第7話 罰ゲーム
麻雀を知らなくても大丈夫……なはずです
流局→誰も上がらず終了
親→進行役みたいなイメージ。四人の内1人、他3人は子、持ち回り
降りる→勝負すんのやーめた、逃げよ
「美味しい……八千代さん、これどうやって味を調えているのですか?」
「あぁそれは簡単よ? ポイントは――――」
「いいじゃねぇか九郎! 少しくらいよ!」
「だ、だめですって! あと数年くらい待って下さいよ!」
笑い声と笑顔が絶えない食卓に、俺は満足していた。
俺の父親は出張中だし、母親はしょっちゅう父親の元に赴くものだから、一人で夕飯を食べる事は珍しくない。
一人は寂しい……という訳ではないが、こんな風に笑い声は木霊しない。
五郎丸さんも八千代さんも、俺の事を本当の息子のように接してくれるから居心地がいい。
テーブルの向かい側を見ると、トーリも楽しそうに笑顔を弾けさせていた。
「八千代さん。今度、料理を教えてください!」
「私でよければいいわよ? いつでも連絡してちょうだい」
一人暮らしのトーリも、俺と同じように思っているのだろうか? だったら五郎丸さん達には感謝だが……いやそれより、トーリの手料理が食べたい。
モデル並みのスタイルにルックス、少し冷やげな目が大人っぽさを醸し出しているが、こうして見ると普通に歳相応の女の子だ。
子供っぽい所などは彼女に魅力の一つだと思う。子供トーリは普段と違って近づきやすいから、学園で人気なのも頷ける。
「……なにクロー。ジロジロ見て」
「いや、可愛いな~と思って」
「なな、な、な!? またそんなサラッと! やめてよもうっ!!」
慌てるトーリは見慣れたもの。五郎丸さんと八千代さんも知っているので、ニヤニヤしながらトーリを眺めていた。
大人の皮が剥がれ始めて来たぞ。子供トーリちゃんコンニチワだ。
揺さ振れ揺さ振れ、幼児退行したトーリなど相手にならん。罰ゲームは頂きだ。
「いやほんと可愛い、こんな可愛い子は見た事ない」
「やめてってばぁ!」
「よぉしよし、いい子でちゅね~」
「あたま撫でないでよぉぉ!!」
「……なぁ、お前らってどんな関係なんだ?」
「あらあら、楽しそうね~」
生暖かい目をする二人を横目に、わたわたするトーリの頭を振り払われるまで撫で続けた。
そんなトーリのテンパり具合は、麻雀が開始されるまで収まる事はなかった。
――――
――
―
――――南一局――――
「冬凛ちゃん、それローン」
「くっ……」
――――南二局――――
「ロン! タンヤオのみ!」
「ま、またタンヤオのみ……」
――――南三局――――
「きたぜ……ぬるりと……」
「死ねば助かるのに……!」
――――南四局・オーラス――――
最終局、親はトーリだが彼女はラス。トップが俺で、二位が五郎丸さん、三位が八千代さん。
点差は圧倒的。トーリが親のため、連続で上がり続ける事が出来ればトーリにも勝ちの目はあるが、かなり厳しい。
そんなポンポン連続で上がれるほど、麻雀は簡単ではないのだよ。
「さぁトーリ、ラストゲーム開始だ」
「ラスト……? 私が上がれば、まだ続くわ」
「くははは……この圧倒的ッ!! な点差を覆すと?」
「不可能では……ないわ」
まぁトーリの言うように不可能ではない、麻雀は可能性の塊なのだ。
だがねぇ……君のその状態では不可能ではないかね? 相変わらずよぅ顔に出ている、その状態ではね!
「――――っ!? ん……」
(っ!? トーリの奴、張ったようだな)
【上がられる前に上がる】
【万が一のために降りる】
【もう数巡、様子を見る】
今回は上手く自制したようだが、完璧にはしきれなかったようだ。ニヤけたぞ、いま間違いなくニヤけた。
捨て牌からは読めない。ニヤけ具合から大きな手ではなさそうだが、リーチをしないという事は……念のため、逃げる方向にチェンジしようか。
「…………」
トーリの目元がピクピク動いてやがる。テンパイは確実、だがこちらは手を崩してしまった。
降りる。再び追う事はできないし無理をする必要もない、あと数巡もすれば流局だ。
五郎丸さんと八千代さんも、降りの傾向だ。勝利を捨ててでもラスだけにはならないようにとの打ち回し。
勝った!! もう誰も振り込まん! トーリは自力で上がるしかないが、そう上手くはいくまいて。
「……や……やった……」
「おん?」
おや? トーリの様子が――――
「――――ツモっ!! す、四暗刻!!」
「なっ……う、嘘をつくなぁぁぁぁ!!」
倒されたトーリの手牌。暗刻暗刻暗刻暗刻!? アンコ四つでスーアンコ!? キャーーーー!?!?
「親の役満っ! 見たかくろーー!!」
「ばかなぁぁぁぁぁぁ!!!」
神が……麻雀の神が女王に微笑みやがった!!
「やった! やったぁぁ!!」
席を立ちピョンピョン飛び跳ねるトーリカワユス。
最終局で役満だと!? 逆転だと!? 余計なドラマティック演出しやがって! 今ごろ解説は大盛り上がりじゃ!
「えへへ、引っ掛かったわねくろー!」
えへへ!? なにこいつ可愛っ!! 引っ掛かった? 何の事だ!?
「な、なんの事じゃぁ……」
「くろー達を降ろすために、わざとニヤついたのっ!」
こ、このガキ!? 俺達を手玉に取ったと!? 四暗刻は珍しい役満ではないが、ツモらなければ成り立たない役である。
つまり、自力で上がらなければならない。簡単に言えば時間が掛かるのだ。時間を掛ければ、その間に他家が上がってしまう。
選択を誤った。あのまま突き進んでいれば、トーリがツモる前に上がれたはずなのに!
「や~いや~い! どんな気分ですかぁ? 負け犬くろーちゃん?」
「こ、子供みたいにはしゃぐな! お子ちゃまトーリ!!」
「なっ!? こ、子供じゃないもんっ!」
「もんって! もんって! もんって言うのは子供なんだ!」
――――ギャーギャーわいわい、あーでもないこーでもない
「あらあら、仲がいいわねこの二人」
「まだ続きそうだな……ちょっと酒、取って来るぜ」
「飲みすぎちゃダメよ?」
「いいクロー? 負けは負け! なんでも言う事を聞いてもらうわよ?」
「なんでもっ!? そ、そんな約束してないだろ!? デコピンだろ!?」
「はぁ? なに言ってるのよ? 男らしくないわよクロー」
あれ? そんな約束だっけ? 罰ゲームだよな!?
くっそー、勝ってトーリにスカートを履かせてやろうと思ったのに。すまねぇお前ら、負けちまった。
絶対可愛いじゃん、トーリの私服スカート。制服のはほら、制服だから。
「――――付き合って」
「……は? へ? いま、なんて……」
つ、付き合って? 告白!? マジで!? こんな美人と俺は……!
「今度、買い物に付き合って。荷物持ちよ」
「あ……はい」
期待させやがってぇ……え? マジで? それって、デートじゃないの?
それって罰ゲーム? ご褒美なんじゃ……それとも、洗濯機でも買うつもりか? それは流石に重いぜ、配送にしようよ。
その後、夜遅くまで四人で麻雀を行った。
流石に遅くなったため、冬凛の事は八千代さんが車で送って行き、俺は酔っぱらった五郎丸さんと肩を組んで、夜風に当たりながら家路についた。
トーリとの家電デート、楽しみだと思いながら。
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