第4話 秋姫・個別イベント
そして日曜日、ついに待ちに待ったアルバイトの日だ。
いや~本当にアキには感謝している。こんな都合のいいアルバイトは中々ないのではないだろうか。
基本的にはアキからの連絡待ちという形にはなるから、アルバイトというよりはお手伝いをして駄賃をもらうという感覚だな。
いいんですそれで。バイト漬けの日々を送りたい訳でもないし、あの可愛いアキと働けると言う事が何より高得点。
央平が羨ましがってたなぁ。でも絶対にこの役目は譲らんぞ。
なんて事を数十分前までは思っていたのだが……。
「……それで、脇谷君は秋穂とどういう関係なんだ?」
「ど、どういうって……クラスメイト、ですが」
「ただの?」
「……仲良くさせてもらっているクラスメイト……ですかね?」
「仲良くねぇ……」
俺の目の前で目を鋭く光らせ、俺の事を品定めでもしているかのように見ている男性。
連山木一。アキのお父様であり、俺の雇い主になった御方だ。
しかし何が気にくわないのか……いや、理由は想像がつく。愛娘であるアキに男が近づく事を、快く思っていないのだろう。
コック帽をテーブルに置くと、まぁ見事な角刈りのお父様。アキはお母様である十和子さんに似たようだ。
「これはアルバイト、仕事だ」
「え……? も、もちろん、そのつもりですが……」
「必要以上に秋穂に近づく事は許さない。仕事の事は俺かママに聞きなさい」
「はぁ、分かりました――――」
「――――ちょっとお父さん!? なに言っているの!?」
俺の返答に満足したのか、一瞬ニヤついた木一さんの顔が固まった。
可愛らしくも非難盛々の声に振り向くと、可愛らしいベレー帽と少しだけダボついたパンツを着こなしたアキが、あまり見せた事のない表情で父親を睨んでいた。
可愛い……さすがの看板娘。おしゃれパン屋さんだぁ。
「あ、秋穂? どうしてパパを睨んでいるんだ!?」
「クーちゃんに変な事を言うからです」
「変な事なんて言ってないぞ!? 仕事をする上での心構えをだな!?」
「……私、昨日言いましたよね? クーちゃんに仕事を教えるのは私だって」
「いや……でもな? 父親としてここは――――」
「――――言いましたよね?」
「うん……」
少しだけ厳つい木一さんだが、目じりが下がり弱弱しい小動物になっていた。角刈りのせいか、まったく可愛らしさはないが。
それよりアキ……こわっ。なんだろう? 陽乃姉さんとは違った恐怖を感じる。
目が笑っていないとは、こういう事を言うのだと思った。目から有無を言わせぬ殺気が木一さんを貫いていた。
「お父さん、カレーパンが残り少ないです」
「あ、はい。焼いてきます」
「カレーパンですよ?」
「あ、はい。揚げてきます」
ガタイのいい木一さんは、小さく縮こまって奥の部屋へと消えていった。
小さい背中だった。俺も娘が出来たら、あんな感じになるのだろうか?
「さて……クーちゃん?」
「あ、はい! なんでしょうか!?」
ヤバイ。さっきの殺気は消えているが、まだちょっと怖い。
「……嫌ですからね?」
「えっと……何がっすか?」
そんな捨てられた子犬のような目を向けられても、何を言いたいのか分からない。
「近づいてくれなきゃ……嫌ですからね?」
「おお!?」
あらやだなにこの可愛い子。ベレー帽で目元を隠しつつ、服の裾を摘まんでくるという最強格(俺の中で)の萌え仕草。
どうやら俺は、守りたくなるような女性が好みなのかもしれない。今の俺は庇護欲が欲々でもう欲分からない。
「うふっ……なんて。さぁクーちゃん、まずは着替えましょう!」
「え? あ……お前! またその顔っ!」
「あはは、こっちですよ~」
やられた、小悪魔秋穂か。
強いぞこの子。俺だけなのかもしれないが、男が好きな女性の仕草というものを熟知しているような気がする。
しかし勘違いは身を亡ぼす。気を付けなければ……案外、コロッといってしまうかもしれないが。
――――
――
―
「――――うん! 似合ってますよ、クーちゃん」
パン屋さんのコスチュームに着替えまして、身も引き締まる思いです。
しかしアキと同じベレー帽にダボパンなんだな。てっきり、俺は裏方の仕事に回されるのかと思ったんだけど。
表はさ、美人なアキと十和子さんでいいと思うんだよね。今日は十和子さん、いないみたいだけど。
「サイズぴったりだなぁ~帽子も。よく分かったね?」
「まぁ……見てますから」
「……見てる?」
「あぁいえいえ、なんでも……それよりクーちゃん? ご感想は?」
同じ格好をしたアキが、簡単なポージングをして感想を尋ねてきた。
すっかり忘れていた。女性の新しい一面……というか、恰好を見たのだ。
【似合ってるよ】
【凄く可愛いよ】
【写真撮らせて】
伝えなければ。届け、この想いッ!!
「よく似合ってるよ! 凄く可愛いから写真撮ってもいい?」
ふふん。最近、選択肢の扱い方が分かってきた。
似合っていると可愛いという言葉なら、俺はスラスラ言える。
でも写真を撮らせてとは言えない! しかし混ぜるとあら不思議! スラスラと言えてしまう。
小悪魔秋穂め。冗談には冗談で返してやる! 精々恥ずかしがってくださいよ……あ、キモいとか言うのは止めてね? 傷つく。
「いいですよ? 可愛く撮ってくださいね?」
「なに言ってんだよ、どう撮っても可愛いだろ…………ん?」
「本当にそう思ってくれてますか? じゃあ……どうぞ」
そう言うとアキは両手を前で組み、少しだけ首を傾げてポーズを取った。
赤いベレー帽から覗く赤茶の髪。コックネクタイが可愛らしく、微笑むアキに恐ろしいほど似合っている。
女神がおる……パン屋の女神だから、小麦粉の女神か?
「と……撮るよ? ほんとに、いいの?」
「どうぞ? あ、でも他の人には見せないで下さいね」
震える手でスマホを取り、カメラを起動。レンズ越しにアキと目が合った。
アキ……やば。マジで女神じゃん。神を写真に納めるとか恐れ多い気がする。
――――カシャカシャカシャカシャカシャカシャッ
「げッ!? 連写モード!?」
「あはは、もう……そんなにたくさん撮りたかったのですか?」
まぁ沢山あるに越した事はない。アキも笑ってくれたし、まぁいいだろう。しかし半目も可愛らしいとは流石である。
「ホーム画面に設定してくださいね?」
「え!? そ、それは恥ずかしい……」
「え~、残念です」
ちっとも残念がっていないアキを見て、また揶揄われたのだと気づいた。
しかし若干、アキの頬が赤みがかっていたのは気のせいだろうか?
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→【賄いはカレーパン】




