第13話 体育祭・騎馬戦
男のターン
『それでは、第二学年の騎馬戦を行います。選手は入場してください』
男子のみの種目、騎馬戦。女子が戦う姿というのも見てみたい気もするが、四季姫が争い合うのは見たくない。
トーリなんかが、バッタバッタと騎馬を葬る姿が何故か想像できた。
女王に頭を垂れるかのように地に伏す無数の騎馬、それを見て嘲笑う。相手を蔑んだ高笑いは絶対王者の証。う~ん、そこまでいくとトーリより陽乃姉さんの方が似合うな。
『騎乗して下さい』
「よっしゃ! いくぜ公太!」
「振り落とされんなよぉ!」
「が、がんばろう!」
「ああ! みんなで全ての騎馬を崩してやろう!!」
公太を騎手として、馬を俺と央平と土台君が務める大将騎。大将騎はその名の通り、各クラスに一騎ある将の騎馬。配点が高い騎馬だ。
「大将は俺達が守るぜ! なぁお前ら!!」
「「「「「「おおおおお!!!」」」」」」
「ははは、よろしく頼むよ!」
仲間の騎馬が士気を上げるために雄たけぶ。こうして見ても、身長が180を優に越える公太の高さは際立っていた。
騎手の高さは騎馬戦で有利に働く。俺も央平も土台君も、公太ほどではないにしても高身長の部類、まぁバランスはそこまで悪くない。
「九郎、作戦は?」
「お、俺が決めんのかよ!? そういうのは騎手が指示を出すもんだろ?」
「勝ちに行こうよ? 俺は戦闘と警戒に専念するから、行き先は九郎に任せるよ」
「おお! 後方は俺と土台に任せろ! 俺達を引っ張ってくれ九郎、付いてくぜ!」
「うん! 絶対に騎馬は崩さないって約束するよ!」
「ま、まじかよ……」
作戦なんて言われても、六クラスが入れ混じり、騎馬だって20騎を超える。
乱戦とまではいかないが、下手に動くと囲まれる。やはり基本は仲間の騎馬に護衛をしてもらいつつ、隙を突くのが一番か。
『スタート位置について下さい……騎馬戦、開戦します――――ブゥオォォォォォォォォ』
無駄に凝った開戦の合図で、戦いの火蓋が切って落とされた。
――――
――
―
『――――E組騎馬、全滅を確認!』
「九郎! 後ろから二騎ッ!!」
「反転だ! 公太、突っ込むぜ!!」
「ああ! 任せろっ!!」
なにが作戦だったのか、始まってしまえばそんなもの関係なかった。
気づけば護衛の騎馬は他の所で戦闘をしており、俺達は動かなくても大将騎の高得点を狙った騎馬が引っ切り無しにやってくる。
囲まれないように、足を止めずに動くだけ。自ら向かって行って蹴散らせば、囲まれる事はないという単純作戦に移行。
それを可能としていたのは、並外れた運動神経を持った公太のお陰だった。
『C組大将騎の猛攻っ! F組騎馬の全滅を確認っ!!』
「「「「「おおおおお!! すげぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
「「「「「キャー!! 公太君カッコいいーーー!!!」」」」」
実況のお陰で会場は大盛り上がり。怒涛の活躍を見せる公太に黄色い声援が飛び交っていた。
くそ、俺達だって頑張っているのに……――――
「行け行けー! 脇谷く~ん!!」
「クーちゃん! ファイトですっ!!」
そんな声援の中に聞こえた僅かな声。チラ見すると愛川とアキが拳を握り締め、全力で応援している姿が目に入った。
その隣には声は出さないものの、真剣な表情をした蓮海とトーリが。二人とも俺に目を向けているような気がするのは気のせいだろうか。
『A組騎馬の全滅を確認ッ!! 残るはB、C、D! 偶然にも全てが大将騎だぁぁぁぁ!!!』
「「「「「ウオォォォォォォォォ!!!!」」」」」
会場のボルテージは最高潮。残りの騎馬は俺達を含めた三騎。
タイムアップもあったはずだが、この盛り上がりや残騎を考えると決着まで終わらせないつもりだろう。
「おいD組!! C組を潰す!! 手伝え!!」
「乗った!! 女子の声援を一人占めでムカついてたんだ!!」
目の前で他クラスの結託が表明された。なんとも卑劣ではあるが、戦場に卑怯と言う言葉はない。
勝てば官軍、どんな理由でも負けは負け。俺達は窮地に立たされた。
【突っ込む】
【逃げる】
【公太に任せる】
「まずい! ライン際に下がるぞ!!」
「「行かせるかよッ!!」」
騎馬とはいえ、三人の人間で構成された人馬なのだ。やはりどうしても反応の遅れは出てしまう。
一足遅く、頭上で戦闘が開始されてしまった。ここで強引に動いて公太のバランスを崩してしまえば、それこそ終わり。
二人からの攻撃を必死に躱す公太だが、流石の彼も表情に焦りを浮かべていた。
2対1。公太はよく凌いでいるが、攻撃には転じれない。そして混戦となれば、馬は何もできずに見ているしかない。
せめて後ろを取られないようにと、ゆっくりと後ずさる。
しかし次の瞬間――――俺達の騎馬は大きくバランスを崩してしまった。
「なっ!? やべッ!!」
「お、おい!? くそっ」
「あっ!? ちょっ!?」
「――――ッ!?!?」
「「もらったぁぁぁ!!」」
俺が慌てて後ずさったせいか、央平の反応が遅れバランスが僅かに崩れた。
傾く騎馬の態勢を元に戻そうと、崩れた側の反対側へと体を強引に捻ると、今度は土台君がバランスを崩し、あろう事か繋がれた手が離れてしまった。
片方の足場を失った公太は大きくバランスを崩し――――そのまま地面に。
――――ドスンッ!!
「――――うっ……くッ……!!」
落ちる間際に奪われた、大将を示す黒いハチマキ。鈍い音を響かせた公太の体。静まり返る生徒たち。
「こ、公太!?」
「大丈夫か!?」
「ご、ごめん!」
「……ははは、大丈夫大丈夫……悪い、負けちまった」
弱弱しい笑顔を見せる公太。完全に俺達が悪いのに、批難するどころか慌てる俺達を気遣い、敗北を謝罪する。
公太が……負けた。主人公が舞台から引きずり降ろされた。
いや、俺が邪魔をしたんだ! あの完璧な公太が、ああいう雰囲気ああいう場面での敗北など、想像もつかない主人公の邪魔を!!
「おらぁぁぁ!! どんなもんだぁぁ!!」
公太の代りに勝利の雄たけびを上げた男。始まる前から、その役目は公太ものだと疑わなかった。
さっきの選択肢、我ながら迷う事なく一瞬で選択した。
あの時突っ込んでいれば、公太に任せておけば……なんで俺は当たり前のように選んだ? 俺の選択が主人公に影響を――――
『――――騎馬戦優勝は……二年B組ですっ!!』
「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」
すでに周りの注目は勝者へと移っていた。公太の事を心配そう顔で見ている女子生徒は何人もいたが、大多数の者の目は主人公から外されていた。
「いや~惜しかったな! 来年はリベンジしようぜ?」
「そうだね! 来年こそは……! ああ悪い央平、肩を貸してもらっていいか?」
「お? おう……え、まさかお前!?」
公太の様子もすでにいつも通り。悔しそうにはしているが、央平と軽口を交わす様子も普段通りだ。
違和感を感じているのは俺だけか? 本人すらも、特に何も気にしている様子がない。
「九郎! 来年は九郎が上にあがったらどう?」
「え……いや俺は……そういうのは公太の役目だろ」
「別に俺って決まりがある訳じゃないだろ? まぁまずは目先の事か……」
「目先の……事?」
「最強リレー、頼んだぞ? 九郎」
「え……? ああ……」
ボケっとしていたせいか、この時は公太の言葉の意味が分からなかった。
少ししてその意味が分かる。公太は足を負傷してしまっていた、最強リレーには出られそうにないとの事。
……嘘だろ? 主人公の代りに脇役かよ? メインもメインのイベントに、俺かよ?
本当に、なにかおかしくないか……?
脇役がやらかして、代わりに主人公が頑張る展開がセオリーだろ? どの恋愛ゲームだってそんな感じだったのに……。
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次回
→【友のために、クラスのために、彼女達のために】




