第9話 月姫参戦
脱字報告ありがとうございました
【誘惑を跳ね除ける】
【誘惑に落ち溺れる】
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頑張った。俺は頑張った。誘惑に打ち勝ったのだ。
――――ピィンポぉぉぉぉぉン――――
昨日の帰り道、凄かったんです。隣に住んでいるハズの夏姫、そして商店街に住む秋姫も含めた四人と僕は、駅に春姫と冬姫を送って行ったのです。
女の子を一人で帰らすなんて選択肢、そんなものは出てきませんでした。
えぇもちろん色々ありました。天使のような姫たちですから、私に救いの手を差し伸べて下さったのです。
明日は五人で勉強しましょうだなんて。
「――――いらっしゃい! 九郎!」
「おはよ公太。今日も世話になるぜ」
魅惑の手でした。あの手を取れば、私は極楽浄土へと導かれていたのかもしれません。
二人でも幸せ死しそうな私の事です、四人になったら……まだ生きていたいです。
甘える訳にはいかない。溺れさせられる訳にはいかない。
ですから私は、現実をしっかりと受け止め、誘惑を跳ね除け、こうして酒神公太君のお家に一人でやってきたと言う訳です。
なのにっ!! なぜこうなったのですっ!?!?
「――――脇谷先輩っ! ここ、教えてください」
「……分かりません」
「じゃあここはどうですか?」
「……わ、分かりません」
「むぅ……じゃあこれならどうですか? 保健体育ですよ?」
「……分かりますけど、それは試験科目じゃございません」
なぜ、酒神後輩はピッタリと俺にくっ付いているんだ? 発展途上の胸が、これから多くの幸せを貯め込める器が……当たってッ!?
……これはこれで素晴らしいな。
なぜ、酒神兄は何も言わないのだ? 己の妹が男にベタベタとくっ付いているのに、なぜ苦笑いに留めるのだ?
「……酒神後輩。兄に聞きなさい、俺には答えられない」
「も~、そろそろ月乃って呼んでくださいよ?」
「……な、なんだとっ!? 名前呼びだと!? そういう事だな!? 勘違いするぞ!?」
ふん、どうせこう言えば……。
「いいですよ、勘違いしてくれて」
「なにィィィィィ!?」
馬鹿な、強すぎる!? なんだ今日の酒神後輩はっ!?
やめて! 兄が見てるよ!? せっかく友達になれたのに、さっそく亀裂が生まれてしまう!!
だって主人公って絶対にシスコンでしょ! そして妹も絶対にブラコンでしょ!
なぜ他の男に……ははぁん? そういう事か。
そういえば恋愛ゲームにもあったな。なかなか進まない、兄との関係を進めようとした妹が取った行動……兄の嫉妬を掻き立てるっ!!
「月乃って呼んでください、九郎先輩っ」
「会心の一撃ッ!! 先輩の防御力を無視してんじゃねぇ!」
名前+先輩は流石にヤバイ。それなりに鍛えているのに、貫通攻撃か? あっさりと急所を突いてきやがった。
しかし俺の予測は合っているようだ。なぜなら酒神後輩の目には……そう言った色がない。
嫌々と言った感じではなさそうだけど、本当に月乃って呼んで欲しいとも思ってなさそうだ。
兄に嫉妬して欲しいのだろう。他の男に妹がッ!! うん、俺に妹はいないから分からないけど、身が引き裂かれる思いなのではないだろうか?
心苦しいが、二人のためだ。協力してあげよう。
さて、なんと呼ぶか――――
【月乃】
【月ちゃん】
【つっきー】
【月乃後輩】
――――月乃後輩……? 語呂わるっ! 月の荒廃……なんちゃって。
となれば黙って……いや、公太は月乃って呼んでたよな。であれば、ちょっと変化球が必要か。
「――――じゃあ、月ちゃん」
「……ちょっと子供っぽくありません?」
「いいじゃん可愛らしくて。だめ?」
「だ、だめじゃ……ないですけど」
ほっほっほ。赤くなりよった。中々に珍しい姿、作戦は成功だろう。
さぁ公太。貴様の妹が他の男の手によって辱められたぞ!?
さぁ怒れ! 妹は渡さんとぉぉぉ……なあぁにニヤニヤしてんだ己はッ!?!?
「あっははは。仲いいなぁ、お前ら」
「もうっ兄さん! その通りですね!(ほら兄さん!)」
(ん? なんだ? いまアイコンタクトしなかった? 気のせい……か?)
「(……はいはい)っとそうだ! 昼ご飯の食材を買って来るよ! 昼ご飯、月乃の手料理でどうだ? 九郎」
「それは楽しみだ……っておい!? 俺の勉強はどうするんだ!? そもそも月ちゃんの手料理なのに、何故お前が買い出しに!?」
「先輩、そんな楽しみだなんて……大盛にしますね」
それは楽しみ……じゃなくて!! え? 本当に行くの? おかしくない?
俺、君の友達だよね? その友達が友達を置いてどこにいくのよ? なんで君の家で君の家族と二人きりにさせられなきゃいけないのよ?
居心地悪すぎでしょ!!
「あ……あああ! 俺も行くよ! 荷物持つから! 僕力持ちィ!!」
「ち、力持ちなのは分かったけど……そんなに量、多くないから大丈夫だぞ?」
「いやいやいや! そういう事じゃない! なんで分からないの? 察してよ!?」
「……え? う~ん……」
鈍感主人公か己は!? なんで主人公ってどいつもこいつも鈍感なんだ!? え? なに? ブーメラン? 俺は敏感脇役だぞ?
「というか! 俺と妹を二人っきりにしていいの!?」
「キャー先輩ったら! 二人っきりだなんて……私、何されちゃうんですか?」
「お、お前はキャラ変わりすぎだ! いったい何があったの!?」
「と、ともかく俺が行ってくるから! 九郎、月乃の事、よろしく頼むよ!」
「よろしくお願いしますね、九郎先輩」
「……そ、それに大丈夫だ! 二人っきりって訳じゃない――――」
「――――アンタ達!! さっきから煩いわよ!! なに騒いでんの!?」
外に出ようとする公太の足に追い縋る俺と、俺を逃がさないようにと腕を掴む月ちゃん。
そして、急に開かれた公太の部屋の扉から姿を見せたのは――――月ちゃんを大人っぽくして、月ちゃんをスタイル良くして、月ちゃんのようなショートカットに、月ちゃんとは違った切れ長の目。
控えめに言って超美人。でも控えめに言っても超怖い。なんか、めっちゃ怒ってない?
「陽乃ねえ」「姉さん」
「アンタ達ね、もう少し静かにしなさいよッ!」
……ひのねえ? ねえさん? え、お姉ちゃんもいたの?
とことん主人公だな公太くん。流石にもう驚かなにィィィィィィ!?!?!?
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次回
→【公太不在の酒神家】




