確かにピクニック感がしてワクワクしている自分がいる。
「はい、クーちゃん」
「ありがとう……って、軽いね」
軽さに軽く驚いきつつ蓋を開けると、綺麗なサンドウィッチが現れた。
定番の卵やハム、チーズ。ガッツリと肉を挟んだものや、フルーツを挟んだ見た目のインパクトが凄い物まで。
まず思ったのが綺麗。ある一種の芸術品、崩すのが申し訳なくなってくる。
「そうきたかぁ~」
「さすがパン屋の娘」
「見た目は勝てないわ」
「クーちゃん、どうぞ!」
「頂きます!」
まずは卵などの定番から頂く、うまし。
本当にピクニック気分になってきた。隣を見るとなんと! アキが水筒を取り出しお茶を注いでいるではないか!
水筒女子……いい、大好き。
「おいしい? クーちゃん」
「ああ、めっちゃ美味い! 手が止まらんよ」
「うふふ。はい、お茶も飲んでください」
差し出されたお茶を一口。なぜだ、俺は殺風景な屋上にいるはずなのに……お花畑が見えるっ!
そんな疑似ピクニックを楽しんでいた俺だが、半分以上食べ進めた所でアキが動き出した。
籠から徐に取り出したもの。それを満面の笑みで俺に差し出してくるアキ。
この香ばしい匂い、まさか……!?
「クーちゃん、これも良かったらどうぞ?」
「こ、これは……カレーパン!?」
手渡された包みから漂ってくる香ばしい匂い。それはパンというジャンルの中では、俺が一番好きなカレーパンで間違いなかった。
というか、普通に温かいのだが。ここまで保温できるものなのだろうか?
「料理部のお友達にお願いして、オーブンで温め直しました」
「なんと素晴らしいっ! い、頂きますっ!」
テンションが上がり齧り付いた。カリッサクッジュワトロォ……こんな美味いパンは他にない。
ニコニコしているアキに感想を言うのも忘れ、一心不乱にカレーパンを貪った。
「温め直しとか……ズルくない?」
「だから少し遅れて来たんだ……」
「温度ねぇ……盲点だったわ」
揚げたてとはいかないが、十分すぎるほど美味い。こんな美味いカレーパンを、学校の昼に食べれたのは俺くらいだろう。
でもこのカレーパン、ちょっと賄いのカレーパンと違うような……――――
――――カレーの味か……? なんかいつもよりマイルドな気が。
「アキ、このカレーって店のと違うよね?」
「あ、気づきました? それ、私がちょっとアレンジしてみたんです」
「あぁどうりで……これ、好きかも」
「本当ですか? また作ったら……食べてくれる?」
「もちろん! 喜んで!」
その後はアキと一緒にサンドウィッチを楽しんだ。可愛らしく両手でサンドウィッチを食べるアキが可愛くて可愛らしかった。
そしてみんな、カレーの匂いに食欲をそそられたのか、今日はいつもより早めに昼食を食べ終わった。
――――
――
―
その日の放課後。俺は、サッカー部を訪れていた。
もちろん公太に用があって来たのだが、約束なんてしていない。
なんと言うか、聞きたいのに聞きたくない。心のどこかで、会いに来たのに会わなければいいと思ってさえいるような気がする。
「――――おっ? 九郎じゃないか! どうした?」
「お……おう公太! ちょっと……近くを通りかかって」
グラウンドの端でサッカー部を眺めていたのだが、予想に反して公太は校舎側からやってきた。
部活で使用するのだろうか、スクイズボトル……だったか? あれを大量に運んでおり、隣には恐らくマネージャーであろう女子生徒の姿もあった。
「なに、サッカー部に入部でもする? 大歓迎だよ?」
「しないって」
「……あの、酒神君。わたし、先に行ってるね?」
「あ……あぁうん……その、すぐに行くから」
一足先にマネージャーはグラウンドに向かって行った。その姿を目で追う公太に、俺はいよいよ選択肢の事を話す決意をした。
「……なぁ公太、ちょっと話があるんだけど……時間をくれないか?」
「うん? 構わないけど……明日でいいか? 今日はちょっとな……」
やはり約束するべきだったか。いきなり訪ねて悪い事をしてしまった。
「じゃあ明日……放課後とかどうだ?」
「分かった。俺もさ、ちょっと九郎に……相談したい事があったんだよね」
公太が俺に相談……? どんな相談をされるんだ?
というか、公太に解決できない悩みなんて、俺に相談した所で力になれる自信がないのだが。
公太は真剣な目をしていた。もしかすると、相談とは選択肢の事なのかもしれない。
「じゃあ明日! またね、九郎」
「おお。頑張れよ、公太」
手を振り合い、グランドに駆けて行く公太を見送った。
なんて切り出そうか、なんて聞こうかと、その日は夜遅くまで頭を悩ませた。
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