第5話 小悪魔と恋愛シャイ
前回は蓮海とトーリに教えてもらったので、今回は愛川とアキにお願いする事にした。
まぁ本音は……蓮海とトーリだと……うん、捗らんもん。
幸せだけど捗らんもん。5人で行おうとも考えたが、春冬と夏秋は友達と言えるような関係でもないらしいし。
しかし5人で勉強って、ヤバくない? 横にも前にも姫がいるって、ヤバくない?
しかし人とは欲深いもので、いつかそんな事ができたらいいな~と、現実逃避していた。
そう、現実逃避していたんだよ――――
「――――クーちゃん、集中してください!」
「……いや、だってアキ、さっきからさ……」
当たってんだけど!? 多分、四季姫の中で一番大きな柔らかき物が当たってんだけど!?
お前もか!! 集中なんて出来るかよ!? と逃げるように愛川の方に目を向けると。
「ひぐっ……な、なに? 脇谷君……」
「……いや、さっきからさ……なんで近づいたり離れたりしてんの?」
「べ、別になんでもないしっ!」
愛川はなぜか顔を真っ赤にして、さっきから俺に近づいたり離れたりを繰り返しているのだ。
めっちゃ気になる。違った意味で集中できない。壊れたメトロノームみたいな動きしやがって。
それに愛川が近づいたり離れたりを繰り返しているせいか、風流が生まれて愛川からめっちゃ良い匂いが漂ってウガぁぁぁぁ!!
「ね~秋穂? ちょ、ちょっと脇谷君に近すぎるんじゃないかな~?」
「……そうですかね? クーちゃんはどう思いますか?」
「……どう、なんでしょうね? 僕としては幸せですが……」
「じゃあ問題ないですね」
「ちょちょ!? ならウチも……あーーんもうっ! むりぃ!!」
なぜか一人で身悶えしている様子の愛川と違って、アキは何とも思っていない様子。
それどころかアキは、どこか妖しげな笑みを浮かべて更に近づいて来る始末だ。愛川は急に頭を振り出したせいで、髪からいい匂いがっ!!
柔らけぇ……良い匂い……ダメだ、言わなきゃダメだ。集中できないしキャパオーバー、何か出そう、鼻血かな? 魂かも。
「……あの、アキさん?」
「はい? なんですか、クーちゃん」
「……その……ですね。気づいてないかもしれませんが……胸が、当たってて……」
「ですね、サービスですけど……お嫌でしたか?」
「いいいい嫌ではないけど! もう少し貞操観念をですねっ!」
「なら良かったです。さあ、勉強がんばりましょう」
こりゃダメだ。なぜか分からんが、アキは胸を押し付けてサービスすれば、俺の勉強が捗ると勘違いしているようだ。
まったく恥ずかしがっている素振りがないし、善意でやっている事ならば無碍にはできんが……俺も合法的に幸せだし。
仕方ない。こうなったらもう一人の集中できていない原因の方から対処しよう。
「あの……愛川さん」
「な、なな……なにかな!? 脇谷さん!?」
「……あのですね。さっきから愛川さんから、とてつもない匂いがですね……」
「へぇぇっ!? 匂いって……臭い!? ウチ、臭かった!?!?」
「いやいや! そうではなくて! 良い匂いすぎて集中できなくてっ!」
「にゃにぃっ!? いい匂い……サ、サービスでしてよ!?」
お前もサービスか!! 確かに一部の匂いにはリラックス効果があると聞くが、リラックスどころか……モンモンじゃもん!
ていうか大丈夫か愛川、顔真っ赤だぞ? 頭を振り回し過ぎたんじゃないか?
ごめん、身を削って頑張ってくれているんだろうけど、男には逆効果だよそれ。
まさか愛川も俺のためにサービスしてくれていたとは。俺の勉強のためにそこまで……二人とも方向性が間違っているとしか言いようがないが。
こりゃどうにもならんと諦めた時、救いの神が降臨なされた。
「――――あらあら、随分と仲がいいのね~?」
「あ……お母さん」
「こ、こんにちは! お邪魔してます、十和子さん!」
アキのお母さんの連山十和子さん。アキと同じように赤茶色ぎみの髪をした、アキ以上におっとりした雰囲気を纏っている美人さん。
実はここ、アキの家のアキの部屋なのだ。
初めて女の子の部屋に入ったと言うのに、緊張に次ぐ緊張のせいでスッカリ忘れていたが、ここ女の子の部屋じゃん!
お母様の登場で少し冷静になると、あの女の子らしいベッドとかが凄く気になる……ともあれ、ご挨拶をしなければ。
「お邪魔してます。秋穂さんの友人の、脇谷九郎と申します」
「あらあらご丁寧に~……ふ~ん、貴方があの九郎くんなのね?」
「え……? はい、私があの九郎ですね」
「……うふ。秋穂の事、末永くよろしくね?」
「へっ!? す、末永く……ですか?」
ど、どういう意味だと考えていると、珍しく慌てたアキが声を荒げた。
「ちょっとお母さん!? いきなり何を言うの!?」
「どうしたの秋穂、そんなに慌てて~? 九郎くんなのでしょ? 貴女の好――――」
「―――わーわーわー!! やめてよもうっ!!」
「おほほほほ……それじゃ、どうぞごゆっくり~」
口元に手を添えて笑う十和子さんは、焼き立てのパンと飲み物を置いて部屋を出て行った。
すぐ隣にいたアキはいつの間にか距離を取っており、珍しくも顔が真っ赤に染まっている。プシューっといった音と共に、煙が上がりそうなレベルだ。
……照れ秋穂可愛い。十和子さんの冗談に顔を赤くしたのだろうが、アキがここまで恥ずかしがっている様子は初めて見たな。
大方、アルバイトの方を末永く~とか、そんなつもりで言ったのだろう。
「わ、脇谷君! 秋穂はちょっとショートしちゃってるみたいだから、今の内にウチが英語の勉強見てあげるよ!」
「い、今の内? まぁ……じゃあ、お願いしようかな」
「英語担当は荒木先生だからね! 英語の赤点だけは回避しないとっ!」
「せ、せやね! 英語だけは何が何でも……!」
英語担当は荒先。あの人の教科での赤点は、マジで洒落にならん。
「……で、では、しし、失礼して……みゅう……」
「愛川!? ち、近いぞ!? てか当たってる!!」
「サ、サービスでござるっ!! Are you ready!?」
「ノォウ!! おい!? 顔真っ赤だぞ!? 無理してないか!? そこまでしなくても……」
「だい、だいじょうびゅ……!」
その後、俺は彼女達の旺盛なサービス精神のお陰で勉強が……捗るかいっ!!
まったくもって捗らなかった! このままでは本当に全教科赤点もありえる!
いやありがとうだけど! 本当にありがとうだけど! 焼きたてのパンめっちゃ美味しかったけど! カレーパンだったぜ!
いよいよマズい。この二日間の事を思い出し、黙って一人でやるを選択するべきだったのかと思いながら家路についた。
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次回
→【主役級の戦場】




