陽姫・酒神陽乃
おまけ
四風学園、三年A組、酒神陽乃。
アタシには、同じ学園に通っている弟と妹がいる。酒神公太と酒神月乃。家族としての仲は、まあ悪くはないと思っている。
ただそれは、姉と弟、姉と妹という関係としてというよりは、身内として仲が良いという事だとアタシは思う。
昔はこうじゃなかったのかもしれない。それこそ幼稚園、小学校の低学年までは、二人ともお姉ちゃんお姉ちゃんと甘えて来ていたような、朧気な記憶がある。
いつからか二人は、私を姉と見なくなったように感じる。いいや、私が二人の事を弟や妹と見なくなったのかもしれない。
公太も月乃も、良い子だった。言い方を変えれば優秀だった。歳がそれほど離れていないという事もあるだろうが、気づけば二人とも姉という存在を必要としていなかった。
姉離れ、弟離れ妹離れと言えば聞こえがいいかもしれないが、あまりにも早すぎた。
気づけば呼び方が、お姉ちゃんから姉さんに変わり、その呼び方には甘えなど一切含まれていないように感じた。
アタシは、姉らしいことを二人にした記憶がない。二人とも、弟らしく妹らしくアタシに甘えてきた記憶がない。
それは中学、高校になっても変わらなかった。学校内で困った事があれば、即座に姉として助けに入るつもりだった。勉強が分からなければ、完璧に教えられる自信もあった。
そんな事は、ついぞ一度も起こらなかった。
二人は優秀で、姉などいなくとも問題なかったのだろう。いつしか学校への登下校は別々となり、学校内で話す事はほぼなくなっていた。
原因は、アタシにもあるだろう。アタシのこの性格が、アタシの態度、雰囲気が二人に甘えさせるのを許さなかったのかもしれない。
甘えたくとも甘えられなかったのかもしれない。
気づけばそれが当たり前となっていた。心の底では姉としてありたいと思いつつも、二人は立派な高校生となっており、姉として過度に関わろうとするのを止めた。
諦めた……という訳ではなく、酒神家での姉と弟、妹という関係性がこれなのだ。
手が掛からない、甘える必要のない優秀な弟と妹なのだから、姉など必要ないのだと。
――――って思っていたのに、急に、もの凄く手の掛かりそうな弟が現れた。
『陽乃おね~ちゃん!』
なかなかに衝撃的だった。
たった一言なのに、アタシの奥底に眠りについていた姉を、一瞬で呼び覚ました。
どこか勝手に神格化していた、お姉ちゃん呼び。遠い昔に確かにあった、弟と妹が使う甘えたいという言葉のアピール。
今度は見逃さない、今度は逃がさない。そのアピールを、その言葉のサインを絶対に。
アタシはもう一度だけ、甘えられたい、甘えさせたい。
脇谷九朗。アタシの弟になった男よ、覚えておきなさい? イケメンかと聞かれれば……まぁ悪くはないんじゃない?
血の繋がりなど関係ない。血が繋がっていたとしても、そこに姉が存在できるとは限らないのだから。
――――今度は絶対に、姉らしい事をするわ。
――――
――
―
ば、馬鹿すぎる……手が掛かりすぎる!? ほんと、放っておけない雰囲気の男ね!?
公太という完璧な弟が近くにいたせいか、どうしても一般的な弟を公太レベルとして据えてしまっているようだ。
落ち着きなさい。公太が優秀なだけで、世間一般的な弟は九郎のような人のはずよ。
そもそも、手が掛かる弟を望んでいた――――って!! また間違ってるし!! ほんと何回言えば分かるのかしら!?
あぁほら!! ナポリタンが服に付きそうよ!? アタシが作ったナポリタンを、そんな美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけどっ!!
だ、だめよ、声を荒げては。なぜか手遅れな様な気がしないでもないけど、怖がらせてしまっては甘えてくるはずがない。
冷静に、優しく優しく…………ってほんと手が掛かるなオメー!?
ああ、でも……これなのね。アタシ今、お姉ちゃんになれている気がするわ。
……あぁん? 勘違い? ぶっ飛ばすわよ?
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